敗戦国の令嬢でしたが少々事情がありまして…うっかり皇太子妃になるようです

椿あおい

第一章

プロローグ

 ある日突然、王都は戦火に包まれた。


 小国、インレース王国は、隣国の大国であるヴァルティア帝国に攻め込まれ、わずか二十日も経たぬうちに呆気なく城が落ちた。


 戦火の発端については、どういう訳か明らかになっていない。

 元々はインレースの国王がヴァルティアに対して何らかの地雷を踏んだのだともっぱらの噂だったのだが、真相はもはや立ち上る黒煙の中である。


 戦力などほとんど持ち合わせていないインレースに対し、ヴァルティアは戦争大国。

 誰が見ても国力差は歴然で、その上、ヴァルティア軍を率いていたのは冷酷無慈悲で名高い帝国の第一皇子だという。

 黒の軍服で馬を駆り、戦場を走り抜けるだけで死体が増えると揶揄される様は、折々死神と評される程であった。


 家臣を集め軍を組むどころか、開戦の報も国内に行き渡らぬ程の神速で進軍してきたヴァルティア軍に、インレースの軍は手も足も出せず、それどころか、敗戦が濃厚と見るや早々に白旗を揚げる領地すらあったぐらいだ。


 しかし、それが救いといえばそうなのかもしれない。

 なんといったって国内にほとんど被害を出さないままに終戦したのだから。


 当代のインレース王はお世辞にも賢王とは言えず、そのまま王位についていれば国力は下がる一方と見られていた。

 無駄に抵抗せず、素直に王城を明け渡した事が最大の功績とは、なんとも皮肉な話しである。


 ともかく、地図上から独立国として姿を消すことになったインレースは、ヴァルティアの属国として新たな王のもとに生活を始めることが決まったのだった。

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