小淵沢

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 そして、小淵沢駅で降りて昼飯を食べる。駅そばの山賊蕎麦が有名だ。「山賊は旅人から物を取りあげる」すなわち「とりあげる⇒鶏揚げる(ダジャレかよ!)」ででかい鳥の唐揚げがのっている。小淵沢駅には展望台もあり、日本アルプスの絶景も拝めるぞ。


10:59 甲府

 |JR中央本線

11:42 小淵沢

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 甲府から更に中央本線に乗ると、車両編成が6両とぐっと短くなった。だが、平日午前中の車内は思いのほか混んでおり、立ち客もいる。『青春18きっぷ』の旅は長時間乗車が多いので、座れるかどうかは死活問題だ。乗換の際にはできるだけ始発駅の電車に乗れるルートを作るのがテクニックらしい。車内では子どもたちが大騒ぎし、若い母親がヒステリックに喚いている。子どもは騒ぐものだとわかっていても、閉鎖空間での我慢はなかなかに辛い。駅間が長くドアが閉まっている時間が長いことが一層我慢を強いられるが、甲府から数駅先で家族連れが降りて、車内はとたんに静かになった。


 車窓からの眺めは、”あいつ”が書いたとおり本当に素晴らしい。ガラス越しに雄大な山が流れていく。東京からわずか数時間でこんな景色が見られるとは驚きだ。


 甲府から40分ちょっと電車に揺られて、小淵沢駅に着いた。駅舎は途中にあった他の寂れた駅と違い、壁に木材がふんだんに使われているモダンな建物だ。そして、ここで休憩がてら昼食をとる。12時前だが、6時半過ぎに東京を出てから何も食べていないため、さすがにお腹が空いた。


 小淵沢の名物は、駅そばの「山賊蕎麦」。山賊は旅人から物を取り上げるから、トリ揚げるで、鶏のから揚げを山賊焼きとこの地方では呼ぶらしい。その山賊焼きが乗った蕎麦が「山賊蕎麦」だ。この店は、山賊蕎麦の他にも馬肉蕎麦など、ユニークなメニューが多い。


 お、おっきい……。カウンター数席の駅そばで「山賊蕎麦」を注文すると、店員が手際よく調理し、すぐに注文した品が出てきた。そばの入った丼の蓋をするように、大きな鶏モモ肉の一枚揚げが乗っている。見ただけでお腹がいっぱいになりそうだが、一口齧ったとたん、ニンニク風味のから揚げが疲れた体に染み渡った。


 おっさんか!と一人ツッコミしそうになりながら、あっという間にたいらげてしまった。電車に揺られているだけでも、お腹はけっこう空くものだ。


 次の電車までは時間があるので、とりあえず駅から出て駅名が映るように写真を撮った。駅の外には立派な駅舎が嘘のように本当に何もない。することがないので、すぐに駅に戻り、駅の展望台へ出る階段を上る。


 さ、寒い。展望台へと続く扉を開くと、山間部特有の寒風が私の体を襲った。春の日差しは強いのだが、太陽の光で温まった瞬間に冷たい空気が体温を奪っていく。


 だが、その寒さの中、圧倒的な光景が私の眼前に広がっていた。

 

 日本アルプスが、まさに手を伸ばせば届きそうに視野一杯にそそり立つ。

 振り返ると、雪冠を抱く富士が美しく風景に溶け込んでいる。


 絵に描いたような景色とは、まさにこのことだ。


 すごい、でも、寒い。

 いつまでも見ていたい、でも、体は早く戻りたがっている。


 我慢できる限界まで風に吹かれながら景色を眺めて展望台を降りると、どこからかピアノの音色が流れてきた。音に向かって歩くと、本物のピアノが置いてあり、年配の女性が夢中になって弾いている。最近流行っている駅ピアノだ。誰でも自由に弾くことができるピアノが小淵沢駅にも置かれている。


 こんな風にピアノが弾けたら楽しいだろうなと、他に誰も客のいないコンサートを独占して十分堪能した私は、次の目的地へと出発した。

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