サヨナラの旋律~僕が恋した先輩へ涙の祝福を~
幽美 有明
一目惚れの音色
高校生活。一年生として入学した僕は、部活を決めなければいけなかった。
一年生は必ず部活に入部しなくてはならない決まりがあった。でもどの部活も僕にはしっくりこなかった。
放課後に部活の体験入部にもいくつか参加したけど。楽しいとは思えなかった。僕にはやりたいことが無くて、正直な気持ちを言えば部活なんて面倒くさかった。
明日が入部届を出す期限日で。考えのまとまらない僕は、教室から窓の外を眺めていた。窓からは校舎と校門が見えて、運動部の張り上げた声が聞こえてきていた。僕は生徒が下校していく校門の方を見ていた。
入学式の時は、ちょうど満開の桜が見れていたけれど。今はもう、桜の花びらは全て風に乗ってどこかに飛んで行ってしまっていた。
今見えているのは葉っぱだけになった桜の木でだけだ。花びらの消えた桜を見れば、その辺に生えている木と変わらない。
でも、葉桜も美しいと思った。花が咲いているときが、一番美しいのはわかるけど。でも、咲き終わった後の葉桜も。よく見てみると綺麗だと、僕はふと思った。
僕が葉桜を見ているその時だった。寂しげに生える葉桜に合わせるように、音が聞こえてきた。
笛の音だ。聞いた事のない音。もしかしたらどこかで、聞いた事があるかもしれないけど。覚えていない笛の音。
音の出どころは、渡り廊下の先にある別校舎。その、3階の教室からだった。
開いている窓から、カーテンが風に呼ばれて窓の外に出ている。
ゆらゆらとひらひら風と一緒に踊ってる。
もしかしたら見えない風の妖精が、カーテンのドレスを着て踊ってるのかもしれない。
カーテンが室内に戻って、カーテンの隙間から女生徒が見えた。横笛を口元に寄せて。艶のある唇が、シルバーの横笛に触れていて。横笛から旋律が聞こえてくる。
美しい笛の音が聞こえてくると、またカーテンが踊り出す。笛の音に合わせて、カーテンが踊り出して。小さな舞踏会が開かれてる。カーテンの隙間から見える、女生徒の姿が忘れられなくなった。
音が聞こえなくなり、風が大人しくなって。カーテンの向こう側には、誰もいなくなっていた。
音楽室で笛吹く部活は、吹奏楽部だろうか。吹奏楽には体験入部してなかったけど。
入部の理由が、一目惚れって良いのかな。
教室を出て、あの女生徒が居た場所に歩いていく。
そこはやっぱり音楽室で、でも部活をやっている人はいなかった。女生徒が居た痕跡すら残っていない。
僕が惚れたのは、音だろうか姿だろうか。何に惚れたんだろう。また、あの音が聞きたくて。またあの姿が見たくて。
僕は入部届に文字を書いた。
吹奏楽部、と。
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