第20話 彩は、大変に気分が、心地が良いのだ(2)

 夫の顔色、様子ばかりを窺う生活を続けている自分自身の姿ある。


 その事に彩は、ふと気がついてしまった。


 淳史の彩への大袈裟過ぎる程の御機嫌窺いの笑みを凝視してね。


 だって彩自身は、だけではないか?


 妻達は元々、蝶よ、花よと、幼い頃からお姫様として育てられた筈。


 そう、女王様、お姫様。


 男達を目上の立場から見下し、侮れる立場に居た筈だったのに。


 妻達は、ふと気がつけば、いつの間にやら奈落の底へと。


 男達と立場が逆転。


 毎晩畏怖しながら夫の帰りを待つ立場。


 そう、夫が他所で、自分以外の女性と逢っていないだろうか?


 浮気をしていない?


 自分は捨てられない?


 自分は夫に飽きられて、捨てられてしまったらどうしようかと。


 毎晩こんな嫌な事ばかりを思案、思いにふけながら。


 毎夜夫を待ち続ける生活を余儀なくされる生活を彩は、結婚をしてから数年耐え続けていたのだ、だけではないよね?


 彩、妻達の夫への御機嫌窺は。


「只今ー! 帰ったよー!」と。


 夫が明るい声音で呟いてくれれば、それで終わると言う事はない。


 深夜の夫婦の営み、交わりの中でも、妻達の夫への御機嫌窺い、奉公、尽くしは続いていく。


 だって自分を養ってくれている雄を他の雌に寝盗られ、妻達は捨てられる訳にはいかない。


 だから妻達は、夫達が大変に傲慢な態度。


 早く夜伽をするならすれば!


 俺は明日も仕事だから眠たいのだ!


 だから、早く終わらせろ!


 と、言わんばかりな態度で、大の字で寝台の上で転がっていようとも。


 妻達は、その屈辱的な態度に耐え忍びながらも伴侶、雄の御機嫌窺いをしないと放置され、捨てられる危険性があるから。


 夫が気だるげ、傲慢な態度。


 そう、何度も生欠伸を漏らしながら気だるげに、寝台に横たわる夫に対して、自らが馬乗り、艶やか、優艶に腰を動かし続け。


「あなた~! 愛しているわぁ~!」


「他所で浮気をしないでね~」


「私を捨てないで~」と。


 妻達はいつの間にやら、嬌声交じりの御機嫌窺いをするしかない立場。


 そう、屈辱的な惨めさを妻達は味わい続けるしかない立場へと、知らぬ間に変貌をしている。


 また、その、変貌、夫への御機嫌窺いと言う奴も彩や妻達も含めて、夕刻から睡眠をとる迄の時間で終わりではない。


 朝も早くから、夫、子供が未だ夢の中にいようとも、家族内で一番、最初に起き、心の篭ったお弁当作りや朝食の準備。


 夫への御機嫌窺い。自分は凄い! 素晴らしい妻でしょう! とね。


 夫に再認識してもらう為に続けていく。


 今晩も夫達が仕事を終え、帰宅の最中に余所見、寄り道。


 自分以外のメスを探索、貪るような事をさせない為に妻達は、早朝から夫の御機嫌窺いを実行、努力をしないといけないのだ。


 妻と呼ばれる女性ひと達はね。


 だから彩や妻達は大変、気苦労が絶えないからね。


 だって彼女達が早朝、眠たい目を擦りながら作った心の篭った手作り弁当を夫達が見ても、心から歓喜! 大変に感謝してくれたのは、新婚当初ぐらいでね。


 夫婦生活の方も数年も続き。


 その後も年月が長くなればなる程。


「あなた~、今日のお弁当は、どう?」と。


 彩が主様へと問いかけても。


「うぅ~ん。どうって。彩、美味しそうだね。ありがとう」


 まあ、このように気の無い返事、回答をくれるのみ。


 昔! 過去のように!


「凄く美味しそう!」、


「彩! 朝早くから起きて、僕の為に、こんなにも美味しいお弁当を手間暇かけて作ってくれてありがとう。彩! 愛しているよ! 大好きだ!」


 と、歓喜しながらの優しい言葉を主達は、妻達にくれなくなるのだ、どころでないか?


 主達は自分達が出勤前だから忙しい。


 妻達が嬉しそうに差し出し、手作り弁当に対しても、見向きもしないでね。


「あああ」と、声を漏らすのみなのだ。


 だから彩は、淳史の大袈裟過ぎる程の御機嫌窺いが、大変に心地良くて仕方がないのだ。


 ◇


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