第175話
そう言う訳で、工房の一つを借り切った状態で、ワシは妖精と共に妖精の森を守る為の魔道具を作る訳になったんじゃが、どうするかのう。
妖精は妖精魔法と言う特殊な魔法を使う訳じゃが、ぶっちゃけ、あまり真正面から戦うにはちょっと非力なんじゃよね。
妖精魔法は、周囲にある植物や物体に干渉し、それを支配下に置いて武器とする物じゃ。
と言っても、劇的に変化させる訳では無く、植物であれば異常成長させて妨害に使ったり、地面であれば、盛り上げて壁にする事が出来る程度。
厄介な点としては、土壁を作って進路を妨害しておるうちに、植物に毒性を持たせて成長させ、麻痺させたり昏倒させるという点じゃが、対処しておれば、ただ妨害されるだけじゃ。
となれば、妖精達を直接戦わせる様な物では無く、直接相手を拘束する様な魔道具を作るべきじゃろう。
そうと決まれば、早速作るべきじゃな。
「よし、方向性は決まったのじゃ」
まずは、魔道具の本体。
本体となるパーツには軽量のミスリルを使う。
マナでコネコネとミスリルを弄り、どんどんパーツを作っていく。
大まかな形を作ったら本体部分にコアを埋め込むんじゃが、コレは手持ちの魔石の一つを使うんじゃが、魔石はオークの魔石を使うのじゃ。
コレは珍しい物を使うと、こっちを目当てに狩りに来る馬鹿対策じゃ。
本体から線を引き、各種場所にどんどん繋げていく。
人の目が無いので、自重せずにどんどん組み立てていくのじゃ。
そうして出来上がったのは、くすんだ銀色に輝くゴーレムじゃ。
ただし、森の中で稼働する為にデザインは蜘蛛型にしておいたのじゃ。
サイズは子供より多少大きく、機能としては相手を拘束する為に、スライムから作ったトリモチ弾を腹部に複数搭載しておる。
最も、これ以外にも作るんじゃがの。
さぁどんどんいくのじゃ!
『ナニコレ?』
「うむ、これ等が森の守護者じゃな」
ワシの目の前にあるのは蜘蛛型以外に、蛇型、ネズミ型、カブトムシ型、クワガタムシ型のゴーレムじゃ。
全部がくすんだ銀色で、それぞれに攻撃や防御や諜報の機能が割り振られておる。
このゴーレム達を外から妖精が操作したり、自律行動で相手を拘束する訳じゃ。
最初は人型も考えたのじゃが、妖精達に武器や外装のメンテナンスなんて出来んじゃろう。
それこそ、自動修復を付けたりなんてしたら、盗まれたりしたら大変な事になるじゃろうし。
勿論、ゴーレム本体には自動修復や色々と対策はしておるが、森の中央部に統括するコアを置き、そこから一定範囲を超えると、本体に書き込まれた魔法陣は消滅しコアも崩壊する様になっておる。
統括コアは、単純に丸い緑の宝玉のような形で、コレを森の中心部に設置するんじゃが、ただ置いただけでは盗まれる可能性があるので、石板のような分厚いミスリルの板を作り、そこに文言を刻んでおく。
その文言としては、『この森の妖精と森の守護者を守る為の物だから、勝手に持ち出したりしたら駄目だよ』と言う内容を仰々しく刻んでおいたのじゃ。
それを無視して無理に持ち出したら、石板自体に消滅魔法を仕込んでおいたので、森から出た瞬間、一瞬でボロボロになって消滅する様にしたのじゃ。
統括コアは周囲のマナを吸収し、各ゴーレムにマナを補給する充電器の役割も兼ねておる。
ゴーレム自体は連続稼働状態では数時間しか動けぬが、必要時以外は統括コアの所に戻って充電する事になっておる。
因みに、このゴーレム達に複雑な機構は一切付けておらぬ。
ちょっと合体機構とか、変身して人型になるとかも考えたのじゃが、コレを管理するのは妖精達になるのじゃから、そんな機能付けた所で管理も出来ぬじゃろうと、没になったのじゃ。
『ふーん、どのくらい強いの?』
「まぁ個々の強さはそこまででは無いのう。 しかし、協力すれば相当な相手でも対応出来るじゃろう」
妖精が出来上がったゴーレム達の周りを飛んでおるが、コレをちゃんと管理するにはそれなりの知識が必要になるんじゃが、それを教える為にしばらくは森通いじゃのう。
ミアン殿に守護者ゴーレムが完成した事を伝え、統括コアの設置と妖精達への交渉をする為、再び森へとやってきたのじゃ。
抵抗されるかと思ったんじゃが、すんなりと受け入れられ、ワシの目の前には何十人もの妖精達が整列しておる。
妖精達としては、虐げられる事も無く、森の中で穏やかに過ごせれば良い、と考えておる者が殆どで、人にイタズラをしておったのはごく一部だけという話じゃった。
それでも、今回の話は渡りに船と言う事で、森の中央とはちょっとズレておるが、妖精達が崇めておる巨木の根元に統括コアのミスリルの板を設置したのじゃ。
そして、ゴーレムの修理や操縦法を教えたのじゃが、基本的には妖精魔法を使って干渉する事で操作が出来る様になっておる。
今は1体ずつしかおらぬが、定期的にミアン殿からミスリルや魔石を融通してもらう事で妖精自身が作って、統括コアに登録する事で増やす事が出来るのじゃ。
その対価に、妖精族からは『鱗粉』や妖精族しか育てられぬ薬草を貰う予定となっておる。
この薬草じゃが、妖精魔法を定期的に使用する事で成長させる事が出来る物であり、妖精以外では生育させる事が出来ぬので、殆ど市場には流通しておらぬ。
最初はゆっくりと、少なく流通させる予定となっておる。
『御厚意、感謝します』
この森におる妖精族の代表と言う赤髪の妖精が、ミアン殿に頭を下げておる。
彼女はこの森に逃げて来た妖精達より一回り程大きく、少女と言うより大人の女性をそのまま小さくした様な感じじゃ。
恐らく、生きておる年月も他の妖精より長いのじゃろう。
「いえ、我々にも利がある事ですし、共存出来るのであれば、それに越した事は無いでしょう」
ミアン殿がそう言いながら、友好の証として小さな杖を代表の妖精に渡しておる。
あの杖はワシが作った物では無く、『シャナル』に住んでおるエルフとドワーフが協力して作った物じゃ。
杖自体は別段何かが付与されておる訳では無く、ミアン殿の家紋にある杖をモデルとしており、何かあった時はラーダリア家が全力で対応する、と言う証明になるのじゃ。
しばらくして、ミアン殿とギルドマスター達の連名で、この森を含む一帯が『妖精特別保護区』として発表され、許可無き者は勝手に森に入れば処罰対象となり、定期的にエルフやドワーフが見回りをする事が発表されたのじゃ。
特別保護区に入る場合、ギルドが特別に許可証を発行し、その証を身に付けていない限り、密猟者として処罰対象になるとも発表され、それと同時に、許可無く入って何が起きても、それは特別保護区に許可なく入ったのが悪い、として処理される事も発表されたのじゃ。
当り前じゃが、発表して数日後には早速と言うか予想通りと言うか、密猟者達が取っ捕まって森の外に転がっておった。
その密猟者達は頑丈なロープでグルグル巻きにされ、体中に鞭で滅多打ちされたような痣が出来ており、ズタボロの状態になっておった。
しかも、その密猟者を発見、回収したのがドワーフ達だった事もあり、そのロープに別のロープを結び付け、そのまま引き摺って『シャナル』へと帰還したのじゃ。
調査した所、その密猟者達は冒険者ギルドに登録されておった者が殆どで、それ以外の者に関しては、その冒険者に声を掛けられ、高い金額を払うという事で、荷物持ちや何を採取しようとしておったのかを知らされておらんかった難民や別の領の住民だったらしい。
当り前じゃが、そう言った者達には厳重注意を行った後、一定期間の奉仕活動を命じられ、資産の全没収ではなく、一部没収が行われたのじゃ。
コレは、難民は大した資産を持っておらず、別の領の住民となると下手に手出しをすると、内戦の原因になる恐れがある為、その領主に厳重抗議を行って一部じゃが没収する、と言う形になるのじゃ。
そして、問題の密猟者共じゃが衛兵に引き渡した後、背後関係を調べる為に尋問も行われ、それにより指示を出したとされる貴族家や、大店の商人が拘束される事になったのじゃが、どうしてあんな状態になっておったのかは最後まで不明だったのじゃ。
森の中で妖精が操るゴーレム相手に、勝って妖精を捕獲出来る様なレベルの冒険者がおったとしても、そのくらいのレベルであれば密猟者なんてやっておらんじゃろう。
それに、今では妖精達自身でゴーレムをカスタマイズする様になって、攻撃力や防御力が飛躍的に上がっておるし、密猟者ではどう足掻いても勝てんじゃろうな。
元々はハエトリグモをモデルにした蜘蛛型が、この前見たら装甲が増えてタランチュラみたいなごっついクモになっておったし……
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