24.戦士の咆哮1(レイサスside)


「おい! いきなりかよ!」


 ガンドフが大声で叫ぶ。


 僕たちは作戦会議をしながら川沿いまで戻り、山越えを始めたところだ。ふもとから山の上に吹き上げる風が心地よいと思っていた。ところが山道を登り始めてから一時間も経過していないうちに、濃い魔粒子を感じたのである。


 守護魔だ。


「ウルちゃん、探してきて! 戦わずに戻ってくるのよ」

 スカイラーが狼を放すと、狼は一直線に坂を上っていった。


 周辺を確認する。今までと比べて背の高い木が多く、亀の上にいても見晴らしは良くない。先へ進むのは得策ではないと判断し、立ち止まって狼の帰還を待つ。


 頭の中で戦い方をいくつかシミュレーションする。今回も切り札を使う可能性があるので、今のうちに覚悟を決めておく。


 二十分ほどで狼が戻ってきた。敵はそれほど遠くないらしい。スカイラーが狼と額を合わせる。狼の見たイメージを受け取れるらしい。言葉のやり取りはできなくともそれを越える情報が得られる。


「ここから真っ直ぐ進んだところに人間の二倍くらいの恐竜型の魔物がいるわ。尻尾と首が長くて、二本足で移動している。その周りには同じ個体で小さいのがかなりの数いる」

「恐竜型か。大きいのがおそらく守護魔だろうね。小さい個体の数は?」

「大体だけど、五、六十匹」 

「結構いるね。周りの景色はどうだい?」

「ここと違って荒れ地になってる。木はほとんど生えてないわ」

「わかった。これで大体の計画は立てられそうだよ」


 僕は頭の中で戦略を練っていく。敵の位置、敵の数、森、荒れ地。タイミングがシビアだが、何とかなるだろう。


 僕は作戦を決めた。


「ガンドフ。まずはこの周辺の木だけすべて切り倒してくれ」

「木を切るのか。どのくらいの広さが必要だ?」

「僕らが余裕を持って木のないところに陣取れるくらいで大丈夫だよ。僕らに炎の被害が及ばなければいいんだ。どれくらいかかる?」

「ハハハハハハ。そういうことか。作戦通りってことだな! 一時間もあればできるぜ」

 ガンドフは合点がいったらしい。早速周辺の木に向かって斧を振り始めた。背は高いが細身の木はガンドフによって次々と倒されていく。


「スカイラーは狼と一緒に魔物をこの森まで誘導してほしい。ただ、タイミングに気を付けないと巻き込まれるからね。魔物に近付かれ過ぎないように。一時間後に向かってくれるかな?」

「わかったわ。ウルちゃんがいれば大丈夫よ」

 スカイラーは笑顔で答える。


「今回ドナには中規模の炎を大量に撃ってもらう。大丈夫かい?」

「魔力は十分。問題ないわ」

 いつも通り表情を崩さずに首肯した。


 三段階との戦いが再び始まる。



ーーーーーーーーー



 山頂付近で土埃が上がるのが見える。魔物たちが移動しているのだ。スカイラーと狼は上手くおびき寄せてくれているらしい。宙源石を通してスカイラーから報告が入る。


「順調に追われているわ! ウルちゃんの方が足が早いから追いつかれる心配はなさそう」

 順調に追われるという言葉に顔が緩みつつも現状を把握していく。

「それは朗報だね。敵との距離は時間にしてどれくらい離れている?」

「うーん、大体十秒くらいだと思う」

「三十秒まで引き離せるかい?」

「やってみる!」

「引き離したらもう一度連絡して」

「はーい」



「今のところ問題ないみたいだな」

 ガンドフが斧で素振りをしながら声をかけてくる。土埃は徐々に近付いている。魔物たちが迫ってきている証拠だ。それより前にスカイラーがいておびき寄せているのだろう。

「うん。あの位置ならもうすぐだね」

「腕が鳴るぜ! ハハハハハ」

「たぶんガンドフの出番はあるから頼もしいね」

 できれば出番が来ないでほしいと願っているが、三段階は甘くない。きっとガンドフに切り札を使ってもらうことになるだろう。


 話しているうちに、恐竜の鳴き声のようなものが聞こえるようになってきた。そろそろだ。

 そう思った瞬間にスカイラーから連絡が入る。タイミングもいい。

「レイサス、三十秒くらい離したわ」

「ありがとう。そこからは全速力でこっちまで戻ってきてくれ」


 すぐさまドナの方へ向き直って指示を出す。


「ドナ、森の外側から内側に向かって火をつけて!」

「わかった」


 目の前の森に向かってドナが炎の魔術を撃つ。まずは森の両端から二発、それから中央へ向かって次々と炎を発射していく。森はあっという間に火の海になった。


 炎の隙間からスカイラーを乗せた狼が飛び出してきた。タイミングは完璧だ。


「スカイラー! 完璧だ! ドナ! 今度はなるべく遠くを狙って!」


 ドナは無言で照準を遠くに合わせて撃つ。


 元々火は山の上へ燃え広がるものだが、今はふもとから風も吹き上がっているため、燃え広がる速度が想定以上だ。森全体が赤くなるのに時間はかからなかった。それと共に恐竜の悲鳴が聞こえた。森の真ん中付近にいた魔物たちは進むことも戻ることもできずに焼けていく。


 僕たちはガンドフが木を切ってくれたおかげで炎に巻き込まれることはなかったが、目の前で燃える森の熱は感じることができた。



 突如、炎の中から小型の恐竜が飛び出してきた。うまく逃れたようで、先頭にいたガンドフを狙ってきたが、それも想定済み。ガンドフの斧によって一撃目で片足を失い、二撃目の斧で首を落とされて絶命した。

 少ししてから二匹の魔物が炎から脱出してきたが、どちらもガンドフが切り伏せた。


 ここまではシナリオ通り。僕は炎の中に神経を集中させる。


 来ている。かすかだが今までよりも大きな足音が近付いてくる。


「守護魔、近いよ!」

 スカイラーも叫んだ。


 わかっている。


 炎では倒せないだろうと思っていたよ。やはり切り札を使うしかない。僕は前線で構えている男に声をかける。


「ガンドフ!」


「安心しな、あっさり倒してやる!」

 ガンドフは振り向くことなく答えると、腰に付けていた袋から取り出した真っ黒な丸薬を口に入れ、噛み砕いた。


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