元上司の悪行!?

 屋敷を出て、ネヴィルの後を追う。

 どうやら売ってくれるという屋敷まで案内してくれるようだ。


「その屋敷ってどこにあるんだ?」

「中立地帯スコットの一等地だ。その周囲には、ギルドもあれば鍛冶屋もある。アイテムショップもあるから不便はない」


 それを聞いて俺もヨークもテンションが上がった。一等地って、それはつまり“とてもいい場所”って事だ。

 そのまま歩いていくと、割と近い場所でネヴィルは足を止めた。


「この屋敷でどうかな」

「おぉ、これは立派な屋敷だな」


 目の前には貴族の屋敷があった。大きくて庭もかなり広い。手入れが大変だな。


「これ、いくらなんですか?」


 ヨークがネヴィルに訊ねた。

 そうだな、俺も肝心な金額が気になっていた。


「そうだなぁ、特別大サービスで通常金貨5000枚のところを金貨3000枚でいいよ」

「3000枚でいいのか。分かった、アイテムボックスに渡すよ」


 俺は、ネヴィルに金貨を転送した。無事に届いたようで彼は満足にうなずく。



「ありがとう。この資金は、このスコットの為に役立てる。近頃は帝国との戦争のせいで難民が増加しているんだ。そのせいで貧富の差も出ている。金貨は彼らの為に」



 へえ、ネヴィルってちゃんと民の事も考えているんだ。若いのに偉いな。こんな領主様に守って貰えるなら嬉しいだろうな。


 感心していると、ネヴィルは「じゃあ、また」と言って手を振って去って行った。僕は屋敷の扉の前に立つ。



「ついに家を手に入れたんですね」

「そうだな、ヨーク。僕と君の家だ」

「わ、わたくしも?」

「ああ、元々はヨークのおかげだからね。君から『金貨増殖バグ』の力を与えられなかったら僕は今頃、野垂れ死んでいただろうね」


 本音を漏らすと、ヨークは顔を赤らめて俯いていた。そんなモジモジと……可愛いな。


「いえ、わたくしは何も……」

「そんな事はない。それより、立ち話もなんだし中へ行こう」

「はいっ」



 扉を開けると、その瞬間――


 屋敷が崩壊し、バラバラになって吹き飛んだ。



「は……? はああああああああ!?」



 目の前には瓦礫がれきの山。


 えっと……


 どうなっているの!?



「ヘンリーさんがお屋敷の扉を開けたら廃墟ゴミになってしまいました!!」

「あ、ああ……どういうこと!?」



 理解が追い付かない。いったい、なぜ、どうして崩れてしまったんだ。更に事態は悪化した。いつの間にかゴロツキに囲まれていたんだ。またかよ。



「へっへへ……さっきは同胞をよくも痛めつけてくれたなァ!!」



 庭に隠れていたのか、人相の悪い男がわらわら現れた。こいつら! そうか、こいつらが屋敷に何かを仕掛けたんだ。それで倒壊して……くそ!



「お前達、こんな事をしてタダで済むと思っているのか」

「あぁ? ……って、よく見ればヘンリーか」



 コイツ、僕の事を知っている?



「なぜ名前を」

「知ってるさ。ガヘリスから聞いたぜ、お前、ギルド職員をクビになったんだってぇ!?」


「ギャハハハハハ!!」「マジかよ」「だっせえええええ」「こんな男がギルド職員~?」「そりゃあ、クビになるよなぁ!」「しかも可愛い女を連れてらぁ、剥いてやろうぜえ」



 そうか、このゴロツキ共はガヘリスと繋がっていたんだ。でも、なんでこんなロクでもない人間とつるんでいるんだ? 理由は定かではないけれど、吐かせればいいだけだ。



「待て、お前達!!」

「あぁ? 止めたって無駄だぞ。今からお前をボコボコにするんだからなァ!!」

「なら、こうしよう。僕が君達を雇うよ。ガヘリスよりも高い金でね」


「金だぁ? 言っておくが、ガヘリスは金貨10枚を約束してくれたんだぞ! ひとりにつき、10枚だ!」


 なるほど、どんな理由で雇っているか知らないけど、少なくとも金貨で10枚を約束してこの中立地帯の治安を悪化させているようだ。それだけは分かった。


 ……なんて卑劣。


 ここには困っている人も多くいるというのに。


 だから、僕は金貨30枚を取り出した。



「こっちは、ひとりにつき金貨30枚だ!!」


「「「「「なああああ!?」」」」」


「金貨30ぅ!?」「おいおい、あんな金貨見た事ねぇぞ!!」「うわぁ、しばらく遊んで暮らせるぞ!!」「欲しかったレア武器が買える!!」「防具だって」「馬鹿、女遊びだろ!!」「奴隷エルフが買えるぞぉ」「なぁ、ガヘリスなんて胡散臭いヤツから手を引いて、あの男と交渉する方が良さそうだぞ」



 ざわざわと仲間内で揉め始めていた。けれど、お金には勝てなかったようで、一同納得したようだな。

 ゴロツキのリーダーが僕にこう言った。


「実は、俺たちはガヘリスから頼まれて中立地帯の女をさらっていた。だが、頼まれてだ!」


「ガヘリスから頼まれて?」


「ああ、ヤツは帝国のある場所に女を集めているようだ。だから、俺たちは女に手を出してねぇし、そんな気もねえ。もし、あんたが雇ってくれるなら……もう足を洗う」



 なるほどな。こいつらを買収して静かにさせておく方がこの中立地帯にとっても良いだろう。それに、ガヘリスの異常行動が気掛かりだ。

 あの男、なにを企んでいるんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る