不幸を呼ぶトラック

爛夢瀧

不幸を呼ぶトラック

 ぼくは小さなトラック。



 異世界転生界隈でたくさんの人をひき殺している悪いトラックだ。


 でも、ぼくはひきたくてひいているんじゃない。


 なのに、なぜか、沢山の人たちが自分から飛び込んでくるんだ。


 ぼくは本当はひきたくないよ・・・




 ぼくの最初のご主人は、独立して一人で運送会社を立ち上げたおっちゃんだった。


 ぼくは数えきれないほど、おっちゃんと旅をした。


 数えきれないほど、おっちゃんと夜をすごした。



 ある年の、クリスマスが近づいてきた日、徹夜で走りとおした夜、おっちゃんはいった。


「今年もたくさんの誰から誰かへのプレゼントがのっている。俺たちは人の幸せを、人の想いをのせて走るんだ! こんなうれしいことはないぜ」


 また、大きな地震があったあと、たくさんの荷物を載せて、がれき道をすすんでいるときおっちゃんはいった。


「早く、届けてやらなきゃな。今の時代、ひもじい思いをするのは絶対間違っているんだ」



 おっちゃんとぼくは、この仕事に誇りを持っていた。


 そしておっちゃんは、いつもぼくをぴかぴかに磨いてくれた。



「お前がいてくれるから、俺は幸せだ」



 でも、ぼくとおっちゃんの旅は、ある日突然終わった。



 急に飛び出してきた猫を避けてハンドルをきったら、その猫をおいかけてきたお兄ちゃんを、ひいて・・・そして殺してしまったんだ。


 おっちゃんは、そのお兄ちゃんの家族に数えきれないほど頭を下げて、そして持っている財産をすべて処分して、できる限りのお金を作って、その家族の人にお金を払って、それでもつぐなえないといって死んだ。



 ぼくは、おっちゃんが死ぬ前の夜、こういわれた。



「ごめんな・・・もっとお前と人を幸せに・・・幸せにするために旅をしたかったぜ・・・」



 おっちゃんの葬式が終わった後、ぼくは、大きな運送会社に引き取られていった。



 ぼくに乗る人は、まちまちになった。



 そして、ある日、また人をひいた。


 今度は、飛び出してきた女の子を突き飛ばして助けた男の子をひいて殺してしまった。


 その時にぼくを運転していた、あんちゃんは、ノイローゼになって会社を辞めた。



 そして、またある日、人をひいた。


 今度は、坂道でお母さんが手を離したベビーカーを追いかけてきたお姉さんをひいて殺してしまった。


 その時にぼくを運転していた、おじちゃんは、酒に入り浸って会社を解雇された。



 そして、1年後その運送会社は倒産した。



 ぼくは、また他の運送会社に売却され、そしてまた人をひき、また売却され、また人をひいた。



 ぼくは、いつのまにか呪われた不幸を呼ぶトラックと呼ばれるようになった。



[もうぼくは人を不幸にしたくありません。神様、どうかぼくを、あの世に連れていってください]



 いつのころからか、ぼくは毎日そう願うようになっていた。



 ・・・おっちゃん・・・おっちゃんに会いたいよ・・・



 そして、とうとう神様は、ぼくの願いをきいてくださった。


 売られるたびに、値段が下がっていったぼくは、最後はスクラップ工場に運ばれた。


 いろいろな部品を取られ、そして、工場の敷地内のスクラップ置き場に放置されたあと、ぼくは、静かに眠った。


 雪の降る、とてもとても静かな夜だった。



 [ああ・・・もうすぐ・・・もうすぐおっちゃんの所にいけるんだ。もう人を不幸にしなくて済むんだ・・・]



 雪の中にいたはずのぼくは、気がつくと、花畑にいた。



 向こうには、なつかしい・・・おっちゃんがいた。



 おっちゃんはぼくにかけ寄りこういった。



「ごめんな・・・ごめんな・・・おっちゃんがあんな間違いをおかしてしまったばかりに・・・お前にはつらい思いをさせてしまった」


 ぼくは、いった。


「そんなことはないよ。ぼくはおっちゃんと人の幸せを運ぶのが大好きだったんだ。ぼくは、おっちゃんがいたからトラックに生まれて幸せだったんだよ。おっちゃん、またぼくと一緒に生まれ変わって、一緒に人の幸せを運ぼうよ」



「・・・いいのか・・・いいのか」




 朝の光が、一面の雪を輝かせたとき、ぼくは最後の夢を見た。



 ぴかぴかに磨かれた僕はおっちゃんと、いっぱいのランドセルをのせて走っていた。


 たくさんの子供が喜ぶ顔を想像しながら・・・

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不幸を呼ぶトラック 爛夢瀧 @yumemidareru

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