第71話 装備
聖なる剣がドラゴン討伐を成功させたその翌日、俺はトーラの街を離れてゼゼコの元へと向かう。
クレアからウィングブーツを借りているので、往復にかかる予想日数は1週間ぐらい――彼女には日数短縮のため、街に残って貰っている。
その間、聖なる剣にはドラゴン討伐をストップさせていた。
彼女達の実力なら、問題なくドラゴンは狩れるだろう。
だがそれが安定するかと言えば、正直微妙な所ではあった。
理由は、ノックバック対策に連携を用いている点だ。
息はあっていたと思うし、難易度もそこまで高くはない。
ので、余程の事がない限りミスはないだろう。
だが人間ってのは、なんだかんだで失敗する生き物だ。
それを完全になくすのは難しい。
まあ一度だけなら、アイリンさんがサブサブクラスで取得した
――だが、失敗は失敗を呼ぶもの。
人間ってのは、ミスを起こすと必ず動揺する。
その際に心を落ち着かせる時間があればいいが、戦闘中にそんな余裕など当然ありはしない。
つまり、次の失敗が発生する可能性が極めて高くなるという訳だ。
そして守護天使のスキルは、クールタイムの都合上連続して使う事は出来ない。
そのため一度ミスを犯せば、そのままパーティーの壊滅に繋がる危険性があった。
これが見知らぬ相手なら「ミスした奴らが悪い」の一言で済ませられるのだが……
知り合い。
しかも、俺の依頼でドラゴン討伐に出向いてくれている相手となれば、話は変わって来る。
「死亡とか全滅とか……流石に洒落にならないからな」
聖なる剣がドラゴンを安定して狩る。
そのためには保険が必要だ。
そしてその保険を手に入れるため、俺はここへ来ていた。
「さて……」
逢魔の森。
その中心部分に辿り着いた俺は、巨木の根元の穴に金貨を放り込んでゼゼコの錬金工房へのゲートを開ける。
中に入り、木で覆われた様な空間の中心にある円形のカウンターに金貨を置くと――
「ようこそ、マダム・ゼゼコの錬金工房へ」
巨体の銭豚こと、マダム・ゼゼコが姿を現した。
「今日はどういった御用向きかしら?」
Sランク魔宝玉は2週間で100個近く溜まっていた。
それら全てをつぎ込んで、エリクサー制作を……と言いたい所だが、その大半は装備制作に使う事になる。
「耐火の指輪を7つ頼む」
当然この装備は、聖なる剣の面子のためだ。
このリングを身に付ければ、火属性に対して耐性が付く。
「それと耐火の腕輪を6つ」
これも火属性耐性の付く装備だ。
この2つさえ装備しておけば、万一ブレスを受ける事になっても、リカバリーが容易になる。
そう、これこそドラゴン戦の保険だ。
「おやおや。そんなにたくさん作っても、効果が出るのは一つっきりだよ」
「自分でつけるんじゃないさ。贈り物だよ」
ヘブンスオンラインにおける防具のオプション効果は、指、腕、頭、胴上下、足の各箇所1つだけになっている。
ゲームと違って現実では指輪なんかを複数装備する事も出来るが、残念ながら適応されるオプションは一つだけだ。
そのため、複数個を装備する意味は薄い。
まあ一応、複数装備した場合、どの効果を適応させるか自分で決められるみたいなので――護衛さん情報――事前に複数付けておいて、状況次第で効果を切り替えるのは在りだとは思うが。
「おや、そうかい」
「ってか、対価も無しにアドバイスしてくれるんだな」
何でも金にしようとするゼゼコにしては、珍しい事だ。
「大量注文してくれるお得意様には、少しぐらいはサービスするさ。まあ本音で言うと、作ってから文句を言われても面倒だと思っただけだけどね」
成程。
クレーマー対策か。
この行動。
アップデートで追加された仕様か、それともリアルだからこその挙動か。
……ま、その辺りは流石にどうでもいいか。
「一つにつき、金貨100枚だよ」
製作費用、金貨100枚――訳1千万。
13個で1億3千万だ。
人の命にかかわる部分で仕方がない事とは言え、本当に金がかかる。
制作素材の方は、1つにつきSランクの魔宝玉3個に、Aランクの魔宝玉5個。
全部でSが39個に、A65個必要になる。
こっちは金銭換算するのは止めて置く。
考えたら負けだ。
因みに、Aランクの魔宝玉は聖なる剣がため込んでいた物を頂いている。
まあ自分達の装備の為だしな。
「それと――」
俺はカウンターの上に素材と金貨の入った袋を乗せ、その横に死霊術師の剣を置いた。
「この剣の精錬も頼む」
せっかくなので、武器の精錬もしておく事にする。
流石に現段階で吟味する余裕はないので、ただ付けるだけではあるが。
「あいよ。毎度あり」
金貨の入った袋を手に取ったゼゼコが、ニヤリと嫌らしく笑う。
ほんと、いつ見てもムカつく笑顔だ事。
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