第5話 お祝い。

メロはふて腐れた表情で「もう」と言ってから「もう少し付き合ってくれてもいいのに」と可愛らしい仕草で甘える。


「いやいや、十分付き合ったよ」

「足りないよぉ」


「じゃあまた今度子供達とメロと戦おうか?」

「ママとがいい」


「…それ、この前やってヨシさんとスードさんとセルースさんとエクシィさんに怒られたよね?」


先日、子供達が孤児院で勉強をしている間に少し離れたところでアクィのお願いという形で模擬戦を行ったが天変地異のような超常の戦いになってしまった。

降り注いだ雷で大地はえぐれ、燃え盛る炎で全てが焼き尽くされた事でヨシからは「…もう二度としないでください」、スードからは「なあ、別の場所でやれって」、セルースからは「バカじゃねぇの?何やってんだよ」、エクシィからは「お前達は何がしたいんだ?世界を壊したいのか?」と怒られた。

しかもタチが悪いのは4人ともお願いをしてきたアクィではなくミチトに注意をした事だった。

おかげでメロもアクィも懲りていない。


「モバテ様にお願いして場所借りるもん」

「…貸してくれるかな?」


「ダメならサルバンでやろう?」

「まったく…、いいよ。ヒノさんの説得はしてよね?」


ミチトは仲睦まじくメロを抱きかかえて雑談を始めるが足下で延びているナハトを心配してナハトの彼女が駆けてくる。

騎士団員だからか肩で切り揃えられた髪が可愛らしい少女だった。


「あ、ナハトの彼女さん?」

「…はい。ナハトのお兄さんなんですか?」


ミチトは「まあ一応、今日含めて人生で3度しか会った事が無いけどね」と言い、メロは「私は記憶をなくしたときに唯一覚えていたのがナハトの事でナハトの幼馴染です。よろしくお願いします」と挨拶をする。


「ナノカです。よろしくお願いします。ナハトはお兄さんがいて凄い人でお兄さんに恥を書かせたくないって努力してました」

「そうみたいだね。3度しか会ってないのにね」


「まさか闘神様だったなんて…」

「ナハトには俺の名を使わずに名を馳せたらまた会おうと言ったから律儀に守ったんだね」


今も延びているナハトを見ながらミチトは感慨深い顔で話をする。


「パパ、この後はどうするの?」

「まあナハトには少し用があるけど彼女さんと先に話すかな」


ミチトはメロを降ろすとナノカに「貴女はカラーガの生まれですか?」と聞くとナノカは「はい」と返事をする。


「ナハトはこの先カラーガを離れますがどうするつもりでした?」

「退団まではカラーガ騎士団で勤め上げて、ナハトのところに行ければと思ってました」


「ご家族は?」

「居ますが一度きりの人生だからと許してくれています」


ここである程度の方向性が決まり、メロも「パパ」と言う。

「わかってるよ」と言ったミチトは「サンクタさん、この子も連れて行きますね」と言うと観覧席のサンクタは「……わかりました。よろしくお願いします」と言った。


ミチトは笑顔でナノカに「じゃあ王都第三騎士団で頑張ってください」と言い、超展開についていけないナノカが「はぁ?」と聞き返す。

ミチトは読みが外れたと思いながら「あれ?嫌ですか?」と聞いてしまう。


「いえ!その…いいんですか?」

「ええ、弟をよろしくお願いします。ただ向こうでも俺の名は出さないで頑張ってください」



ミチトはナハトを治してから起こすと「お疲れ様」と声をかける。

「手も足も出なかった」

「仕方ないよ。まあ第三騎士団に入ったらシヤ達とイイヒートさんにしごいてもらうといいよ。イイヒートさんはサルバンのしごきも耐えられる男で凄いからね」

ナハトは「うん。頑張ります!」と言って立ち上がる。


「で、お祝いと言うかだな…。ナハト、君は腰が悪いよね?戦ってて急旋回時に引っかかってたよね?」

この言葉にナハトは申し訳無さそうに「…お兄さんに貰った四つ腕魔神の剣で素振りしてたら腰が悪くなったんだ」と言う。


「…え!?兄貴のシャゼットは?」

「あれはお兄さんがくれた剣じゃないから…」

あの重量級の剣を何歳から振るったかわからないが正直ありえない訳でミチトは「マジか」と言ってしまう。


「パパ、だからナハトは両手剣を使うのかもよ?」

「えぇ…」

「うん。重い剣じゃないと物足りなくて…」


ミチトは失念していた。

正直ナハトはすぐに剣の練習を諦めると思っていたからこそ四つ腕魔神の剣を渡していた。

まさかそれで腰を悪くするなんて思ってもいなかった。


「あー…。ナハト、腰を治してあげるから王都でシャゼットと後はロングソードを覚えるんだ。まだ今のナハトに四つ腕魔神の剣や今の両手剣は重すぎる」

「…うん。お兄さんが言うならそうするよ」


「じゃあ治すか、ナハト寝て」

有無を言わさずにナハトを寝かすと痛覚を奪って一気にアイスバイトで骨をバラバラにしてから正しい位置に戻すとヒールで治す。



「ナハト、自分のタイミングですぐに起きて」

「ん…」


眠っていたことすら気付かないナハトは「腰はどう?」と聞かれて、右左と数回捻ってみて「痛くないよ。引っ掛かりもない!」と驚きを口にする。


「まあそれはお祝いひとつ目だ」

「ひとつ目?」


「ふたつ目は彼女さんを第三騎士団に行けるようにするから2人で頑張るんだ」


この言葉にナハトは驚いて横に居るナノカに「え?ナノカ?」と聞くと頬を赤くしたナノカが「うん。闘神様がお許しをくださったんだよ」と嬉しそうに言う。


「お兄さん?いいの!?」

「いいんじゃない?俺別にそこらへんの権限なら少し持ってるし、サンクタさんもいいって言ってくれたし」


ナハトは嬉しそうにナノカの手を取って「良かった」と言った後でサンクタに頭を下げて礼を言う。

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