第42話 vsオーガ

種族 :オーガ

Lv :180

HP :5238/5238

MP :230/230

筋力 :2911

魔力 :312

敏捷性:1080


・スキル


根性【―】

パワークラッシュ【3】


オーガはとにかくフィジカルに優れた魔物だ。

レベル200以下だと、ほぼ最強クラスの戦闘力を誇っている。

そのため、オーガと同レベル帯の近接系がソロでこいつを狩ろうと思ったら、装備がかなり揃っていなければ厳しい相手だ。


因みに、倒すだけなら、実は今の俺ならそう難しくはなかったりする。

ブラッドウルフ数匹を下僕にして、全員で一斉にかかればそれ程苦労もしないだろう。

ただそれをすると、貢献度が分散して死霊化ができなくなってしまう。


そう、貢献度問題があるのだ。

自分で50%以上を取ろうとすると、基本一対一で戦わなければならない。


で俺のステータスだが――


クラス:死霊術師

Lv :200

HP :332/332→2293/2293

MP :696/696→1412/1412

筋力 :321→2382

魔力 :387→1103

敏捷性:312→1905


左側が俺の基礎能力。

うん、弱い!


そして右側が、もろもろ準備を終えたステータスである。

わお、強い!


まあとは言え、攻撃スキルとかはないし、死霊術師の剣も武器としては攻撃力が低めになっている。

そのため、現段階だと、装備の揃った同レベル帯の前衛と比べると見劣りしてしまうのが実情だ。


――まあだからこそ、今こうして下僕のアップデートをしている訳だが。


さて、オーガと俺のステータスを比較してみよう。

パワーでは若干負け、敏捷性では大きく勝っている。

基本的に、スピードを生かした立ち回りで戦っていく事になるだろう。


HPが倍以上違うが、そこは回復があるので気にする必要はない。


「さて、頑張るか」


オーガが俺を睨みつける。

その手には、巨大な石剣が握られていた。

切るのではなく、圧倒的なパワーで相手を叩き潰す為の武器だ。


「クレア。花をやったら、ちゃんと直ぐに距離を開けろよ」


クレアは大賢者と黒曜石の短剣、それに分身のお陰で出鱈目な火力を発揮する。


だが、完全回避があっても耐久力に関しては並以下。

万一ターゲットが移り、オーガの攻撃が直撃しようものなら重傷待ったなしだ。


そんな事になったら、護衛さんにどんな目に合わされる事やら……


「ふ、ヒットアンドウェイはアサシンの基本よ」


「ちゃんと徹底しろよ」


まあ彼女も馬鹿ではないので、大丈夫だろうとは思うが、最期にもう一度念押ししておく。


「行くぞ!」


宣言して、俺はオーガとの間合いを詰める。

先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうだ。

相手の方がリーチが長いからな。


「ヴゥオオォォォォ!!」


雄叫びと共に、人間サイズの巨大な石剣を、オーガが叩きつける様に片手で上段から振り下ろして来た。

当然、パワーで負けてる俺がそんな大振りの一撃を受け止める訳もない。

後ろに飛んでそれを躱す。


地面に激突した石剣が、まるで爆発したかの様な衝撃で地面を吹き飛ばした。

土埃が舞い、奴の姿が見えなくなってしまう。

だが俺は慌てず、剣を構えてその先を静かに見据える。


「オオォォ!!!」


雄叫びと共に、煙幕を突き破ってオーガが突っ込んで来た。

その手にした石剣は赤く輝いている。


――パワークラッシュ。


対オーガ戦で最も気を付けなけらばならない攻撃だ。

他はともかく、これを喰らうのだけは不味い。


流石に喰らっても死にはしないだろうが、強烈な一撃を喰らえば、痛みで動きが止まってしまう恐れがある。

ダメージよりもそっちの方が問題だ。


「ギュアァ!!」


間合いに入った瞬間、オーガが剣を振り下ろす。

一撃目程、力任せで雑な大振りではない。

コンパクトに纏まった、隙のない一撃だ。

スキルで破壊力を上げつつ、当てる事を重視した動きは小賢しいの一言である。


……脳筋の癖に、合理的な事すんなよな。


ギリギリ躱せそうな気もしたが、俺は安全策を取って、剣で軌道を変える様に受け流す事を選択する。


「くっ!」


受け流しただけだというのに、その破壊力に腕が痺れる。

衝撃で危うく剣を落とすところだった。

追撃を嫌い、俺は慌てて間合いを広げる。


……あぶねぇ。

ゲームでは考えられない事象に、体に冷や汗が浮き上がる。


剣を落とせば一気にステータスが下がってしまう。

下手をしたら、そのまま畳みかけられてゲームオーバーだってありえるのだ。

気をつけないと。


チラリとクレアの方を見ると、既にヒーリング・デスフラワーの始末は終わっていた。

さっすがバ火力だ。

指示通り、彼女は遠くへ下がっている。


「おおぉ!」


オーガが突進してくる。

間合いを詰めた奴は、此方に休む暇を与えず連続攻撃を仕掛けて来た。

俺の指示でブラッドウルフが背後で唸り声をあげるが、気にも留めずに俺だけを狙って来る。


……ゴブリンみたいにはいかないか。


きっと本能的に理解しているのだろう。

背後からの威嚇は、本当に只の威嚇でしかない事に。


「ふっ!はっ!」


俺は可能な限り攻撃を回避しつつ、隙を見ては反撃を加えていく。

多少回避しきれずに攻撃が掠ったりする事もあるが、すぐさまヒーリング・デスフラワーから回復魔法が飛んでくるので全く問題ない。


「おおぉぉぉ!!」


時折、相手の攻撃にパワークラッシュが織り交ぜられるが、それは安全を取って受け流しで対処する。

もちろん剣を弾かれないよう、しっかり握り込んで。


衝撃による痺れも、回復魔法で即座に全快だ。

何せ、こっちにはヒーラーが八体もいる訳だからな。


「ぐいぃえや!!」


暫く切り結んでいると、オーガのターゲットが不意に俺から外れた。

奴の狙いの先は、周囲に展開しているヒーリング・デスフラワーだ。


ゲーム的に言うのなら、ヘイトの稼ぎすぎ。

現実的に言うなら、回復が邪魔に感じたと言った所だろうか。


ジリ貧を脱出するため、ヒーラーを狙いたくなる気持ちは分からなくもない。

いくら攻撃しても、端から回復されてたんじゃきりがないからな。

俺が奴でも、きっとイラついた事だろう。


――だが、メインアタッカーに背を向けるのは流石に愚かとしか言いようが無い。


ま、所詮は魔物。

このチャンスを美味しく頂かせて貰うする。


「隙ありだ!」


奴の背に向かって力強く剣を振るう。

死霊の剣の漆黒の刃が、無防備な奴の肩に深く食い込んだ。

完全に切り裂くまでは行かなかったが、相当なダメージを稼げたはず。


「おおおおおぉぉぉ!!」


オーガが痛みと怒りに雄叫びを上げ、振り返りざまに石剣を振るう。

斬り付けるのに前のめりになり過ぎたせいで、回避は難しい。

俺はそれを剣で受け止め様とするが――


「うぉ!?」


踏み留まれず、そのまま大きく吹きとばされてしまった。

パワークラッシュでもないのにこの威力。

明らかに先程までよりもパワーが上がっている。


俺は何とか空中で体勢を立て直して、足から着地した。


「思ったよりダメージが通ってたみたいだな」


相手のパワーが上がった理由は分かっていた。

奴のスキル、根性だ。

HPが3割以下になると、筋力が大幅上昇する効果がある。


背後からの肩への一撃もそうだが、チマチマ斬り付けていた分が思ったよりダメージになっていたみたいだ。


「ぐうぅぅぅぅ……」


オーガが牙をむき出しにし、口の端から涎を垂らしながら唸る。

その顔は苦痛で歪んでいた。


ゲームなら、ここからが本番だ。

相手の筋力が大幅に増す訳だからな。


――が。


これはゲームじゃない。

痛みや苦しみの有る現実で、大きな傷を負えばその動きは確実に鈍る。

パワーアップした分は、それで軽く相殺だ。


「唸ってる場合じゃないと思うぞ。かかって来いよ」


回復魔法が飛んできて、吹き飛ばされたダメージが一瞬で回復する。

これでこっちはノーダメージだ。

挑発がてらに左手の指先をくいくいと動かすが、オーガはその場から動かない。


攻めの姿勢から防御に変わったと言うよりは――


「無理な反撃をしたから、痛みで動けないって所か」


肩に大きな傷を受けた状態で、無理やり剣を振り回したのだ。

そら痛くてしょうがないだろう。


「じゃあ今度は、こっちから遠慮なく行かせて貰うぞ!」


地面を蹴り、一気に間合いを詰める。

オーガはぎこちない動きで剣を振るって、それを阻止しようと足掻いた。


だが――


「はっ!」


いくらパワーが増していても、剣にそれが乗っていないのでは意味がない。

俺は容易くそれを弾き、そしてがら空きになったオーガの胸元に、死霊術師の剣を全力で振り下ろした。


「ぐぅぅぅぅぅ……」


手ごたえあり。

剣がオーガの分厚い胸板を大きく切り裂いた。

堪らずオーガは後ろに下がろうとするが、それよりも早く、俺の突きが奴の胸元に突き刺さる。


「げぇあ……が……ぐぅぅぅ!!」


オーガが石剣を捨て、自身の胸元に刺さっている剣の刀身を両手で握る。


「くっ……」


胸元から引き抜こうとするが、ビクともしない。

弱っているとはいえ、根性を発動させたオーガの腕力は桁違いだ。


「ぐえぁぁぁぁ!!」


オーガはその状態で雄叫びを上げる。


ひょっとして、死霊術師の剣をへし折ろうとしているのだろうか?

だが無駄だ

普通の武器ならまだしも、ゼゼコ製の特注品を握りつぶすなど出来るはずがない。


「ぬっ……くっ……」


ただまあ、ちょっと面倒臭い事にはなった。

パワー差があるせいか、押しても引いてもビクともしやがらねぇ。


まあだが、問題ない。

こういう時の為の――


「先生出番です!」


「ふ……闇に潜む美しき刃を見る時、それが貴方の最後の瞬間となる」


シャドウワープでオーガの背後に飛んで来たクレア。

と、2体の分身が魔法短剣を振るう。


「ぐぉぉぉぉ!!!」


相手は虫の息のオーガだ。

魔法短剣六連打を受けては一溜りもないだろう。


オーガの両手から力が抜ける。

剣を引き抜くと、その巨体は静かに大地に崩れ落ちた。


「助かったぜ。クレア」


背後からの攻撃だから、オーガは闇に潜む美しき刃なんて見てはいないが、そう言う無粋な突っ込みは控えておいた。

手助けして貰った訳だからな。


「ふ、礼には及ばないわ。私達は一心同体。当然の事をしたまでよ」


一心同体の下りもスルーしておく。

最後のトドメこそ任せはしたが、貢献度は余裕で50%超えているはず。

これで――


「オーガゲットだぜ!」

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