第392話
さて、試運転がてらに王都へと向かう事にしたんじゃが、行くのはワシだけでは無い。
もし、小僧の言う通りに本当に『
じゃから、ワシ以外に向かうのは、予定としてはベヤヤとクモ吉、バート、ムッさんじゃ。
最悪、王都周辺の地形を犠牲にする事になるが、ワシとムッさんの『強化外骨格・改』で、広域破壊魔法と『黒天砲』で吹っ飛ばす。
まぁ行って見なければ分らんな。
「という訳で、準備は良いかのう?」
「いや、急に集合とか言われたから来たけど、何するか聞いてねぇから何も用意してねぇよ」
ワシが聞いたらバートがそう答えたんじゃが、アレ、用件は伝えたと思ったんじゃが?
「クマ公に乗って急に来て、『今夜、外の平原に集合』とか言って走り去っただけだな」
ムッさんが腕組みしながらそう言うが、ちゃんと『王都に向かうから』と言ったんじゃが、聞こえてなかったみたいじゃのう。
流石に、ベヤヤの背に乗って走りながら伝えたから、聞こえる前に走り去ってしまったんじゃろう。
コレはワシの失態じゃな。
しかし、何も持っておらんでも問題無いじゃろう。
どうせ、直ぐに着くじゃろうし。
「しかし、どうして出発がこんな夜なんだ? 明るい方が安全だろ?」
「ちょっと問題があってのう。 それを警戒してこんな時間に出発なんじゃよ」
ワシ等は許可を取ってあるから外に出る事が出来るが、許可を得られなければ、夜に『シャナル』の外へと出る事は出来んのじゃ。
つまり、小僧がワシの後を付いて来ても、許可を持っておらんから門の所で止められてしまう訳じゃ。
という訳で、安心して王都へと向かう事にするのじゃ。
「だが、今から王都に行くったって、また長期間此処を離れんのか?」
ムッさんがそう言うのじゃが、まぁ普通に考えればそう思っても仕方無いじゃろう。
しかーし、今回は秘密兵器があるのじゃ。
『シャナル』から離れた場所にやって来て、ワシは肩から下げておる鞄を開くと、そこから取り出した風を装って、『インベントリ』に収納しておいたある物を取り出したのじゃ。
「で、デケェ……けど、何だコレ?」
「見た目は……なんか変な部品が付いてる……卵か?」
「まぁ予想通りの反応じゃな」
二つの青白い箱にそれぞれ緑色の巨大水晶が嵌め込まれ、それが複数の鎖で中央の青白い物体に繋がれた謎の物体。
この妙な見た目の卵じゃが、コレこそがあの小僧が言っておった飛空艇『天翔ける船』、の試作品。
水晶が嵌め込まれておるのが、結界発生装置兼推進装置であり、このユニットによって一気に空を飛ぶという仕組みになっておる。
搭乗者は中央にある白い本体に乗り込み、この本体には発生する慣性を内部へと伝えぬ様に消去する機能や、疑似的に重力を発生させて安全に過ごせる様な安全機能を盛り込んだのじゃ。
もし問題が起きて、墜落する可能性が発生した場合じゃが、推進装置は本体から切り離され、推進装置はそのまま上空へと上昇した後に自爆し、本体は重力魔法によって減速しつつ地表へと落下した後、地面と程度の距離まで接近したら、重力魔法によって更に減速し、安全に着地する様になっておる。
そう説明しながら乗り込んだのじゃが、バートは『へぇー』と感心した様に呟きながら乗ったのに対し、ムッさんの方はかなり怪しんでおる視線を向けておった。
本体の中に入ると、そこには複数のレーシングマシンに使われておる様な椅子が置かれており、目の前には巨大な水晶板が設置されておる部屋となっておる。
壁にはいくつかの突起があるだけで窓すらない。
その椅子の一つにバートが腰掛けると、肘掛けの部分が倒れ、まるで安全バーの様に身体を椅子に固定しておる。
固定するとは言え、出発前じゃから本格的な固定と言う訳では無く、この段階では手で簡単に押し上げる事が出来る。
ベヤヤは部屋の隅の辺りを歩き回って確認した後、隅の方に座ったのじゃ。
流石にベヤヤ用のサイズは無いからのう。
「……こんだけのモンを大っぴらに言ってねぇって事は、どうせ、なんか問題があるんだろ?」
ムッさんは意外と鋭いのう。
その通り、この試作飛空艇には、複数の解決出来ておらん欠点があるんじゃよ。
「欠点って?」
バートが安全バーを押し上げながら聞いて来たんじゃが、現状での欠点は以下の通りじゃ。
推進装置の推力値が非常に難しい点。
前に、バートの強化外骨格に使った加速装置を、更に巨大化、大推力にした物が、この飛空艇に搭載されておる訳じゃが、此処まで巨大化した物じゃと、その推力は凄まじい一方で、暴走した場合、確実に大事故に繋がってしまう。
いくつもの安全装置を組み込んではおるんじゃが、それでも万が一という危険性があるから、本来は何度も試験を繰り返して問題を洗い出していく必要がある訳じゃ。
次の問題は、展開する結界の問題。
この結界は正面に展開し、進行方向にある異物からの衝突などを防ぐ意味合いが強い結界なんじゃが、それの強度の最適値がまだ分からんのじゃ。
結界が強過ぎれば、マナを無駄に消費するだけでなく、速度にも影響を受けるし、逆に弱ければ、飛ぶ事の出来る魔物や魔獣との衝突で砕け、本体や推進装置に衝突するという大事故が起きる可能性がある。
当初、この結界は本体全てを覆う様に展開する予定だったんじゃが、そうすると何故か浮く事も出来ず、全く進む事が出来なくなってしもうたので、本体全部を覆ってしまうと推進力が得られなくなってしまう様じゃ。
なので、これも本来は、何度も試験を繰り返して最適なサイズとかも探る必要があるんじゃ。
そして、欠点と言う訳では無いが、本体の居住性の問題もある訳じゃ。
現状、人が過ごす部屋の大きさは、巨大モニターが正面と左右にあり、椅子が数脚あるだけで、机も無ければベッドも無い。
当然、
最後に、最大の問題点。
これ等を十全に稼働させる場合、現状ではワシが動力の供給源となる以外に解決方法が無いという点じゃ。
その為、ワシは本体前部にある特別室に入り、そこで専用の椅子に座って、飛空艇の稼働中は常に椅子の肘掛けにある丸い水晶に触れておらねばならん。
勿論、数分間くらいであれば離しても問題無い様に、マナを溜めておくブルーメタルのタンクも付けておるが、その場合は速度を落とした上に、高度の維持が出来ずにゆっくりと落ちていくのじゃ。
そんでもって、その関係で武装を一切搭載出来なかったんじゃよね。
これらの問題が解決せねば、世界中に『飛空艇』が普及するのは不可能じゃろう。
ワシも、本来はこれらの問題が解決し、完成するまでは発表する気も無かったのじゃが、今回は小僧の言った事が気になるから例外じゃ。
「つまり、クソガキが俺等の命を握ってるって訳だ」
ムッさんが諦め気味にそう言っておるが、別に事故で空に放り出されたとしても、ムッさんもバートも強化外骨格があるから大丈夫じゃろうし、ベヤヤも『
当り前じゃが、ワシとクモ吉も問題無い。
「さて、まぁワシが動かすから今回は問題無いとして、ちゃんと椅子に座っとれよ、そろそろ出発するからのう」
ワシはそう言って椅子に座り、肘掛けの水晶に手を乗せると、飛空艇の各部が淡く緑色に発光を始める。
ムッさんも椅子に座ったのを確認した後、ワシは目の前のモニターに表示されておるいくつもの項目をチェックし、全て問題が無い事を確認。
さて、いよいよ、異世界で初飛行の開始じゃ。
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