第16話 あのひととの出逢い! 

 最初の彼からの、彩への優しい台詞はこうだった。


「どうですか? 出ますか?」とね。


 彼は優しい笑みを浮かべながら呟いてきた。


 でっ、その都度彩も。


「いいえ」と。


 無感情に首を振る。


「はい」と


 頷くだけだった。


 後の彼女の本当の夫。


 彩自身が、今迄の余生で、一番愛おしく思い。


 愛し、尽くした男性、淳史に対して彩は素っ気ない様子で振る舞う。


 それでも淳史は、会社には内緒の時間つぶしに使用をしていたパ〇ンコ店の、お昼時、午後の時間帯に良く会う。


 逢えば彼は、彩へと優しく微笑みながら挨拶をしてくれる、だけではなく。


 淳史は、自分が先にパチ〇コ店へと入店している時などは。


 パ〇ンコの玉の入ったケースを持ちながら佇み、自身の頭と目をキョロキョロと動かし、何処に座り、プレイをしようかと、思案をしている彩に対して、自身の手を振り、手招き。


「君、ここにおいでよ。今迄、ここで打っていた人がいたから。多分そろそろ掛り。出るとは思うよ?」と。


 淳史は彩に微笑みながら優しく手招きをしてくれる。


 だから彩自身も、淳史の手招きに誘われ。


 そう、まるで、蜘蛛の赤い糸で、自身の小指を引っ張り、惹かれるように、淳史の傍に寄り。


「本当によろしいのですか?」と。


 彩は首を傾げながら問えばね。


「どうぞ。どうぞ、使ってください」と。


 淳史は、いつも明るく、優しく、紳士的に告げてくれるから。


 彩自身も最初の頃は、夫以外の男性から安易に声をかけられ、淳史に対して警戒をしながらガード、心の壁を張り、堅苦しく、他人行儀で問う。


 それでも淳史は、いつも彩に対して、怪訝な表情をする訳でもなく。


 彼はいつも満面の笑みと、優しい口調、言葉で綾に接してくれるから、段々と気を許していく彩だったのだ。



 ◇




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