虹えびの料理大会、そして……
ごーぉーん
王宮の門を守る衛士が、大きな
虹えびの料理大会に出場できる五人の料理人の番号札と屋号の張り出しの合図。番号札というのは、屋台を出す届け出をしたときに、もらった番号札。私のは2-68、屋号は『ハナさんの天麩羅』。
ぞろぞろと、結果を見ようと大勢の人が集まっている。私ももみくちゃになりながら、張り出された紙を見に行った。もらった番号札を握りしめながら、張り出された紙を見る。
―― やっぱ、ないよね……。
世の中、そんなに甘くない。わかりきっていても、残念に思ってしまうのは、しかたないよね?
「さ、気持ちを切り替えて、最後の一日、がんばりますか!」
屋台に戻ってからは、閉め切っていた幕を開けて、外から天麩羅を揚げているところが見えるようにした。通り過ぎる人に声をかけた。看板も目立つようにおいた。風に乗って、天麩羅の油のいい匂いが流れていく。最初はまばらだった人が少しずつ増えていって、お昼の頃には準備していたものが全部売れてくれた。
「うちの子、
「虹を見るたび、ここの天麩羅が食べたくなるな」と言ってくれた人もいた。
「美味しいね」と笑ってくれた子どもがいた。
…………。
虹えびの天麩羅を手渡した時の驚いた顔、一口食べた時の笑顔、ほおというため息、「美味しい」とかけられた言葉の数々を思い出すと、なんだか胸がいっぱいになる。洗い物をしながら、ひとりでにやけてしまうのは許してほしい。
料理を作る楽しさ、食べる楽しさを教えてくれた
――
そう決心した時だった。
「まだ、天麩羅って残ってるっすか?」
聞き覚えのある声に顔をあげる。カウンターの向こう側に、呉の国の官服をきた
「
「肉の天麩羅 十本!」
「ごめんなさい。天麩羅はもう全部売れちゃってないの」
「「えー」」
二人はあからさまにがっくりとした声をあげた。
「だからもっと早く行こうって言ったじゃないか!」
「だから
「だって、絶対、明日の大会に出ると思ったんだぜ?」
「だって、天麩羅に勝てるようなものはないと思ったんだぜ?」
ふたりでごにょごにょ言い合っているが、全部聞こえている。私は乾いた笑い声をあげるしかない。
「ごめん。私の力不足で、虹えびの料理大会には出れなかった」
「……」
「でも、これでよかったのよ。それでね、家にもどったら、料理屋を開こうと思うの。そこで、一所懸命勉強して、来年の虹えびの料理大会に挑戦する!」
私は拳を握り、右手をあげて宣言した。
「そりゃ、いいっすね!」
「肉料理、ばんざーい!! 牛の肉、ばんざーい!!」
「
ふふふ、はははと三人の笑い声が屋台中に響く。
「でも、このまま帰っちまうんすか? もし、必要なら、むりやり明日参加させることも……」と
「うん。いいの。屋台も今日までだし、明日には帰るわ。」
「そうっすか……ちょっとさみしいっすね」
「本当をいうとね、私もさみしいわ。でも、ここにとどまる理由もないもの。
そうそう、料理屋さんを始めたら連絡するわ。ぜひ、食べに来てね!」
「「楽しみっす!」」
◇
そして、春が過ぎ、夏がすぎ、秋。
私は、宣言通り、小さな料理屋を始めた。場所は、みんなでちらし寿司の材料の買い出しに行った街でだ。お師匠様がここなら安全だろうって言ってくれたし。食材も豊富だし。
お店の名前はもちろん『ハナさん』。料理は、餃子がメイン。鳥や豚の餡が入った蒸し餃子、焼き餃子、水餃子。どの餃子も評判も良く、そこそこ繁盛するようになった。私の作る餃子が目当てで遠くの村から旅をしてきたという人にも出会った。
そして、冬。
約束通り、
そして、二人の話によると――。
来年の春、
そして、詳しいことは教えてくれなかったけれど、弟の羅刹王子は永蟄居、羅刹王子を担ごうとしていた宰相たちは官位をはく奪され、
「幸せそうに飯を食べている人たちが大嫌い」と言った壱はきっと、ご飯を食べて幸せな気持ちになったことがなかったんだろうな。今更どうにもならないけど、もし、来世があるなら、壱も美味しいものを食べられるといいな……。
そんなことを、ハフハフ言いながら、焼き餃子をほおばっている
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