第203話




 出来上がったウナギ料理じゃが、まぁ分かり切っておるが予想通り『美味い!』の一言に限るのじゃ。

 蒲焼はかなりの大きさがあるのじゃが、タレの味も相まって普通に食べ切れてしまう。

 泥臭さも無く、蒸しあげた事によって余分な脂が抜けて非常に美味。

 白焼きの方も、味が付いておらぬからウナギ自体の味がするのじゃが、今回は岩塩とタレを付けて美味なのじゃ。

 コレは売りに出せばかなり売れるんじゃろうが、問題は輸送とタレじゃな。

 この世界の輸送は、まだまだ馬車に頼っておる関係で時間が掛る。

 そうなると、ウナギをある程度調理しても運んでおる間に腐ってしまうじゃろうし、タレもベヤヤが使っておるのは、ワシが用意しておるからのう。

 そう思って気が付いたのじゃが、最近、ベヤヤに醤油やガムシロを手渡しておらぬ。

 じゃが、ワシの目の前には、ベヤヤが用意したタレの入った甕がある。

 確かに、色々と混ぜたりして嵩増ししておるのは知っておるのじゃが、どう見ても量が多過ぎる。


「のう、ベヤヤよ、最近醤油とか渡しておらぬが、タレとかはどうしてるのじゃ?」


 まな板や使った調理器具を片付けておるベヤヤに聞いて見た所、なんとこの料理熊、遂に醤油を自作する事に成功しておったらしい。

 しかも、豆とかを使わずに、全く違う方法で再現してしもうたのじゃ。


 元々は偶然から生まれた物で、乾燥させておったキノコを水で戻して炒めおった際、偶然に積んでおった荷物の一つが崩れて中身が零れてしまい、慌てて戻しておったら、炒めておったキノコが焦げてしまい、止むを得ず片付けようとしたのじゃが、ワシがメイラード反応の事を教えておった事で、この焦げたキノコに対して出汁等をアレコレと試しに追加してみた所、色がかなり薄い醤油に近い物が出来た事で『もしかしたら醤油を自作出来るのでは?』と考えて改良していたら、醤油モドキが出来てしもうた。

 なので、今ではそのレシピも確定させて、定期的に作っておるらしい。

 ただ、最初は風味が若干違うし、味も薄かったらしいのじゃが、そもそも、ワシが渡しておった醤油自体も、そのまま使っておったのは最初だけで、今では炒った木の実やら蜂蜜やらを追加しておるので、自作した醤油でも問題はないらしいのじゃ。

 今回も、それを使っておったのじゃが、普通に気が付かぬかった。


「まさか、醤油まで自作するとは……その内、他にも作りそうじゃのう……」


「グゥ……ガゥァ……(だが……『みりん』が出来ねぇ……)」


 ベヤヤが悔しそうに言うが、まぁみりんは元々酒から造る物じゃからのう。

 何かで代用するにも、日本酒が必要じゃから、まだ自作も出来ぬじゃろう。

 それでも、ここまで再現出来るのは凄まじい執念を感じるのじゃ。

 戻って来た剣聖進藤殿にも、ウナギを振舞ったのじゃが、涙を浮かべながら食べておった。

 そして、除去作業じゃが順調に進んでおり、予定通りに通れるようになるとの事。




 取り敢えず、このウナギに関しては更に捕獲して、泥抜きしながら王都へと目指す事になったのじゃが、生きたままでは収納袋には入れられぬので、ワシ等の乗っておる馬車の後ろに二台目の馬車を接続し、そこにタライを並べる事にしたのじゃ。

 二台目の馬車じゃが、ワシのアイテムボックスに入れておった物を、収納袋に入れておった様に偽装してあった物じゃ。

 そして、ウナギの逃走対策としてタライには蓋を追加し、1日ごとに一つのタライに収まっておる複数のウナギを捌くようにしたのじゃ。

 捌いてしまえば、収納袋にも入るしのう。

 因みに、調理するベヤヤの独断で、ウナギは背開きだけじゃ。

 どうやら、蒸し上げる事で脂が抜けて身がふっくらと仕上がる事に気が付いた様で、色々と思い付いたようじゃ。

 そう言えば、ウナギの肝は肝吸いに出来るのじゃが、流石に作り方はよく知らん。

 確か、味付けは出汁と塩くらいしか使わぬのじゃったかのう……

 なので、道中のベヤヤ頼みとなったのじゃ。


 最終的に王都に到着するまでに、二台目のウナギ達は全て捌かれ、タレも切除した中骨をカリカリに焼き上げた物や、頭を割って焼いた物を加えて加熱した専用の物を用意しておったのじゃ。

 王都に到着次第、今回の事はエドガー殿に相談する事になっておる。

 流石に、ウナギまでワシ等で管理するのは無理じゃからのう。

 それと村人に対し、ウナギの調理方法を教えようとも考えたのじゃが、毒がある時点でちゃんと指導出来ねば大変な事になってしまうとして、王都で管理方法が確立するまでは秘密にする事にしたのじゃ。

 恐らく捌くだけなら教える事で出来る様になるじゃろうが、必ず何処かで手を抜いて毒にやられて問題になるじゃろうな。




 そして、無事に除去作業は終わった様で、何とか移動を再開することになったのじゃが、二台の馬車を引くベヤヤを見て、乗合馬車や商人と思わしき馬車の御者が驚いた表情を浮かべておる。

 ただ、村に留まっておった事で問題もあって、乗合馬車の護衛に付いておる冒険者連中が勘違いし、ベヤヤに対して攻撃してきたり、出発して野営中に料理をしておったら、貴族らしい馬鹿が『料理を寄こせ』と言ってきたりしたのじゃ。

 冒険者連中に対しては兄上と剣聖殿が対応し、馬鹿貴族相手には、寄り親であるヴァーツ殿の名前を出して対応したのじゃ。

 ヴァーツ殿からは、ワシや兄上が貴族相手に直接解決する様な方法を取れば、必ず問題が大きくなるので、どんどん自分の名前を使っても良い、と許可を得ておる。

 ただ、その馬鹿は直接謝罪には現れず、ちょっとボロッちくなった執事風の男が謝罪に来たのじゃ。

 まぁ謝罪は受け入れたのじゃが、この貴族家は要注意じゃな。

 この貴族家じゃが、名前を『タイヴァール』と言い、男爵家らしいのじゃがヴァーツ殿の派閥では無く、別の貴族家の派閥らしい。

 別に放置しても良いのじゃが、こういう輩は放置すると碌でも無い事になりそうじゃから、王都に到着したらヴァーツ殿に報告しておいた方が良い、と言うのが、ワシと兄上の共通認識なのじゃ。

 まぁ、放置しても勝手に自滅しそうじゃが……

 他にも、野営中にワシ等の食事の匂いで商人連中が集まって来たのじゃが、料理はベヤヤの独壇場じゃし、売る気も無いので、そこ等辺を丁寧に説明して諦めてもらったのじゃが、中には改良した荷車の事に気が付いて、タイヴァール家の様に勘違いして『別に金を払えば良いだろう』と言う輩もおったのじゃ。

 金を払えば何でも手に入ると思っておるんじゃろうが、生憎、ワシ等は金に困っておらんし、別にこの商人連中が敵対状態になってアレコレと売って貰えなくなったとしても、ワシ等はエドガー殿と取引出来る上に、いざとなったら王城にも伝手があるのじゃ。

 それに、エドガー殿はポーション工場を新しい商会として登録した事で、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しておる商会を抱えておる超優良商人になっており、そこと懇意にしておるワシ等と敵対すればどんな結果になるかは火を見るよりも明らかじゃ。

 そして、これはそれなりに有名な話であり、事前調査をしておるなら敵対するのは避けるのじゃろうが、碌に調査しておらぬ商人は『後悔する事になるぞ!』等と言い残しておる。

 コヤツ等は別に気にする必要も無いじゃろう。



 因みにじゃが、前にニカサ殿と初めて会った『モナーク』にも立ち寄ったのじゃが……

 嘗ての綺麗な街並みでは無く、家々はボロボロ、住民も皆暗い顔をしており、彼方此方で教会に向かって祈っておるような状況になっておった。

 これは教会勢力によって、住民は税以外にも喜捨を要求され、生活水準が急降下しておるんじゃな。

 ニカサ殿がおった時は、そう言う問題にも対処出来ておったんじゃろうが、ニカサ殿が居なくなった事で抑えが効かなくなったんじゃなぁ。

 手助けしてやりたいのは山々じゃが、教会勢力が支配しておる以上、ワシが関わると大変な事になる。

 なので、コレも纏めて王都で報告しなければならぬ。


 そうして、野営中の面倒なイベントも熟しつつ、ワシ等は無事に王都へと到着した訳じゃ。

 む? 道中はそれだけだったのかって?

 普通は夜盗とか魔獣とかに襲われるんじゃろうが、ルーデンス領はヴァーツ殿の黒鋼隊が定期的に見回っておる関係で治安はかなり良く、夜盗が現れたとしても速攻で見回り中の黒鋼隊によって壊滅させられるんで、超が付く程活動がし難い為に、全くと言って良い程夜盗共は現れぬ。

 そして、魔獣とかじゃが普通にベヤヤがおるから現れぬ。

 お陰でワシ等は夜の見張りとかは最低限で済んだのじゃ。

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