第13話 オークとの闘い

「食らいやがれっ!」


 オークが斧を振り下ろしてくる。その攻撃は破壊力こそあるかもしれないが、単純で直線的なものだった。


 避ける事は造作もない。俺はその攻撃を避け、間髪入れずに反撃を入れる。最近、購入したミスリルソードによる一撃だ。


 ザシュッ。剣がオークの皮膚に突き刺さる。


「ぐ、ぐあっ!」


 オークは短い悲鳴を上げた。だが、その攻撃によりオークを絶命しうるには至らなかった。

 それも一重にオークという種族の特徴にある。オークは知能こそ余り高くなく、魔法攻撃を使ってくる事は余りないが、それでも高いHPと防御力があり、決して侮れるような相手ではない。


「こ、このっ!」


 オークは剣が突き刺さった状態のまま、反撃をしてこようとする。


「エルクさんっ!」


 後方からセラの声が聞こえてくる。


「離れてくださいっ!」


 俺は飛びのいた。


「火炎魔法(フレイム)!」


 セラは火炎魔法(フレイム)を放った。紅蓮の炎がオークを襲う。


「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 オークが断末魔を上げて、果てた。オークが丸焼きになったのだ。先ほどの俺の攻撃とは大違いだった。やはり、ここでもオークの特徴が表れている。オークは防御力に優れているが、それは物理的なものに限られる。

 

 魔法防御力はそう高くはない。魔法攻撃はオークの弱点でもあり、戦闘の鉄則(セオリー)だった。そして、さらに炎属性はオークの弱点属性でもある。炎魔法で攻撃するのが、オークに対する効率的な対応策なのである。


「……や、やった。流石だ。セラ」


「ふ、ふざけんな! こらああああああああああああああああああああああああ!」


 他のオークが襲い掛かってくる。


 俺もセラのように、火炎魔法(フレイム)のスキルを習得した。それは先日アイテム屋で購入したスキルブックの効果によるものだ。だが、当然のように火炎魔法(フレイム)のスキルレベルは1から始まっている。セラのように、高いスキルレベルになっていない為、その威力はお世辞にも余り高いものではなかった。


 俺はオークの攻撃を避ける。そして、その反撃をする。


 ザシュッ。剣が突き刺さる。この程度ではオークの致命傷にならない事は先ほど刃を交えた時に証明済みだった。


「ブヒヒッ! その程度の攻撃が俺達に効くわけがないだろう! 愚かな人間めっ!」


 オークが俺を嘲ってくる。

 

 俺は笑みを浮かべた。確かに、俺の火炎魔法(フレイム)のスキルレベルは1とまだだまだ低い。だが、使い方次第でスキルレベル以上の効果を発揮する事だって可能だ。


 いくらオークが頑丈と言っても、それは外側だけの話。内側から炎で焼かれれば一たまりもないはずだ。


「火炎魔法(フレイム)!」


 俺は突き刺さった剣先から、火炎魔法(フレイム)をオークの体内に直接送り込む。


「な、なに! ば、馬鹿なっ! ぐっ、ぐああああああああああああああああああ!」


 体内から身体を焼かれたオークは断末魔を上げて果てた。


 やった。倒せた。このやり方なら俺でも問題なく、オークを倒せた。要領を得た俺達はオークを次々と倒していく。


「ちっ! なんだこいつら! 撤退だ! 撤退するぞっ!」


「あ、ああっ! ずらかるぜっ!」


 そして、今回のクエストの目的である五体のオークを倒した時だった。粗方のオークは村からいなくなっていた。どうやら俺達が居た事で旗色が悪いと判断したからか、巣へと引き返していったようだ。


「はぁ……何とかなったか」


 俺は胸を撫で下ろす。しかし、落ち着ける時間も束の間だけの事であった。


「た、大変じゃ! 冒険者の方々!」


 村長が慌てた様子で駆け寄ってくる。


「ど、どうしましたか? 村長?」


「わ、わしの孫娘のクレアがオークに連れ去られたのじゃ!」


「……な、なんだって」


 俺達がオークの群れと闘っている隙に、別のオークが彼女を連れ去ったのか。闘いに気を取られて、クレアの身の安全まで気にしている余裕がなかった。


「ど、どうします? エルクさん」


 セラに訊かれる。確かに、俺達は冒険者ギルドからの依頼である『オークを五体討伐する』という任務(ミッション)をこなした。だが、当然のように村のオークによる問題が解決したわけではない。

  

 俺達には確かにこの村を救う義務はないのかもしれない。だが、このまま放っておくわけにもいかなかった。英雄になりたいわけではないが、このまま村を放っておく。何よりさらわれたクレアを放っておくなんて。胸糞が悪くなるし、気分が最悪になりそうだった。


「決まってるだろ……助けに行こう。間違いない。クレアさんは北の洞窟に連れていかれたんだ」


 俺達は急いで北の洞窟へと向かう事にした。

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