第3話 配信
『晩酌配信 重大発表あり/【ラブシャイン/天抱まお】』
Amadaki Ch.天抱まお 18:00公開予定
3573人が待機中 放送開始まで残り40分
:珍しいな、晩酌配信なんて
:タイトルが今までで一番短いな
:まぁでもいつも通り旦那への愛で配信が終わるんだろうな
:サムネにまおママが映っていないのは初めてじゃね?代わりに映ってるのが一升瓶て...
:まおママ、何があったんや...
:まおママと一緒に酒が飲めるなんて...
いつもとは明らかに方向性の違うサムネイルのせいで、配信開始まで時間があるのにも関わらず待機所にはたくさんのコメントが飛び交っている。
ちなみに「まおママ」とは、慈愛溢れる眞緒の配信の影響で彼女に名付けられた渾名である。
その時眞緒は死んだ魚のような目をしてキッチンに立ち尽くし、火に炙られる砂肝とお湯の中で暴れ回る枝豆を無心で見つめていた。
あぁ、この子達はいいよな。炙られた後は食われるだけだし、茹でられた後は食われるだけだし。
私なんて...私なんて....
「ぐす...ぐす....」
昼に麻里の前であんなにたくさん涙を流し、さっきも事務所であんなに泣いたのに先日のアレを思い出すだけで涙がとめどなく溢れてくる。
『離婚してくれ』
「う“う”う”う“う“う“....」
『こんばんは...天抱まおです...』
:こんあまー!!
:こんあまー!!
:あれ、いつもと挨拶が違う...?
:暗!!!!
:いつもの元気なママはどこいった?
『今日は初めての晩酌配信をやっていこうと思います。お酒は日本酒、お供は砂肝と枝豆です...』
:初っ端から日本酒いくんだww
:晩酌配信で日本酒からいくやつ初めて見た
:晩酌といいつつまだ夕方な件ww
:大丈夫?旦那は?
『旦那...?....ぐす』
:え
:え?
:どうした
:どうしたの?
『...ぐすん、』
本日3度目、ダムが決壊した。
※ ※ ※
同時刻、ラブシャイン事務所 会議室にて
「今日はなんで召集されたんですかね?」
2期生:凪太刀カムイ《なぎたちかむい》【cv
「あれ、カムイちゃんも何も知らされていないの?」
同じく2期生:白海そよの《しらうみそよの》【cv
「社長から重大発表があるって聞いてますよ、俺は。」
2期生:龍眼寺トオル《りゅうがんじとおる》【cv
「まおママは今日も来てないんだね!」
2期生:比良坂めぐる《ひらさかめぐる》【cv
「まおママが来ないのはいつものことでしょ。家庭の事情なんだからしょうがないわよ。」
2期生:月影レオ《つきかげれお》【cv
「遅いですよ玲於奈。社長は18時前には来るように言ってたじゃないですか。」
燈華が玲於奈にそう言い募るが、玲於奈は周囲を見渡しこう答えた。
「その社長がまだ来てないんだからいいじゃない。誤差よ誤差。昨日は朝の6時まで配信してたんだから...ねむっ」
ふわぁ、と大きなあくびをした玲於奈は手元のコーヒーを一口飲む。
「よくコーヒーなんて飲めるよね。ボクはそんな苦いの飲めないよ!」
「晴さんはまだ高校生なんですから、これから慣れていきますよ。」
うへぇ、といった表情でそう言う晴に健は笑みを浮かべてそっとペットボトルのお茶を差し出した。
そんな賑やかな会話を聞きながら、紗香はあることを思い出した。
「そういえば、まおママがさっき突然配信を始めてたね。Twitterでは何も言ってなかったけど。」
「ホント!?今すぐ見なきゃ...」
顔を輝かせてスマホを取り出す晴。
「後にしなさい。アーカイブだって見れるんだから」
そんな晴のスマホを没収する玲於奈。
返してぇ...と手を伸ばす晴の頭を押さえつけている玲於奈。そこに会議室の扉を開けて社長が入ってきた。それに伴って筆頭マネージャーも一緒に入ってくる。
「急に集まってもらって悪いわね。あなたたち2期生に最初に話すべきだと思ってね?」
社長の言葉に2期生の全員が疑問符を浮かべる。
1期生よりも先に2期生に伝えるべきことなんて...
「天抱まおさんが正式にうち所属になることになりました!!いえーい!!」
「「「「「.....え?」」」」」
2期生全員がアホ面を晒して呆けているが、社長は話を続けた。
「今後は2期生のライブとか、オフコラボとかも組んでいく予定よ。あなたたちとも順を追って顔合わせしていくからそのつもりでね。」
「...っホントですか!?まおママと会えるんですか!?」
晴は顔を輝かせて社長に駆け寄る。
「えぇ。今すぐというわけにはいかないけど、必ずね。」
「いやったぁーーー!!」
ぴょんぴょんとジャンプして喜びを爆発させる晴を横目に、燈華は質問する。
「そういうことなら、まおママは今日ここに来なくてよかったんでしょうか?2期生の召集だったのに...」
「あ、あぁ...それはまた別の事情があるというか...ね?」
社長の歯切れの悪さに2期生は怪訝な顔をする。健が代表して社長を問いただした。
「社長、何か隠してませんか?」
「っ!!これは彼女の事情だし...」
社長がさらに言い淀んでいると、佐倉マネージャーが扉を勢いよく開けて会議室に入ってきた。
「社長大変です!!天抱さんが配信中に号泣してます!!」
「なんですって!?」
※ ※ ※
『う“う“え“え“え“え“え“ぇ“ぇ”ぇ“ぇ”....もうわだじはダメだぁ...離婚なんて、離婚なんてぇぇぇ...』
眞緒は滝のように涙を流しながら日本酒を煽る。
実は眞緒、アルコール3%のお酒で酔い潰れてしまうほどお酒に弱く、日本酒など今まで飲んだこともなかった。
しかし今日は勢いに任せて大吟醸一升瓶を購入しており、一人でそれを飲んでいる。今現在、彼女はとても出来上がっており、顔もトマトのように真っ赤だ。
幼子のように泣きじゃくりながら酒を煽るその様子は普段の姿とは似ても似つかないため、視聴者にとっては新鮮だったようだが。
:まさかこんな一面が見れるなんてな
:泣いてるまおママかわゆす
:しかしあんなにラブラブだったのに離婚しちゃうなんて...
:もうあの惚気を聞けることはないのか...残念
:泣き声捗ります
『もうどうにでもなれぇ...』
ムシャア!!グビグビグビ...
マイクが砂肝の咀嚼音、お酒が喉を通る音を拾った。
『わだじなんでぇ...』
:おいおい、日本酒を飲んでる音じゃねえぞ!?
:急性アルコール中毒になったらまずいんじゃね?
:まおママ!もうおやすみなさい!!
:飲んで忘れろォォォォ..
『わだじなんでぇ...スゥ...』
『スピー.......フガッ....スピー.....』
:は?
:ねた?
:ねたな
:晩酌配信から睡眠配信へ
:今日のまおママは新鮮だったな
:重大発表ってなってたけど、離婚報告がそうだったのか?
:いつもは落ち着く配信だけど、今日は可愛かった...
:それな
:それな
:可愛すぎて昇天するかと思った...
この配信でのまおの泣きじゃくりと寝落ちは世界のVTuber業界に大きな波紋をよび、離婚した彼女を哀れに思った視聴者がたくさんスパチャを送ったことで世界のスパチャランキングでぶっちぎりの1位となった。
Twitterにおいても #泣きまお #酔いまお が世界トレンドに乗り、彼女にとって不名誉な時の人となってしまったのだった。
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