第4話 忘れてた。恋なんて……。
「ごめんなさい。私、もう帰らないと」
ちりこはすこし切なかった。
先生に抱きしめられて、突然の告白に胸が踊り始めたことに気づいてしまったから――。
「俺はまた会いたいです。いつ会えますか」
そう言われて、ちりこは勝也先生の腕の中がなんだか居心地が良かったから、……また会ってもいいかななんて思ってしまったけど。
(私まだ結婚してるし。一応の旦那がいるんだよ)
なにより子供達の空手教室の先生なんてまずくないかな?
理性がはたらく自分がいる。
ゆっくりと勝也はちりこを抱きしめている腕をゆるめると体を離す。
彼はまっすぐにちりこを見つめた。
勝也はジャケットの裏ポケットから名刺と万年筆を出してさらさらと名刺の裏に美しい字で書き上げ、ちりこに名刺を握らせた。
「俺の携帯電話の番号とメールアドレスです」
「あっ……。えっ、えっと……」
「いつでも電話してください」
ドキッとする。
勝也先生の手は温かくて大きくてゴツゴツしている。
男らしい手だと思った。
懐かしい感情がちりこの心の奥の方から蘇る。
チクリ。
胸に刺さっていく。
恋心。
ジワリと溢れ出してくる。
まだあったんだ。
男の人を好きになるかもという気持ち。
異性の誰かを愛したい気持ち。
愛する我が子たちに捧ぐ無条件の愛とは違う種類の愛情。
久しぶりのときめき。
キラキラと――。
それは旦那に浮気されて仕事も決まらず悲しくて悲しくて灰色だった心にそっと光っていた。
抱きしめられて。
躊躇い戸惑う気持ちごと、もう一度抱きしめられたいと思ってしまっている。
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