第7話 謎の旅人



 宿が近くなってくると灌木や草が多くなってきていた。

 歩きやすくもなっている。

 何故か暑さが少しマシになったように感じた。


「また襲われているね」


 あの旅人が殺気満載の団体に囲まれていた。


「どうしたいんだ?」


 珍しく飛び出して行かないのが不思議なハスラムだった。


「さっきの連中と違うね」


 遠くからでも発する殺気というか動きが分かる。


「全身黒装束だ。この暑いのに」


 見ているだけでも不快だった。やっと体感が緩んだのに。


「でも、腕はさっきよりはよさそうだね」


 距離が離れているが、分かる。

 訓練された者たちだ。


「暗躍専門みたいなのに太陽の下で堂々と動いてる。あのお姉さん、相当いけない人なのかなぁ?」


 人知れずに動く連中が人目も憚らずにいるのだ、関わっていいのかさすがのオリビエも悩んでしまう。


「って、もう終わっている」


 今回も一瞬だった。


「かなりの魔術の使い手なんだろうな」


 頭上に閃光が現れた瞬間、ドカン! と轟音がし、人が倒れていた。


「またなの?」


 一人、二人と倒れている黒ずくめを数えるオリビエに不機嫌な声が聞こえてくる。


「野次馬なだけ」


 へへっと笑い、近付く。


「お姉さん、強い!」


 数歩前で止まる。

 やっと全身をじっくり見ることができる距離で。


「大きいね」


 ハスラムも背が高いがそれよりも高い。

 オリビエも女性では高い方だが、二人に囲まれるとチビでしかない。


「今回もさっさと移動したいんだけど」


 倒れている隙にここを離れたいと歩き出した。


「この先の村で夜を過ごすのだったら、私に関わらない方がいいわよ」


 付いてくる二人にはっきりと言う。


「襲われている身だからね」


 自嘲しながら。


「声も低いよな。……、お姉さん、男の人なの?」


「人の話、聞いている?」


 警告のつもりだったが、小さな方は全く関係のないことを訊いてくる。

 呆れ振り返ってしまった。


「誰かに狙われているんだろう。それは分かってる」


 自分への答えはと、オリビエは目で訴えた。


「まあ、そうだけど」


 これに旅人は苦笑してしまう。

 見ず知らずの者が、二度も暗殺集団らしきものに襲われている現場を見て話しかけてくるなど、豪胆なのか何も考えてないのか。

 運が悪ければ仲間とみなされて、共に襲われる可能性があるのに。

 

 思わずもう一人を見た。

 常識的な判断ができそうだと。

 戸惑っているが、連れがこれ以上近付かないように背後から襟首を掴んでいた。


「こいつは野次馬根性のみで動いているから……」


 そうなのだが、いつもと違っていた。

 見た物全てが好奇心の対象。

 貪欲に動くのがオリビエだが、それが発動するのは物や知識に出来事のみだった。

 人に対しては違う。さらに

 どちらかといえば、人見知りがひどい。


 その人物に慣れるまで、自分の害にならないと判断するまでは、かなり控えめな対応をする。


 興味あってもここまで親し気にするのは、珍しい。

 困っている人と判断して手を差し伸べたいというお人好しが出たのか? それでもこの旅人と関わる事は危険すぎる。 

 それぐらいは判断できているはずだが。

 ハスラムもどう対応するべきか思案中だった。


「どこへ行くの? オレたちはこの先のバードで友達と会うの」


 途中までの行き先をも伝えていた。

 相当気に入っているのだとハスラムは、大柄の美女にしか見えない青年を凝視した。


「おしいね、私はスロールだから」


 先にある村から少し歩くと分岐点があり、そこから正反対に行くことになる。


「じゃあ途中まで一緒に行こうよ」


「ねえ、私のいったこと理解しているわよね」


 だからとなる。


「お姉さん、って……違うんだよね」


「カーリー」


 どう呼べばいいか悩んでいるようだった。

 その仕草がかわいく、つい名を告げてしまった。


「カーリーって呼んでいい? オレ、オリビエ」


 満面の笑顔を向ける。


「でね、カーリーは強いからいいんじゃあない。きっとオレたちの出番ないから。でもオレたちも強いよ」


 自慢気に胸を張る。


「そうね。オリビエもだけど、後ろの」


 顔を向ける。


「ハスラムだよ」


 オリビエが名を告げた。


「ハスラム、あんた人間なのに恐ろしい量の魔力あるよね」


 意味深な笑みを浮かべて失礼なぐらい見る。


「私より強い人初めて会った」


「だろう、分かる。ハスラム本当にすごいんだよ」


 これにオリビエがはしゃぎ頷いていた。


「行けるところまででいいから」


 しつこくお願いも続ける。


「どうせダメっていっても付いてくるんでしょう」


 気まぐれな猫が遊んで欲しくてスリついているようなオリビエの様子にカーリーは自分の飼っている猫を思い出していた。

 かわいいというのか、何故か嬉しいというのか。

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