第207話
「それで、一体何があったのじゃ?」
完全部外者のエドガー殿が退室した所で、改めて、ワシが呼ばれた理由を聞く。
一応、ゴーレムに関しての話じゃとは手紙で知っておるが、ソレだけでワシが呼ばれる理由とはならんじゃろう。
王都なのじゃから、優秀な研究者もおるじゃろうし、何なら魔術知識も豊富なカチュア殿も手伝っておるのじゃが、その者達が全員匙を投げたというのじゃろうか?
そう思っておったら、宰相殿が机の上に分厚い紙束を2つ置いたのじゃ。
その表紙には、『大型ゴーレムについて』と書いてある事から、コレが報告書なのかのう?
「コレがシュトゥーリア領から王都へと進撃して来たゴーレムに付いて、調査で分かった点を纏めた報告書となるのですが……一つは原本、もう一つはそこから要点を纏めた物となります。 調査にはマグナガン学園の錬金術の学科に勤めています教授を中心に、カチュア殿とニカサ様が協力して頂きましたが……まずは、レイヴン殿から読んで頂きたいのです」
「あ? 俺から?」
ワシに見せる前に兄上に見せる?
どういう事じゃろうか?
「……儂も読んだが、内容的に幼子に読ませる内容では無いのでな……魔女様であれば、とも思うが、一応、レイヴン殿の判断に任せたい」
「……俺じゃ魔術的な事は判断出来ねぇんだが……まぁ一応見てみるか……」
陛下の言葉を聞いて、兄上が要点を纏めた方を手に取ってパラパラと見ておる。
それが中間あたりで一旦止まり、その後、再びパラパラと捲っておる。
そして見終えたのか、要点を纏めた方を机に置き、今度は原本の方を手に取っておる。
中央辺りでやはり捲る手が止まる。
「成程な、確かにこりゃ見せるのを躊躇う様な内容だが、コイツなら問題無いだろう」
そう言って兄上が報告書を閉じて、ワシの方に原本を差し出して来たのじゃ。
ふむ、コレはワシが読んでも問題無いようじゃのう。
「一応言っておくが、かなり胸糞悪ぃ内容だ……これ読んで、あの国吹っ飛ばすつもりなら協力するぞ」
「おいおい、余り物騒な事は言わんでくれ……儂等では止められんのだからな」
兄上の物騒な発言に対して、陛下がそう言っているが、兄上がそう思う程、胸糞悪くなる事が書いてあるのかのう?
取り敢えず、受け取った原本をペラペラとページを捲る。
最初は襲撃してきたゴーレムの外観と、大凡のサイズがイラストの様に描かれ、余白の部分に色々と文字が書かれておる。
ふむ、大きさはやはり10メートル、重量は相当な物じゃが、随所に『重量軽減』の魔法陣が刻まれておる事で対処しておる様じゃのう。
その魔法陣以外に、ゴーレムの表面には『魔法吸収』の魔法陣が肩やら胸やら背中やらと、色々と刻まれておる事で、外部からの魔法攻撃や大気中のマナを吸収し、活動時間を延ばしておる。
そして、内部構造じゃが、人体の骨格に近いボーンフレームに、胸部にある操縦席からミスリルを線として各所へと伸ばして操縦する形を取っておる。
操縦席には、謎の板が貼られており、ソレから伸びたミスリル配線が頭部に伸び、ゴーレムの眼球に繋がっておった事から、ゴーレムの視覚を映していたのでは?と書かれておる。
恐らく、眼球に繋がっておる謎の板と言うのはモニターの事じゃろうが、この異世界じゃとワシが治療用の物で作っただけじゃから、まだ分かっておらんじゃろうのう。
そうしてページを捲って行くと、ゴーレムに使用されておる素材に付いてや、関節部分に刻まれておった魔法陣に付いてのメモ書きに近い考察が書かれておる。
ゴーレムの核となるゴーレムコアは、恐らく、オークキングか、オーガジェネラルと言った上位種の魔石を使っておる。
ヴェルシュには、コレ等が出現する
そして、此処までの文字はカチュア殿の物じゃったが、ページを捲った所、ある部分から別の人物の文字に変わっておる。
それが、兄上が手を止めた中間あたりなのじゃが、読む限り、ゴーレムの動力関係の部分になるのじゃ。
まぁ、コレだけデカイ物体を動かしておると言う事は、相当な出力になるのじゃから、何か革新的な技術でも使っておるのかのう?
そう思って読み進めたのじゃが……
……成程のう……
宰相殿達がワシに見せたくないのも、兄上が止まるのも理解出来る。
それに、国を吹っ飛ばす云々と言ったのも分かるのじゃ。
その部分を読み進め、一番最後まで読んだ後、原本を机に置いて宰相殿の方を見る。
「宰相殿、此処に書いてある事に間違いはないのかのう? 調べた者の見間違いとか、似た物とか……」
「残念ながら……我々も最初は信じられなかったので、本当か確認して頂く為、ニカサ様に依頼しまして……本物だと言われました」
「我々としては、それを知った際に衝撃を受けましたが、最も衝撃を受けたのは最初に調査しておりました、カチュア殿でしょう」
陛下が言う通り、此処に書いてあるのが本当だと、カチュア殿にはとても辛い事なのじゃ。
それ程、此処に書かれておった事は衝撃的な事なのじゃ。
ワシは、巨大ゴーレムを運用するには大量のマナが必要になり、その為に運用する事はほぼ不可能と考えていたのじゃ。
それでも運用する場合は、大量の魔石を用意し、それを使って使い捨てを覚悟するか、ワシの様に、大量のマナを保有しておる術者が乗り込めば良い。
しかし、ワシ並にマナを保有しておる者はまずおらぬし、もしいたとしても、同時に何人も用意する事は出来ぬじゃろう。
じゃが、このゴーレムはそう言った問題をある事で解決しておる。
このゴーレムを設計、開発したのは帝国の大賢者と言う話じゃが、前に
「一応確認じゃが、この事を向こうの皇帝は知っておるのか? もしも、知っていてやらせておるなら、ワシでも容赦せぬぞ?」
「個人的な意見だが、恐らく皇帝は知らんと思う。 前に一度会った事があるが、あの皇帝は民を大事にしておるから、知っていれば絶対に許可せんだろう」
ほう、陛下は実際に会った事があるのか。
しかし、表向きはそう見えても、裏では……と言う事は無いのかのう?
そう言ったワシの質問に、陛下が頭を横に振ったのじゃ。
「前皇帝であれば、クリファレスとの戦争を優先しておったから許可を出すかも知れんが、現皇帝は民が疲弊し、苦しんでおったのを見て、前皇帝を討って皇帝となっておる。 民を犠牲にする政策はせぬ筈じゃ」
「ですので、我々は『皇帝自身は知らない』と言う事を前提に、とある人物と、複数の手段を用いて報告書を託し、ヴェルシュへと向かわせております」
宰相殿がそう言って説明してくれたのじゃが、報告書を託したのは冒険者ギルドの高ランク冒険者パーティーと、商人ギルド、更に城からの早馬を使っておる以外に、ヴァーツ殿が推薦したとある人物じゃ。
それが、進撃してきたゴーレム達と共に襲撃してきた、『城壁崩しのベルメトン』と言う名の象獣人。
敵である者に託して大丈夫なのかとも思ったのじゃが、ベルメトンは帝国と言うより、皇帝自身に忠誠を誓っておるらしく、今回の件に対しても『皇帝は知らない筈だ』『知っておれば確実に止めさせている』と言っておったらしい。
これでヴェルシュがどう動くのか分からぬが、クリファレスの方も何やらキナ臭いし、教会も不気味に沈黙しておる。
それを思うと、思わず溜息を吐いてしまうが、それも仕方ないじゃろう。
そして、机に置いた原本に視線を落とす。
「しかし、コレは本当に手を打たねば拙い事になるじゃろうなぁ……」
巨大ゴーレムを動かす為の膨大なマナ。
それを確保する為に、ゴーレム一体に対し、変わり果てた姿のエルフが複数人組み込まれておったのじゃ。
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