夜に咲く/3年ぶりの/遠いよしこの

朝、窓を開けると、山際の濃い緑いろの葉の上に、白い薄紙をきゅっと丸めたようなものが見える。それは烏瓜からすうりの花が萎んだものだと本で知る。日が沈むと開花し、日の出前には萎んでしまう。くもの巣に似た幻のようなその花の咲くさまを今夜こそ見よう、という決意は毎日忘れ去られ、また朝が来る。


3年ぶりにふるさとに帰る予定は、はやり病のためになくなった。しょうがないことだと思いながら、胸のうちに空洞と重いつかえが同時に存在してしまったような気がする。


テレビのニュースで3年ぶりの「よしこの」を聴く。群れをなして踊るさまは鮮やかでうつくしいけれど、よろこびと不安の波が交互に寄せては返す。むかしは何かを選び取っていくことにためらいがなかったけれど、今はそうではない。湿度に疲弊した夏が終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る