供養

暗藤 来河

 空が見たかった。

 病室を抜け出し、屋上で眺める景色が好きだった。

 ガラス越しではなく、自分と空の間を遮るものがない場所は屋上だけだった。

 手すりが老朽化しているため、立ち入り禁止の立て札があったが一度味わった感覚は我慢できず、何度も何度も、医師や看護師の目を盗んで屋上に入り浸っていた。

 だから、こうなることも必然で。自業自得で。その時が来ただけのことなのだろう。


 ぐらり。


 一瞬の、感じたことのない浮遊感。自分が完全に無になったような気がした。

 直後、重力が心を現実に引き戻した。


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