人生回り道

シヨゥ

第1話

「こっちに行くのが本当に近道なの?」

「いんや」

「そんな! 君が近道を教えてくれるというからついてきたのに! 僕の時間を返してよ!」

 そう詰め寄られた。

「まあ聞け」

 この展開は想定内。だから冷静に対応できる。

「近道って本当にいいものなのか?」

「そりゃあいいものだよ。短い時間で辿り着けるということはそれだけ早く楽になれってことじゃないか」

「そのあとが長く辛いことになるとしても?」

 その問いかけ2、

「それは嫌だけど、そんなこと起こるわけないだろう」

 と彼は否定した。だから僕は続ける。

「出来るということは出来なければならないことに変わるんだ。同じ速さを求められるようになる。

 近道は多かれ少なかれ危険だ。毎回通り抜けられると限らない。そんな道を毎回通らなければならなくなる。そうしたら『もしかしたら通れないんじゃないか』って気持ちを持ち続けることになる。それは辛いことじゃないかな?」

 その問いかけには彼は何も答えない。考えるように押し黙ったままだ。

「そんな思いするならいっそうのこと回り道をしていろいろなものを見て、いろいろな体験をしたほうがいいってもんさ」

「回り道してるの!?」

 その問いかけに頷いてやる。すると彼は顔を覆った。

「生き急ぐ君へのプレゼント」

「そんなのいらないよ」

 深いため息をつかれた。

「ここまで来たらあと少し。楽しんでいこう」

 腕を引っ張ると彼はよろけたように数歩前に進むと、

「仕方がないか」

 そう言って歩き出した。

「そうそう。人間諦めてからが始まりだから」

 慰めのつもりでかけた言葉に返ってきたのは拳だった。

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人生回り道 シヨゥ @Shiyoxu

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