第266話




 森の中に何かいる。

 そんな事言われて俺が来た訳だが、見た目は俺がいた山の麓に広がる森と大差ねぇな。

 そう思ってたら、木の根元に見た事無い黒い見た目のキノコを発見!


「グァウ(コレは喰えそうだな)」


 臭いを嗅ぎ、試しに根元を摘まんでプチッと採取。

 そういや、アイツから新しいスキル簡易鑑定を貰ったんだったな。

 試しに、キノコを持ちながら頭の中で『簡易鑑定』と念じてみる。


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 名前:モアキノコ(無毒)

 品質:普通

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 お、毒は無いのか。

 後は味だが、少し採取して美味かったら持ち帰るか。

 プチプチと木の根元に生えていたキノコを集めておく。

 そのキノコが生えていた木にも、見た事の無い緑色の木の実が生っている。

 実の大きさ的には、親指と人差し指で作った輪っか程度の大きさ。

 それも『念動力サイコキネシス』で採取。


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 名前:アケダマ(未成熟)

 品質:普通

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 『簡易鑑定』って便利だな。


「ガゥァウ(この木の実は見た事ねぇなぁ)」


 未成熟って事は、もう少ししたら熟して美味くなりそうだな。

 一応、未成熟でも喰えない事は無いだろうから、首にある鞄に突っ込んでおく。

 後で此処の奴等に聞いてみて、美味い木の実なら苗木を貰っていくか。


『いやベヤヤよ、別に構わんのじゃが、一々報告してこんでも良いのじゃぞ? それに、目的の相手を倒した後にでも、好きに採取したら良いじゃろ?』


 『念話』で報告していたら、アイツからそんな答えが返って来た。

 『報・連・相』は大事な事だと、弟子達から学んだんで『念話』で報告してたんだが、アイツの言う事も納得出来る。

 つまり、さっさと目的の相手をぶっ倒したら、後は俺の好きな様にして良いって事だな!

 よっしゃ!

 もう既に臭いで大体の位置は分かってる。

 と言う訳で……


「ガァァァァッ!(突撃じゃぁぁぁっ!)」


 恐らく、俺の気配を感じ取ったら相手は逃げる。

 だから、一気に接近して逃げる気を起こさせず、さっさと終わらせる!

 ちょっと木を何本も圧し折っちまうけど、後で回収して有効活用するから勘弁して欲しい。

 数本の木を薙ぎ倒し、途中にいた憐れな魔物ゴブリンとオークも吹っ飛ばして突き進む。

 そして、遂に目的の相手を見付けた。


「グォォォッ!」


 ソイツが仁王立ちして俺の前に立ち塞がった。

 俺そっくりな黒い熊。

 ただ、コイツは『エンペラーベア』ではなく、『マーダーベア』と言う熊型魔獣で、俺より遥かに弱い。

 まぁ、ニンゲンからすりゃコイツ一匹でもかなり苦戦するだろうけどな。

 その『マーダーベア』が赤い目を更に血走らせ、俺の方を睨んでいるが、その背後を見るにお食事中だったようだ。


「グァゥ?(此処に何の様だ?)」


「ガァァゥ!」


 変だな、言葉が通じねぇ。

 それどころか、コイツ本当に『マーダーベア』か?

 よく見たら、黒い毛に隠れてるが、なんか頭やら腕とかに鱗みたいな部分が見える。

 まぁ良いか、やる事は変わらねぇ。


「グァッ(よっと)」


「ガァァァ……ァ……ァ…………」


 大手を広げて威嚇する相手の目の前で、俺も同じ様に仁王立ちするが、体格は完全に俺の勝ちだ。

 頭二つか三つ分、俺の方がデカい。

 ニンゲンで言うなら、完全に大人子供コイツだな。

 普通なら、俺が威嚇すりゃ相手は逃げるんだが、コイツは怯んじゃいるけど逃げる気配が無い。

 うん?


「グ、グァァッ!」


 逃げない事を不思議に思ってたら、いきなり爪で引っ掻いて来た。

 まぁ避けなくても全く問題無いんだがな。

 相手の爪が俺の左脇腹に当たり、バギンッと凄まじい音が響いて、少し離れた所でドスッと音がする。


「グギャァァァッ!?」


 相手が叫び声を上げて後退る。

 見れば、相手の右腕の爪が数本、根元からボッキリと折れ、そこから血が噴き出している。

 そりゃ下位種マーダーが、常日頃から鍛えてる最上位種エンペラーの防御を抜ける訳無いだろ。

 俺が一歩前に出ると、相手が一歩下がる。

 この時点で、普通の魔獣とかなら俺には敵わないと判断して逃げるんだが、俺等の様な魔熊種は、敵わない相手だろうが殆ど逃げる事はせず、最後まで喰らい付くという好戦的な種だ。

 まぁ下位種の場合は、流石に逃げる事の方が多いけどな。

 なので、長引くと面倒になるから、さっさと終わらせるとしよう。

 『念動力』でコイツの足を固定し、今度は俺が右腕をゆっくりと振り上げる。

 コイツが俺の攻撃から逃げようと暴れるが、逃げられる訳ねぇだろ。


「ガゥッ(ほいっと)」

 

 俺的には軽く腕を振り下ろしただけだ。

 だが、コイツにとっては、その威力は想定をはるかに超えていただろう。

 頭の先からザックリと斬り裂き、大量の血が噴き出した。


「グ……ァァ………ァ……」


 そのまま仰向けに倒れ、ビクビクと痙攣した後、動かなくなる。

 それを確認した後、試しに首の鞄とは別の鞄に入れてみるとスルリと入った。

 この鞄、首のと同じ物だが、首のは調理道具やら野菜とか果物とかを入れ、こっちは肉にする予定の解体前の獲物とかを入れる様に使い分けている。

 別に一緒にしても大丈夫とは分かってるが、なんとなく不衛生だと思うからな。

 そして、この鞄には生きてるヤツは入らない。

 だから、鞄に入ったって事は、コイツは完全に死んだって事だ。


 さて、それじゃ、早速採取するか!

 取り敢えず、薙ぎ倒した木を回収して、それから……

 そう考えつつ『簡易鑑定』でアレコレ調べ、色々と採取用の鞄に突っ込んでいく。

 中でも当たりだと思ったのが、地面から伸びて木に巻き付いていた蔓。

 枯れて茶色になった蔓を辿って、地面を掘り返していくとそこから出て来たのは芋。

 ただ、ジャガイモと違って長くて太く、一本しかないが、『簡易鑑定』でこの芋は美味いと分かっている。


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 名前:土芋(完熟)

 品質:最高級

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 完熟状態と言う事は、身も柔らかいという事だ。

 慎重に掘り返して引き抜いて、『念動力』で芋の周りに付いた土を落としてから鞄の中に収納。

 周りを見れば、同じ様な蔓がいくつもある。

 その中でも、成熟したヤツと完熟なヤツを慎重に掘り返し、丁寧に土を払ってから収納していく。

 後は、未成熟なヤツも数本だけ回収。

 この未成熟なヤツは、持ち帰って畑に移植する予定だ。

 上手くすれば、増やす事だって可能になるだろうが、一々深く掘り返さなきゃならないのが欠点と言えば欠点だな。

 そんな事を思いつつ、キノコやら木の実、野草や根菜を集めていく。

 そうして、集めまくっていたら、結構な量が手に入った。

 中にはすぐ食べて試そうと考えている物もあるが、基本的には住処に戻って畑に移植する物も多い。

 特に、芋とキノコは直ぐに試すつもりだ。

 ただ、どういう料理にするかと言う問題があるが、まぁ最初は簡単に串焼きが一番だろう。

 串に刺して焼きながら、軽く塩だけで味付けし、まずはどんな味や香りがするのかを確認する。

 それで美味ければ、キノコは追加で採取するし、芋も本格的に植え付けを行うつもりだ。

 もし、この森だけで育つような特殊な物だった場合、自分で育てるのは諦めるが、どうにか買い付けすれば良いだろう。

 そんな事を考えながら、最初に薙ぎ倒した木を持ち上げて鞄に収納していくと、木の上の方からボトボトと黒い何かが茂みの方に落ちた。


「グァ?(なんだ?)」


 黒い物体が落ちたのを見て、俺は茂みの方を覗き込んだ。

 そこにいたのは……

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