第12話 謎の石 2
ガザ、ザザザザ!
砂地を大勢が踏みしめる音がしてきた。
一緒に行く分岐点に向かう途中、これから砂漠地帯に入る寸前で複数の男たちに囲まれた。
「一回目の人たちだ、また来たんだ」
殺気は前よりも膨らんでいるというのにオリビエはふざけたことをいう。
「諦め悪いわね」
カーリーもため息混じりでリーダーの男を見ていた。
「あれが親玉? ガラの悪いやつらに囲まれていて一人浮いているみたいだけど」
隣に来たハスラムに耳打ちする。
「確かに」
男たちに守られるように立っている品の良さそうな男に視線を移した。
力づくで何をカーリーから奪おうとしているのだろうか。
「盗賊というよりは、魔法使いぽいな」
見た目でだけの判断は、一番やってはいけないことだが。
「そんな護衛を雇うとは、まだ私の要求に応える気はないのか? 悪い話ではないだろう」
リーダーは、抑揚の無い声で話しかけてくる。
「この二人は護衛ではないわ。途中まで一緒になっただけ」
まず答え、男を鋭く睨み付ける。
「テリウス! オマエの話など聞く耳を待たぬ!」
物凄い剣幕で怒鳴った。
「まだそのようなことを。どうしてオマエが今、こんな目に遭っているか考えてみろ」
カーリーの剣幕など気にも留めずに穏やかな口調で続ける。
「理解のない、古き常識を優先させるものたちのことなど、切り捨てればいい」
「今回のことは全てオレが悪い。だからオレ自身でけりをつける!」
乱暴な言葉に低い声で怒鳴り返した。
「うわぁ、カーリーまずいね」
目つきがきつい。
日頃穏やかな雰囲気の者ほど怒りで豹変したら怖いことを知っているオリビエは戸惑った。
危険レベルな変わりようだった。
相当な因縁があるのだろう。中途半端に関わっていいものかと。
「オレの近くに来い」
成り行きを見守るしかないが、不意の攻撃に備えるハスラムはオリビエを手元に寄せた。
「悪いけど二人、手伝ってくれる」
カーリーが剣を鞘から抜き頼んできた。
野次馬が多く、魔法戦で術が飛散して周りに被害を出すことを避けたいようだ。
「ハスラムは私を襲うやつらを確実に少人数ずつ仕留めてね。オリビエはハスラムの邪魔させないようにしてね」
二人は頷いた。
「んーじゃあ、私はあれを片づけるわ」
語尾が出る頃には、剣をテリウスに投げつけていた。
ぐさりと右太腿に刺さる。
「痛そう」
「こら、さっさとやれ!」
気がそれているので注意する。
「さてと、どうしょうかしら」
痛みで動けないテリウスに刺さっている剣の柄に手をやる。
この頃になると、他の襲撃隊は全滅していた。
「抜いたら血が噴き出るわね」
人の悪い笑顔とはこれという表情だった。
「諦めてね。私は妖精界を裏切る気はないから」
ウインクを付け引き抜く。
「痛そうね。止血だけはしてあげる。ああそれと、」
カーリーは激痛で意識を失う寸前のテリウスに伝える。
「アレは力ないものには手に負えないわよ」
カーリーから奪おうとするもののやっかいさを耳元で。
「友達かなのかな?」
気を失っているテリウスに応急処置をした後、騒ぎを起こした現場から目的地へと駆け足で移動していた。
村の自警団が来るとややこしい。
「そうなんだろう?」
きっと何度も襲ってきているだろう相手に致命傷を与えたが治療も施す。
前を走るカーリーに問うようにハスラムはいった。
「いや、それよりもカーリーって妖精族なの?」
さっき、他大勢をのしてカーリーに近付けば、とんでもない言葉が耳に入ってきた。
「そうよ」
あっさり頷き、髪で隠していた妖精族特有の耳を見せた。
「え!」
これに訊いたオリビエの方が戸惑う。
今この大陸では、人間以外の種族はほとんど姿を見せなくなっていた。
百年前のこの大陸の支配者、紫の一族が滅ぼされてから。
その頃までは、他種族も住んでいたが、この戦いで人間の愚かさなどに嫌気をさし姿を消したといわれていた。
「怖い?」
「いや、オレはなんとも。でも世間は……、隠した方がいいと思う」
偏見を嫌うと思っていたオリビエの態度がカーリーには意外だった。
「いや、すごい魔力があるだけで苦労している奴がいるからさ」
ちらりハスラムを見る。
魔力が無い者からすれば、魔法を使える者は脅威でしかない。
笑顔で、行動無くして、呪文一つで人を害せる者だと。
この偏見、紫の一族が魔力を盾に恐怖政治をしていたからだった。
そして妖精族も魔法を使える。
「ああハスラムか。けど、顔がいいから許されているんじゃあない?」
「え! そんなのあり?」
妖精族の常識は人間とは違うのか。ずるいと思う。
「面白いね、オリビエは」
ハスラムに対する世間の反応からの態度だったと納得し、冗談で返すが当のハスラムは緊張した表情で注意してきた。
「動いた方がいいぞ」
駆け足が早歩きとなり立ち話になそうな二人の背を叩く。
のばした連中が起きるとやっかいだと。
「私もいい?」
カーリーは走りながらオリビエをじっくりと見て訊く。
「オリビエって女の子よね」
「いっ!」
何を今さらとオリビエはカーリーを見た。
「どうしてわざと乱暴な言葉とか振る舞いをするの? あなたかわいいのに」
「へぇ、カーリーはオーリーが女だって見破ってたんだ」
ハスラムが感心していた。
よくぞこの短期間でと。
オリビエも第一印象は、元気な美少年。
亜麻色の髪は短く、男っぽい戦士姿に行動は雑、声も女の子にしては低いので、見分けるのはかなり難しい。裸にしなければまず無理なレベルだった。
「ハスラムまで! いい、これは世間でなめられないようにしているの」
真面目な本当に真面目な顔をカーリーに向けた。
「男でも女でも強い者は強いわよ。下手に小細工するほうがなめられるから。それに女っていうのも武器よ」
それを利用しているカーリーだ。
「オレの経験ではそれはない!」
傭兵になりたての時に色々と学んだ。
女は損だと。
だが、女性でも腕や見識があれば大の男よりも強い時がある。
特技を得て活かせばいい。
ならば、まだ見た目を誤魔化させる今の間に腕と見識に特技を身に付けて、どうがんばっても女にしか見えなくなったら女傭兵らしくなろうと考えていた。
「そう? オリビエはいい特技を持っているのに」
オリビエの無邪気さや人の好さは、つい甘やかしたくなってしまうもの。
本人は他人に甘えるということが嫌なのだろう。惜しい。
「まあ、私はそんなオリビエも好きだわ」
今も不機嫌になり両頬が少し膨らんでいる。
無条件にかわいいといいたくなるこの仕草も気に入っていた。
「何なの? 何がいいたいの? ってーか、さっきの連中知り合いなの?」
もうこのことには触れられたくないと話題を変えた。
「テリウスは、同郷の元仲間」
「裏切るとかいってたけど、相当まずいことやったんだろう。もう一組別に襲ってきている連中もいたし」
「そうね。両方とも目的は同じだと思う。黒いのは全然知らない」
「オレたちは迷惑というか、そういった意味でないから。気分を悪くしないで欲しい。これから訊くことに」
もうさっきの連中が追っても来ないと判断した三人は、歩くようになっていた。
ここまで一緒という分岐点も見えてきている。
ハスラムは意を決した。
「何をやったんだ? よければというか話して欲しい。もうオレたちも関わりが無いでは済まないと思うから」
かなりいいにくいことだと思うが、遠慮している状況ではない。
「そうなるわね。ごめんなさい」
「いや、最初にカーリーが距離を置こうとしたのにオーリーが無理矢理に付いて行ったから、どちらかといえばこちらが悪いから、気にしないでくれ」
二人の視線がオリビエに注がれる。
これにハハハと乾いた笑で反応したが、二人の視線が痛かった。
「うー、ごめんなさい」
二人に頭を下げた。
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