14:お茶会2
クラウディアにフェスカ侯爵邸の夜会のエスコート嬢を依頼してから、数日経っても、ヴァルター公爵家から正式な返事は返ってきていなかった。
その間、僕はやきもきし、さらには断られたのか? と、不安な日々を過ごしていた。
そして本日、承諾の返事が返ってきたと聞き、心底ホッとしたのだった。
「承諾だそうだよ。これだけ時間を掛けていたのだ、ヴァルター公爵もこれの意図に気づいた上で返事を返しているだろうさ」
「僕はご挨拶に行くべきでしょうか?」
「いやそこまでの必要は無いよ。お互い暗黙だと理解しているからね」
フェスカ侯爵にそう諭されて、僕ははやる気持ちを抑えつけた。
どうやら僕は待つのは苦手なようだな。
※
「お嬢様、お茶会のお誘いでございます」
「ええっまたなの?」
前回の伯爵家でのお茶会以来、一緒に参加していたちびっ子令嬢からお茶会のお誘いが増えていたのだ。
「今度はどちらの家かしら?」
わたしはアデリナが差し出してきた封書を無造作に受け取りながら聞いた。
「王宮でございます」
「はあ!?」
驚き、封書の裏を確認すれば確かに王家の紋章で封がされていた。
「王宮より、王妃様が主催されるお茶会のお誘いでございます」
王妃様と言えば、わたしにとって伯母様に当たるお方だ。
幼い頃はよく遊んで頂いたので、別段気後れすることも無いのだがこの時期に呼ばれたことに作為的な意図を感じていた。
なぜなら伯母様は、物凄く悪戯好きなお方なのだから。
「ねえ、もしかしてフェスカ侯爵は関係あるかしら?」
「私では参加者の方までは把握しかねますが、概ねお嬢様が考えていらっしゃる通りかと思います」
フェスカ侯爵の主催する夜会での話は伝わっていると見てよい。
ではそれを言ったのは、お父様……よね?
たぶん、
「不参加って返事をしておいて頂戴」
しかしアデリナは返事をせず無言で見つめてくる。
わたしだって分かってるわよ、断れないって事くらい。
「はいはい、行けばいいんでしょ?」
お茶会の会場である王宮へ向かうと、見事に咲いた薔薇が一望できるテラスに案内された。テラスに設置された席はすでに埋まっており、今回もどうやらわたしが最後だったようだ。
きっと参加したくないという思いが出たのだろうと思う。
わたしは
わたしの着席を合図に、使用人が皆の紅茶を淹れなおす。その間に、わたしは参加者をくまなく確認していた。
見知った顔から、まずは伯爵令嬢のブリギッテがいた。以前に比べて間違いなく横に広がったのが見て取れて、思わず吹き出しそうになるのを何とか堪えた。
あぶなかったわ。
どうやらあのクッキーはとてもお気に召したようね。
その隣にはブリギッテ嬢を少し大人にした感じのふくよかな女性がいる。きっと伯爵夫人だろう。彼女がふくよかなのは果たして元々なのか、それとも……
改めてクッキーの破壊力を思いゾッとした。
伯母様のお茶会でよく見る爵位の高いご夫人方に混じり、ただ一人彼の面影を持つ人物を見つけた。鈍色の髪に涼しげな水色の瞳の女性。
もしやディートリヒのお母様だろうか?
参加者の紅茶が淹れなおされてから、皆の自己紹介を聞いた。どうやら先ほどの予想には間違いが無かったようだ。
主だった参加者の中で作為的に集められたのは、わたしと、ギュンツベルク子爵夫人、その隣に座るフェスカ侯爵夫人、そしてバルナバス伯爵令嬢のブリギッテとお供のバルナバス伯爵夫人だろう。
お茶会はとても静かな感じで始まった。
伯母様や特に爵位の高いフェスカ侯爵夫人らを中心に話が進んでいく。時折、伯母様が控えめな方に話題を振ったりと、いたって普通のお茶会である。
しかし伯母様は悪戯好きなお方なのだ、注意が必要だ。
「そう言えばクラウディア。貴方はいくつになったのかしら?」
ついに来たかとわたしは居住まいを正した。
常々『あらディーってわたくしと丁度二十歳差なのね!』と仰っていた伯母様が、その姪の年齢を忘れるわけがないですよね?
「恥ずかしながら二十三歳になりましたわ」
「あらまあ、もうそんなに? 時が経つのは早いわね」
ここで「えぇ本当に~」とでも言えば、自分が年を食ったと宣言するようなものだ。
だからこそ、そんなこと言ってやるものか!
「まだまだ学ぶ事が多くて、時間は幾ら合っても足りませんわ」
「へえそうなの」と相槌をうって返し、さらに「確かにそろそろ花嫁修業も必要よね」と、続けてきた。
やはり敵わない、王妃と言う化け物は一枚も二枚も上手のようだ。
これ以上の追求に嫌気がさしたわたしは投げやりに、
「残念ながらお相手が居ませんわ」と、吐き捨てた。
伯母様は先ほど同様、「へえそうなの」と相槌をうってきたのだが……、今度の目は笑ってなかった。
そして伯母様は矛先を変え、続いてはギュンツベルク子爵夫人へ向けたようだ。
「そう言えばフェスカ侯爵家に嫁いだ、ディートリンデの二人目の子がそろそろ生まれるとか? 次は嫡男のディートリヒ令息の番ですわね」
しかしギュンツベルク子爵夫人は落ち着いたもので、
「あの子には自分で決めるように言い伝えておりますので、親の私たちは全く干渉しておりませんわ」
自分は関与せず当人に任せていると言い、その会話を続けさせようとしなかった。
それに対し伯母様は、あちらがダメならこちらとばかりに再び矛先を変えてくる。
「あらあら、だったらご令息が良いといえば年上でも良いんですの?」
思わぬ流れ矢に驚くが、ギュンツベルク子爵夫人は「ええ問題ありませんわ」と静かな表情を崩さない。
変わりに態度を崩したのは、バルナバス伯爵ズだった。
「年上の女性なんてリッヒ兄様がお可愛そうです!」
娘の言葉に伯爵夫人も同意を示している。
一般的に言うならば女性が1~2歳程度の年上であれば許容される範囲だろうか。しかしそれを越えるのは、もはや一般的な範疇には無い。
ましてや五才も年上で初婚と言うのは、きっとここ数十年でも1~2回あったか無かったかと言うほど稀であろう。
その非一般的な行為を自分達が望んでいると思えば、背筋が薄ら寒く感じる。
そう思い始めれば、わたしは、本当にディートリヒから招待状が届いただろうか? と自分の記憶にさえ不安を覚えるのだ。
「クラウディア様!!」
「!?」
目の前で自分を呼びかける大声が聞こえて我に返る。気づけば、参加者の殆どがわたしの方を注視しているようだ。
「あっ、ごめんなさい。ちょっとぼぅとしていたわ」
何とか取り繕うようにそう言った。
しかし隣に座る伯母様の表情は若干険しいようだ。もちろん親しい人間にしか分からない程度の変化ではあるが……
そしてわたしは気分が優れないと言うと、お茶会から逃げるように去った。
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