第20話 事情

「さて、クレアももう一人前の闇の使徒だ」


レベリングは3週間程で完了。

報酬であるAランクの魔宝玉も、既に例の護衛から受け取り済みだ。


つまり――後はクレアと袂を分かつのみ。


そのために俺は厨二スイッチをオンにする。


「ふふふ、そうね。世界の全てが私の前に跪く日も近いわ」


全然近くはない。

レベル100位なら掃いて捨てる程、とまでは言わないが、そこそこの人数がこの世界にはいる。

アイシスの姉が所属している聖なる剣の平均レベルも、確か150位だったはず。


つまり、ある程度腕の立つ奴らならそれぐらいのレベルはあるという事だ。

まあ流石に200越えなんかは、極極少数だろうとは思うが……

少なくとも、生まれ故郷の街じゃ話に聞いた事も無いし。


「気が早いぞ、クレア。世界は広い。傲慢は身を滅ぼす。我々、闇に生きる者に油断は許されない」


「ふ、そうね」


「それに、俺達の足りない物はまだまだ多い。それを補うため、旅に出る。そして世界の真実に迫るのだ!」


因みに、場所は良くレベリングで使っていた草原だ。

こんなやり取り、人に聞かれたらこっぱずかしいからな。


「ふふふ、遂に始まるのね。私達の伝説への序章プレリュードが」


クレアの声が、興奮からか上擦っているのが分かる。

テンション爆上がりという奴だな。

後は上手く誘導して、別々の道へと進む様丸め込むのみ。


「俺は西に行く。クレア、お前は東に行ってくれ」


「え?」


「一緒に行動していては、効率が悪いからな。互に別々の物を見て感じ、そして――時が来たなら俺達は闇の運命さだめの元に集う。そう!ディスティニーだ!」


世界の真実(なにそれ?)を見つける為、お互い別々の道を行く。

漫画やアニメでありがちな展開を、運命という言葉で脚色。

厨二なら迷わずこれに乗って来る筈。


……ふ、これで色々と面倒くさいクレアともおさらばだぜ!


そんな風に俺までテンションを上げていたら――


「……それはダメよ」


冷静に拒否されてしまった。

我ながら完璧な流れと言い回しだったつもりだったのだが……


「闇の定めを持つ私達には敵が多いわ。単独行動は危険よ」


俺にとっての最大の敵は、他でもないクレアと物騒なその護衛である。

そう言う意味では、離れてくれた方が百倍安全だ。

まあそんな事を口にするつもりはないが。


「ふ、それを乗り越えた先にこそ真の成長と栄光が待っている。俺達は試練を乗り越えなければならない」


「分かっているわ。でも、私達闇の定めを持つ者を狙う光の存在は強力よ。より高みに登らなければ、待っているのは確実な死。私達にはまだ時間が必要よ」


……意訳すると、『もっと寄生レベリングさせろ』だ。


レベル100で満足しろよ。

ポンコツのお前の能力じゃ、本来ならそこまで行くのに軽く数年はかかるんだぞ?


中二っぽい言動の癖に、しっかり計算して判断する辺り厄介極まりない。


「ユーリ、焦りは禁物よ。今は共に力を蓄えましょう」


はぁ……どうにかならんかね?

クレアと組んだままだとMPの都合上、どうしても1日当たりの経験値効率が半減してしまう。


死霊化の消費MPは3で、現在の使用回数は110体分程だ。

MPは2時間で全回復するので、2時間で220体。

これを5セット10時間繰り返して1,100体の計算で、俺は2年程でレベルを200まで上げる予定だった。


――内訳――


オークの経験値は1000で、アンデッド化すると約333。

レベル100から200に上げるのに必要な経験値は、約2億となっている。

これを1日の経験値取得量である366,300で割ると、546日程かかる計算だ。


これにステータス上昇による、蘇生回数の上昇。

及び、僕のグレードアップで日数は縮むが、休養日なども考慮して約2年程と俺は考えていた。


――――――


このままクレアに寄生され続けると、200到達が倍の4年程かかる事になってしまう。

それは出来れば避けたい所だ。


「なあクレア。俺は出来れば自分のレベル上げに集中したいんだ。だから悪いんだけどさ……」


厨二的な言い回しではなく、自分の本心を俺は吐露する。

流れで切り捨てられないのなら、正面切って行くしかないだろう。

迷惑ですって。


「ユーリ。貴方には話せませんが、私にはどうしても成さなければならない事があります」


それまでのふざけた言動ではなく、急にクレアが普通の言葉遣になる。

そして常に目深にかぶっているフードを下ろし――


「ですから、貴方の傍でレベルを上げさせてください」


彼女は深く頭を下げた。

その代わり様に、俺は面食らってしまう。


「えーっと……事情ってのは、俺に話せないのか?」


「申し訳ありません。それは……」


「単にレベルが上げたいって、訳じゃないんだよな?」


「はい」


「ふむ……」


お嬢様の気まぐれに長く付き合う気はない。

だが、今のクレアの目は真剣そのものだった。

きっと相当な理由があるのだろう。


ヴェルヴェット侯爵家を飛び出す程の深い事情が。


「分かった。レベル上げを手伝ってやるよ」


「本当ですか!」


「ああ」


まあレベル上げは遠回りになるが、困ってる美少女を救うためなら致し方なしだ。

だがタダ働きする気はないので、可能な限りあの護衛から報酬は引き出させて貰うが。

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