第14話 オークの巣へ

「はぁ……はぁ……はぁ」


 セラは魔導士だ。魔法攻撃と魔法防御力に長けている魔導士ではあるが、その反面体力はない。走っての移動はただでさえ少ない体力を消耗させる。


 だが、休んでいる余力などないのだ。


「がんばれ! セラ! 休んでいる暇は俺達にはないんだ!」


「は、はい! ……そ、そうですね」


 とはいえ、オークの巣に辿り着くより前にHP(体力)切れで闘えないとなっては話しにもならない。


「ほら……セラ、これを飲むんだ」


 俺はアイテムポーチからポーション2個とエーテル2個を取り出す。


「あ、ありがとうございます」


 ごくごく。


 ごくごく。


 俺達は一気に飲み干した。生き返る。HPとMPが回復したのを感じた。

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※エルクとセラのHPとMPが回復した

アイテム欄 

ポーション×10→ポーション2個消耗、ポーション×8に

エーテル×5→エーテル2個を消耗、エーテル×3に

パン×5→パン2個消耗、パン×3に ※ここに来るまでに食べた

飲料水×5→水2個消耗、水×3に ※ここに来るまでに飲んだ

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 よし……これで憂いなくオークの巣へと迎えるのであった。時間が経てば経つ程、クレアに危険が迫っていく。彼女が無事な確率が下がっていくのだ。

 急ぐより他になかった。そして、彼女が無事である事を祈るばかりだ。


「み、見てください! エルクさんっ!」


 セラが指を指した先には洞窟があった。洞窟の入り口には二人のオークがいた。見張りであった。見張り役のオークは松明を掲げ、周囲を警戒している。


 見張りがいるのはまずいが、それにより反って目立つという効果があった。間違いない。あそこがオークの根城だ。


「ああ、間違いない。あそこにセラさんがいる」


 セラだけではないだろう。他の哀れな村の犠牲者達もいるに違いない。俺達はオークの根城へ向かう。


 ――だが、その前に門番をしている二体のオークをどうしても相手にしないとならないようであった。


 ◆


(キングオーク視点)


 オークの根城には一際大きいオークがいた。オーク達のリーダーである、キングオークである。身体が大きいだけではない。人間達から奪った装飾品を身に着け、冠をしている事から、一際豪勢な見た目をしたオークになっている。太った成金のようにも見えなくもない。


「キ、キング!」


「お、遅かったではないか……全く、何をしていたのだ」


「……そ、それがその……色々とありまして」


 根城に帰ってきたオーク達はドサッ、ドサッ、と荷物を置く。


 荷物——とは、勿論、身動きができないように、ヒモで拘束された女性達の事だった。


「おおっ……これはこれは……こやつなど中々に上玉ではないか。ブッヒッヒ! 良い子を産めそうだの……久しぶりに我自らが相手をしてやろうかの……ブッヒッヒ!」


 オークキングはクレアの顔を物色し、涎を垂らす。


 ゾクリッ、とクレアの背筋が震えた。これから訪れるであろう絶望的な未来を恐れたのだ。


「ん? 出発した時より数が少ないようだが……どうしたのだ?」


 オークキングが尋ねてくる。


「そ、それが……実は」


「む、村を襲った時に冒険者に邪魔をされまして……」


「ほう、冒険者か」


 報告を聞いてもオークキングはさほども動揺の色を見せなかった。ある程度想定していたのだろう。村の娘達をさらい、そして捜索していた男達を処分した。恐らくはその若い男のうちに生き残った者がいたのだろう。

 その者がオークによる被害なのだと訴えたとしたのならば、村が自衛手段として何かしらの策を弄する事は十分に考えられた。


 そしてその自衛手段も。村に自衛手段がないのならば外部に頼るより他にない。金を払うだけで大抵の事をしてくれる便利な人間達がいる。その人間達こそが冒険者だ。

 

 だから、この事態はオークキングにとっては想定の範囲内だった。彼はオークの中では格段に頭が回るのだ。決して図体が大きいだけでオークの王へと上り詰めたわけではないのである。


「オークキング!」


「どうした?」


 慌ててオークが駆けこんで来た。


「に、人間です! 人間達が俺達の巣に乗り込んできました!」


「なんだと! 人間達? 何人だ?」


「ふ、二人です」


 思っていたよりも少ない数にオークキングは失笑した。


「ふっ……驚かせるな。たった二人か。その二人はなんだ? 村にいた冒険者とやらと同じなのか?」


「は、はい! 俺達の邪魔をしたのは二人の冒険者でした! だ、だから恐らくは同じ連中だと思います!」


「ふっ……そうか」


 人間の冒険者達が大勢で押しかけてきたらまずいと思っていたが、二人なら問題ない、そうオークキングは考えた。

 

 だが、この巣の存在まで完璧にバレてしまったようだ。恐らくは次はもっと大勢で攻め込んでくる事だろう。そうなるとまずい。流石に対応できないかもしれない。


(そろそろあの村から娘をさらってくるのも限界かもしれんの……)


 オークキングはそう考えていた。


(そろそろ……拠点を別に移す必要があるやもしれぬ)


 先々の事まで色々と思考を巡らせる。


「い、いかがいたしましょうか? オークキング!」


「防衛隊を出せ。もし守り切れない場合は、この我自らの手で叩き潰してやるわ」


 オークキングは言い放った。鋭い眼光が光る。


 オークと人間達の攻防が始まるのであった。

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