第28話 独占

魔法剣。

それは魔法の宿った武器だ。


その効果は魔力を込める事で魔法を放ったり。

武器自体に属性を纏わせたり。

更には、状態異常を引き起こす物など多種多様に存在していた。


魔力消費で威力の上がるクレアの持つ黒曜石の短剣も、これに分類される。


さて、護衛の人に頼んで手に入れて貰ったパラライズソードだが、その効果は名前からも一目瞭然だろう。

斬り付けた相手を麻痺させる。


まあそれだけ聞くと強そうに聞こえるが、その基本成功率はかなり低く、効果時間も短めだ。

しかもこの手の状態異常は魔力と筋力で効果時間が減少させられてしまう為、強力な魔物が相手だと、殆ど効果を期待できない仕様になっていた。


そのため、パラライズソードは入手難度の割に微妙扱いされる武器となっている。


何故そんな武器を用意して貰ったかだって?

当然、役に立つからだ。


「お、いるいる」


双眼鏡で覗き込む遥か前方。

草原のど真ん中に、緑色をした人型の魔物が立っているのが見えた。


魔物の名はオーガ。

レベル180もある、フィジカルお化けだ。


え?オーガを狩るのかって?


んなわきゃない。

パラライズソードの効果なんてほぼ通らないので、そんな奴に挑もう物なら、逆にこっちが狩られて終わりである。

仮にクレアの魔法を解禁したとしても、勝ち目は5分もあればいい方だろう。


ま、ここにはクレアはいないんだけどな。


「オーガを見つけたんで、先生お願いしまーす!」


俺は背後に立つ黒ずくめの護衛――闇の牙(仮)に声をかけた。

当然、その処理は彼に行って貰う予定だ。


勿論、事前に討伐出来るかどうかは確認してある。

答えはイエスだ


護衛の人はかなり強いだろうと推測してはいたが、オーガを単独で倒せる様なら、恐らくそのレベルは200を越えている。

予想以上の強さだ。


「……」


彼は俺の言葉に、無言で渋い視線を向けてきた。

どうやら軽口はお好みではないらしい。


因みに俺の狙いは、オーガの足元にいる植物型の魔物――ヒーリング・デスフラワーの方だった。

この魔物のレベルは160で、ラフレシアに足が生えた感じの見た目をしている。


こいつは基本オーガとセットで行動し、放っておくと魔法でダメージをガンガン回復してくる厄介な存在だ。

そのため、オーガを倒す場合まずはこいつを先に始末するのがセオリーとなっている。


さて、俺がヒーリング・デスフラワーを狙う理由だが……


実はこいつには、麻痺に対する弱点があった。

それもただの弱点ではなく、致命レベルの。


弱点には小・中・大・特大・致命の5段階ある。

小中位ならそう大した事は無いのだが、致命は本当に致命的なレベルの弱点になっていた。


ヒーリング・デスフラワーはレベル160もあるだけあって、筋力も魔力もそこそこ高い。

そのため、弱点が無ければ麻痺はほとんど役に立たなかっただろう。


だが致命弱点のお陰で、攻撃さえ入れば、高確率で麻痺させる事が出来る。

更に弱点は状態異常の効果時間も伸ばしてくれるので、麻痺から麻痺の素敵ループが容易く完成するという訳だ。


「さて、それじゃお願いします」


オーガに近づくと、100メートル程の距離で相手は俺達に気付いて警戒態勢に入る。

脳筋宜しく突っ込んでこないのは、ヒーリング・デスフラワーとの連携を意識しているからだろう。


「いいだろう」


護衛さんが無造作に突っ込んだ。

俺もそれを急いで追う。


「分身3体!?」


オーガとの接触直前、護衛さんが分身を生み出した。

それも3体も。


分身のスキルレベルは3が上限だ。

そしてそのレベルは、50毎上がる様になっている。

つまり――


「カンストしてんのか!?」


200越え所か、カンストマンだった。

驚きに、思わず俺の足が止まる。


俺が知らないだけで、ひょっとしてこの世界、カンストしてる人間て実は結構いるのだろうか?

だとしたら、極限レイドボスはもう誰かが討伐済みかもしれない。


そんな考えが頭を過る。


極限レイドとは、最新アップデートで実装された3体の大型ボスモンスターを指す。

この3体は新実装されたレジェンド装備を1万分の1の確率で落とすため、ゲーム内では目玉コンテンツとなっていた。


ドロップ率が1万分の1しかないんじゃ、全く手に入らないんじゃないか?


その通りだ。

湧き期間は約2週間。

1月で1種につき2度しか倒せないので、入手は絶望的にきついと言える。


だがそんな装備を、一つだけ確実に入手する方法があった。


――それが初討伐ボーナスだ。


初討伐ボーナスとは、ゲームに実装されたボスが、プレイヤーによって初めて討伐された時にのみ付く特典ドロップの事を指す。

そして極限レイドボスに関しては、レジェンド装備がこれにあたる。


つまり、他の誰かが倒してさえいなければ、俺が初討伐報酬で100%レジェンド装備を手に入れられるって訳だ。


因みにゲーム実装時の初討伐者も俺だったので、レジェンド装備は3つとも俺が所持していた。

これは死霊術師を先行育成出来たお陰だ。


……ま、アルティメットエリクサーを大量に抱えていたってのもあるが。


それが無ければ、流石の死霊術師でもソロ討伐は難しかっただろう。


「終わったぞ」


オーガはかなり強い魔物だが、それでもカンストしている暗殺者にかなう訳もなく。

物の数秒で沈んでしまう。


「ありがとう御座います」


残すはヒーリング・デスフラワーだけだ。

護衛さんに噛みつこうとしてるが、当然どんくさい花の攻撃など当たる筈もない。

選手交代とばかりに、俺が奴に斬り付けた。


「ぶふー……」


ヒーリンググ・デスフラワーが変な声を上げる。

どうやらパラライズソードの効果が一発で入った様だ。


――後は嵌め倒すのみ。


斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って。

斬りまくる!


「よし!一匹目ゲット!」


倒したヒーリング・デスフラワーを死霊化させる。

当然しもべにするのはこの一匹ではない。

残り7体も、全部こいつに変えさせて貰うとする。


「じゃあ次を探しますか……あ、そうそう。闇の牙さんって、冥竜帝とか、落ちた太陽の巫女的な名前の魔物知ってます?」


気になっていたので、極限レイドの名を訪ねてみた。

頑張って倒してから初討伐じゃないとか、がっくり来るしな。


いやまあ、それでも倒しに行きはするけど……


「極限レイドか……」


取り敢えず、尋ねたボスの存在は知っている様だ。


「ええ。誰かがもう倒したとか……は、分かりませんよね?」


「誰かが倒したという話は聞いていない」


「あー、そうなんですか」


ヴェルヴェット家の情報網に引っかかっていないのなら、まだ倒されていない可能性は高い。

期待大だ。

俺は心の中でガッツポーズする。


……まあとは言え、どうやって倒すかという問題はあるが。


ゲームと同じ様に倒すには、アルティメットエリクサーが大量に必要になって来る。

当然それを用意するのはかなりの労力と時間が必要だ。


どっかに落ちてないかな?


因みに、人数を集めての討伐は論外だ。


理由は二つ。

まずは分配。


自分一人で独占したい。

俺は、自分一人で、独占したい。


大事な事なので――


そしてもう一つは、ドロップに関する事だ。

ドロップするレジェンド装備は、討伐に参加したクラスによって影響されてしまう仕様になっていた。

そのため、複数のクラスで討伐すると、参加したクラスの専用装備の中からランダムで抽選される事になってしまう。


――どれが手に入るか分からなくなるのは、正直論外だ。


だから誰かと組んでの討伐はありえない。

少なくとも、初回討伐に限っては絶対に。


「発見!」


双眼鏡で、次のオーガとヒーリング・デスフラワーを発見。

俺はしもべ集めを続ける。


「じゃあ次もお願いします!」


この時、俺は気づかなかった。

護衛の人が、極限レイド・・・・・と口にした事を。


――極限レイドという呼び名は、運営が用意した物ではない。


極限レイド。

それはヘブンスオンラインのプレイヤー間で、自然と発生した言葉だ。

その語源は、レジェンド装備によって極限まで強化された死霊術師の俺を指していた。


――そしてそんな俺を倒さない限り、新実装されたボスに挑めない事からその言葉は定着している。


まあ要はレイド扱いされてたって訳だ。

ん?

何で俺を倒さないとボスに挑めないのかって?


そりゃソロで長い事独占してたからに決まってるだろ。

言わせんな。


ヘブンスオンラインは遊びじゃねぇんだよ!

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