第226話
私の名前はライム。
学園に通う前の記憶が無く、気が付いた時にはこの国の王都で倒れていた。
右も左も分からず途方に暮れていた所で、ドリュー先生に拾われ、学園で色々と学んでいるけど、私の
でも、何故か、私はとある魔物しかテイム出来ない。
何度もドリュー先生と一緒にテイムに挑戦したけど、結局テイム出来たのは1体だけで、その魔物も同級生やドリュー先生以外の先生達からは役立たずと言われ続けた。
それでも、何とかしようと色々と挑戦し続けたけど、全然駄目だった。
そんな事が続いていた所に、ドリュー先生が少しの間学園を離れる事になり、その代わりに新しい先生がやってきた。
その先生の授業を受けるかは、私達生徒が決められると言われ、何故、私は残ったのか分からない。
授業を受けるなら今学期の学費を免除するとか言われたけど、私達は王都の中で細々とした手伝いをしてお金を稼いで払っているから、免除されるなら嬉しいけど、別に払えない訳じゃないから、免除されるとしても受ける理由にはならない。
それでも、私は何故か教室に残っていた。
そして、その新しい先生の授業を受ける事になったんだけど、その先生が教えてくれる事は、今までの私達が教わって来ていた授業とは掛け離れていた。
悪い意味では無く、もっと高度で、恐らくだけど、魔術師としての神髄に近い事だと思う。
その授業を受ける事で、色々と新しい事も、私がやれる事も分かって来た。
そして、私がテイムしていた魔物に付いても、先生が色々と教えてくれた事で、ちょっと自信がついてきた。
そんな所でこの決闘。
皆は余裕で勝利していたけど、私はまだちょっと自信が無い。
皆は私なら勝てると言っているけど、本当に私なんかが勝てるのか凄く心配。
そんな事を考えながら、私は前に出た。
もう後が無い。
貴族である我々は最高の授業を受け、最高の素材を使った道具を使っているのに、平民なんぞに負けている。
別に、前に戦った奴等が弱い訳じゃ無い。
「全く……まさか一敗どころか全敗するなんてね」
僕の言葉で、その場にいた全員が目を背けた。
負けた奴等は、全員が治療室送りになっているからこの場にはいないが、残っている奴等はアイツ等よりも弱い奴等だ。
しかし、此処にいるのは、全員がバーラード学年主任によって、例外なく全員が一流の授業を受けていた筈だ。
それなのに、殆ど何も出来ずに負けてる様じゃ駄目だろ。
こうなったら、この僕だけでも勝利しなくちゃいけない。
幸いにして、先日、父上から僕の為に新しい魔獣を購入したと言われて、早速テイムしているし、僕の相手はあの落ちこぼれ従魔師のライムだ。
新しく手に入れたコイツなら、余裕で勝てるだろう。
コレで負けるようじゃ話にもならない。
「まぁ仕方無い、一勝だけはしてやるよ」
従魔師である僕じゃ、ライムの奴はともかく、他の奴等の相手は出来ないしな。
それに僕だけでも勝って、アイツ等と違って無能じゃない事を証明しなくちゃな。
従魔師同士の戦いの場合、本人が戦うのではなく、互いにテイムしている魔獣や魔物を戦わせる事になる。
学生であれば、用意出来るのはマッドマウスとかホーンラビットとか、強い所でもフォートドッグくらいだ。
フォートドッグは、平原にいる野犬型の魔獣で、野犬より多少大きくてそこそこ強いがそれだけだ。
だが、僕が手に入れたのはそんな雑魚共なんかよりも強い魔獣だ。
連れて来られたのは、黒い体毛に凛々しい顔つきの狼型の魔獣である『ブラックウルフ』。
冒険者ギルドによる討伐ランクはCランクの魔獣で、普段は森の中で群れで活動していてるから、かなり厄介な魔獣だ。
そんな魔獣が、偶然、商人が手に入れて売買しているのを父上が僕の為に購入して、学園に運んでくれた。
そして無事にテイム出来たが、まぁあのライムの相手じゃ強過ぎるかな?
僕がテイムしている事を証明するように、ブラックウルフの首には青い宝玉が付けられた赤い首輪が巻かれている。
テイムした魔獣や魔物に首輪や腕輪を付けるのは最近の
このブラックウルフに付けている首輪も、それなりに高価な素材を使って作らせている。
僕も今はまだ無名だが、将来はこの従魔師の力を使って稼ぎまくってやるぜ。
「……それでは、ケトル対ライム、決闘を始めよ!」
バーラード殿がそう言っておるが、その表情は苦々しく歪んでおる。
まぁそうなるのも無理はないじゃろう。
自分が教えている生徒達が余裕で圧勝すると思えば、落ちこぼれじゃと思っておった生徒達に、此処まであっさりと全敗しとるんじゃもんな。
まぁこうなるのも無理もなかろうと思うがの。
何せ、この学園で使っておる教科書では、詠唱は大きくハッキリと発声しなければ精霊には伝わらない、とか、仰々しい動作をして精霊に感謝を捧げなければならない、とか、そんな事を教えておるんじゃもん。
魔術と言うのは、使用者のイメージ力と魔術陣をどれだけ正確に構築し、マナをどれだけ籠められるかで、発動速度も威力も変わる物じゃ。
そも、精霊なんて存在はおらぬし、仰々しい動作なども必要無い。
ワシが教えておるのは、発動する魔術のしっかりしたイメージと、魔術陣の構成をしっかりと正確にする事、体内マナを増やして一度に籠められるマナの量を増やすという事じゃ。
コレだけでも、使える魔術の威力は格段に上がるし、魔術の拡張性も広がるのじゃ。
拡張性と言うのは、簡単に言えば、その魔術でやれる事が増えるという事であり、例えば、ただの水の弾を撃ち出すだけの魔術に対し、その水の弾を細くして貫通力を上げたり、逆に薄くしたりして切断力を上げたり、逆に強力に圧縮して打撃力を上げたりする事が出来る様になる。
まぁイメージだけでは、そこまで劇的に変化させる事は難しいのじゃが、ここに魔術陣に使用する魔法文字を変える事でその変化を補佐出来るのじゃ。
ワシであれば、一つの魔術に対して、5個から6個くらいは派生魔術を作っておる。
まぁ、『グラビトン・レールガン』や『
そして、ライムに関しては従魔師じゃから、体内マナの量を増やす以外に、テイムしておる魔獣や魔物との連携や戦い方を教えておる。
テイムの仕方にはいくつか方法がある。
よく勘違いされておる事じゃがテイムと言うのは、魔獣や魔物を倒してテイムするという以外にも、自身の知恵を試されたり、望む物を渡したり、対話で認めたりと様々じゃ。
ベヤヤの場合は戦って認めさせ、クモ吉の場合はワシが無理矢理にマナで契約した感じじゃ。
問題はその後、ちゃんと交流して絆を結んでおるかどうかじゃ。
ベヤヤに関しては、もう戦いよりも普通に料理の道に邁進と言うか爆走しておるし、クモ吉にしてもワシと契約した後は、平穏な日々を送っておる。
「……魔女様、本当に大丈夫なのですか?」
「んむ? まぁ問題無いじゃろう」
「しかし……あの子がテイムしているのは……」
小声でノエルが心配そうに話し掛けて来るが、確かに、ライムがテイムしておる魔物は一般的には弱い魔物じゃな。
しかし、ワシが思うにあの魔物は正直弱いとは思っておらん。
寧ろ、ある意味、最強の魔物じゃと思っておる。
それはこの決闘で証明されるじゃろうて。
心配そうにしておるノエルとカチュア殿に対して、ワシが言えるのは一つじゃ。
「二人共良く見ておくと良いのじゃ、これから起こるのは最弱の魔物による下剋上じゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます