第4話 翌日、思ったより...?
「う...頭痛い...朝?」
問題だらけの配信から数時間後、窓から差し込む陽の光で眞緒は目が覚めた。
確か昨晩は沈んだ気分のまま配信を始めた。慣れないお酒を購入して初めての晩酌配信を...晩酌配信...
あれ?昨日私何してた?
「序盤から何してたか記憶がない...?」
現状把握に努める事にした眞緒は、とりあえずスマホの電源をつけた。...が、充電が切れていたようで真っ暗な画面が光を取り戻すことはなかった。
眞緒はコードを差して数分待つと、スマホはとうとう光を取り戻す。
ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!
通知が溜まっていたようで、電源がついた瞬間息を吹き返すようにスマホは音を発し続ける。
この通知は全部佐倉マネージャーからだった。
電話が昨晩から数分おきにかかってきており、22時を最後に通知が止まっていた。おそらくこのタイミングで眞緒のスマホの充電が切れたのだろう。
とりあえず、折り返し電話をかけてみることにした。
保留音もそこそこに佐倉マネージャーが電話に出た。
「あ、おはようございま...」
『天抱さん!よかったつながった!』
「ど、どうかしたんですか?」
佐倉マネージャーの尋常じゃないほどの焦りように眞緒は不安になるが、それは眞緒が一番関係していた。
『天抱さん!とりあえず昨日のことについて話があります。今迎えに行ってますので事務所で話しましょう。』
「はい、わかりました...」
電話が切れた後、昨晩自分がどんな醜態を晒したのかを確認しようと思い、パソコンの画面をつけた。
エゴサーチしていると、身に覚えのないタグで自分の醜態を晒すツイートを多数見かけたが、その中でも特に多かったのがこんなツイートだ。
『泣いてるまおママ可愛すぎ!』
『泣きまおのおかげで浄化されました。』
『泣いてる彼女は鬱陶しいけどまおママが泣いているのは可愛い!』
え、全く覚えてないんだけど?
私配信中に泣いてたの?
まぁ私も鈍感じゃないのでなぜ泣いていたのかくらい予想はつく。最近たくさん泣いてたしね。
でも私ってば、離婚したことまで配信で言ってたのか。
問題の配信のアーカイブを覗くと昨晩のスパチャ額もすごいことになっており、今まで私が配信でもらった額とは比べ物にならないくらいたくさん頂戴していた。ギャン泣きしながら離婚報告をしていたため、コメント欄は慰めのコメントで赤一色だ。どうやらものすごく気を使わせてしまったらしい。お詫びとして今度ASMRでセリフ読みしてあげよう。
なんだか自分の醜態を見続けるのが辛くなってきたので、佐倉マネージャーが来る前に身だしなみを整えることにした。
昨日は離婚のショックで精神的な余裕がなく一日通して泣いていたこともあって今の眞緒はとても落ち着いている。少なくとも今離婚や旦那の話題が出たことで泣き出すことはないだろう。
それどころか旦那への愛情を涙と一緒に押し流してしまったようで、旦那のことを考えても何も思わなくなった。いや、元旦那か。
私の言葉に耳を貸さず一歩的に私を悪者と決めつけ、強引に離婚を切り出した挙句私を家から追い出した元旦那。好きの反対は無関心とはよく言ったものだ。
人生を捧げられるほど焦がれていた相手に対してここまで冷たい気持ちになるなんて、数日前の私では考えもしなかった。
シャワーを浴び髪を乾かしながらそう考えていた眞緒は、今後自分がやるべきことを再認識した。
※ ※ ※
佐倉マネージャーの迎えで事務所にやってきた眞緒は、会議室で社長と向かい合っていた。
「昨日の今日で来てもらって申し訳ないわね。配信でははっちゃけてたみたいだけど...」
「それに関しては本当に申し訳ございません...」
眞緒は深く深く頭を下げると、社長は微笑みながら頭を横に振る。
「それはもういいのよ。特に炎上とかもしてないし。思いの丈を吐き出してだいぶスッキリしたみたいだしね。」
社長の指摘に眞緒は驚きの表情を浮かべる。
そんな自分でもあまりよくわからない気持ちの変化もわかるなんて、さすが社長だ。
「さぁ、明日からのあなたの配信についてだけど...まずはあなたには歌配信をやってもらうわ。」
「歌配信ですか...」
歌にあまり自信のない眞緒は表情を曇らせた。
「大丈夫ですよ!天抱さんは声が綺麗なんですから何を歌っても美しく聞こえますよ!」
「佐倉さん、ありがとうございます。」
「事務所の中に歌配信専用の部屋があるので、もしよければこの後練習していきますか?」
「いいんですか?それではぜひ」
その後眞緒が今後生活する部屋について相談したところ、防音がしっかりしたマンションを事務所が紹介してくれることになった。
今まで『天抱まお』が配信で得た利益は全て貯蓄されていたらしく、社長が「準備金に使いな」ということで通帳ごと渡してくれた。その額なんと8桁を超えており、一通り揃えてもお金が余るほどだった。
グッズの売り上げや配信の視聴数、そしてスパチャがここまでの額になるとは思わなかったと社長は語っていた。
「今日は近くのホテルを取っておいたからそこに泊まっていきなさい。明日は朝から忙しいから歌の練習が終わったらすぐに休むこと。いいわね?」
「はい、ありがとうございます。」
社長はそう言い残すと会議室を出て行った。どうやら承認作業がいくつか残っていたらしく、明日の行動のために今日で片付けてくるそうだ。
そして眞緒は翌日に行う歌配信の練習のため、専用部屋に向かった。
「私最近の歌って知らないんですけど、どんな歌なら歌っていいんですかね?」
「えーっとですね、この一覧の中にある曲だったら何歌っても大丈夫ですよ。何か知ってる曲とかあります?」
佐倉マネージャーが部屋の中にあるタブレット端末を操作し、歌ってもいい曲の一覧を表示した。眞緒が知っている曲もいくつかあったので、その歌を練習することにした。
試しにいくつか歌ってみると、横で佐倉マネージャーが悶絶していた。そこまで下手くそだったのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
「明日の配信が楽しみです...!!」
佐倉マネージャーの期待に応えるためにも、明日の配信は頑張ろうと思った眞緒なのであった。
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