第117話




 凄まじい咆哮が響き渡り、町に逃げ込んでいた面々が恐怖の表情を浮かべている。

 そんな中、俺は神社で連絡役となっていた。

 本当なら、連絡役なんてやらずにちっこいのに付いて行きたかったが、誰かしらが連絡しに戻らにゃならない以上、仕方ねぇ。


「グゥ……」


 咆哮を聞いて、思わず唸る。

 ありゃ『怒り』の咆哮だな。

 となりゃ、あっちは大変な事になったっぽいな。


『ベヤヤ! 緊急事態じゃ!』


 お、そんな事を考えてたら、ちっこいのから念話が来たが、緊急事態って事は交渉決裂したって事か?

 なら、早速俺もそっちに……


『来るでない! お主はそのまま残り、町を守ってくれ!』


 おいおい、戦力は多い方が良いだろ?

 ここなら戦えるニンゲンは多くいるし、大丈夫だろ。

 それに、こっちにゃコイツ等がいるんだし……


『……お主が来た所で変わらん……それなら、何とか町を守って、一人でも多く救ってくれ……』


 あ?

 どういう意味だよ?


『単純じゃ、これよりワシ等は死力を尽くして挑むが……恐らくどうにもならん、じゃから、お主はそこを守り、何とか皆と脱出を試みてくれ……これは……ワシからの命令じゃ……』


 おい、そりゃ一体どういう意味だ!

 おい!

 クソッ、念話が切られちまった!

 こうしちゃいられねぇ、急いで……どうするってんだ?

 あのちっこいのは、俺を従魔にしてから、命令なんて一つもした事が無かった。

 だが今回、ちっこいのは俺に対して、初めて『命令』と言いやがった。

 そんなら、やってやる!

 守る? 脱出? そんな事しなくても、コイツ等全部ぶっ倒しちまえば一緒の事だ!




 その町目掛け、多くの地竜が走り、ワイバーンが上空を飛行している。

 町の防衛は、ヴァーツが連れて来ていた黒鋼隊にクリファレスの部隊、更に冒険者ギルドが派遣した冒険者達、そして、町にて隠れていたドワーフとエルフ達。

 上空のワイバーン対策には、先の戦いで墜落させたグリフォン部隊を治療し、何とかしようと考えているが、流石に50体程度のグリフォンでは戦いにならない。

 なので、グリフォン部隊は上空でワイバーンを撹乱し、地上から弓士とエルフ達によりワイバーンを狙撃する。

 地竜には、それ以外の部隊全員で対応し、魔術師によるバフを使って抑え込む。

 その先頭に立つのは、ノエル、バート、イクスの3人であり、実力としては問題は無いのだが相手は地竜。

 なので、基本的にはこの3人を中心にして攻撃を行うが、場合によっては魔術師による魔法攻撃も行う予定になっている。



「グリフォンによる撹乱開始! 防衛ラインの冒険者と兵士は絶対に抜かされるな! 弓士とエルフ達はワイバーンを落とすだけで仕留めなくても良い! 兎に角、数を減らすのだ!」


 クラップが指示を出し、グリフォン部隊によって上空にいるワイバーンに対しての撹乱が始まり、ハンナ達弓士隊とエルフ達が動きを止めたワイバーン目掛け、無数の矢を放ちまくる。

 全員が威力を上げるスキルを使い、更に後方ではドワーフ達が全力で矢を増産し、戦闘が出来ない商人や実力が足りない新人冒険者達がその矢をどんどん送り届けている。

 ジェシー達魔術師隊が、地竜を相手にする俺達全員に、身体能力上昇の魔法を掛けているが、この魔法、人数が増えれば増える程、上昇力が下がっちまうのが難点だが、あるのとないのとじゃ違うからな。


「よっし、お前等! 覚悟を決めろ!」


 魔女様から頂いた剣を掲げ、遂に俺達も地竜との戦いが始まる。

 魔女様達の方が遥かに厳しい戦いになっているのだから、俺達が泣き言を言う訳にはいかねぇんだ!

 地響きを上げて迫りくる地竜達に対し、俺達、冒険者と兵士達の真っ向勝負になっちまった。



 一番小型の地竜一頭に対して、此方は十数人が組んで袋叩きにすれば勝つ事が出来る。

 向こうよりも、こっちの方が頭数は多いのだから計算上は楽勝だ。

 だが、そう簡単にはいかない。

 しかも、此方は一撃でも受けたら即戦闘不能にされるのに対し、地竜は相当量の攻撃を与えてやっと動きが止まる。

 更に、一番小型の地竜でも、その大きさは馬よりもデカイときたもんだ。

 ノエルやバートの方は、かなり大型の個体相手に何とか上手く立ち回って戦っちゃいるが、このままじゃどの道、先に倒れるのは人間側だ。

 教会の奴等が結界を張ったらしいが、それで何処まで耐えられるかも怪しい。

 チラリと背後を見れば、町の壁の外側に薄く赤い膜が出来ている。

 アレが教会が張ったと言っている結界で、相当な力でなければ突破出来ない、と自慢げに話していた。


「オラァッ! 走れ『蒼炎』!」


 剣にマナを流し、蒼炎を纏わせた状態で地竜の一体を斬り付け、別の地竜に向けて、切っ先で地面を削る様に振り上げ、纏った蒼炎を飛ばす。

 飛ばした蒼炎は、射程も短く、ダメージとしては小さいが、着火すれば早々に消せない炎となり、永続的にダメージを与え続ける事が出来る。

 斬り付けた方の地竜も、体に着火した炎が消えず、混乱して地面を転がり回っている。

 ただ、問題点としては結構マナを消耗するから、まだ長時間使用する事は出来ないって事だ。

 少し前からこの剣から蒼炎を出せるようになったが、マナの消耗が激し過ぎて全然使いこなせなかった為に、ジェシーに協力して貰って、体内マナを増やす訓練と、マナ操作の訓練をしているが、それでも、蒼炎を纏った状態で数分くらいしか維持出来ない。

 蒼炎を解除し、転がり回っていた地竜を仕留める。

 周囲を見回せば、それなりの数を仕留めてはいるが、どう見ても戦線離脱した仲間の方が多い。


「イクス、不味いぞ!」


 そう言って来たのは、冒険者の一人で、ソイツが指示した方にいたのは、この場で相手にしていた地竜の中でも最大級とも言える巨大な個体。

 目測でも尻尾も含めて全長は20mはあり、首や手足は短いが、鼻の辺りから太い角が伸び、全体的にずんぐりとした体格で、明らかに突進によるぶちかましが得意って感じの奴だ。

 それが地響きを上げて此方に突っ込んできている。

 それにジェシー達が気が付いて魔法を撃ち込んだり、足元に穴を開けて妨害をしようとしているが、一向にその速度は落ちない。

 このままだと結界にぶち当たるぞ!?


「グオォォォォォッ!」


 凄まじい咆哮と共に、背後の門をぶち抜き、白い何かがその地竜へと向かっていく。

 いや、白いのはベヤヤだとは思うが、どう見てもお前より相手の方がデカイんだぞ!


 止める間もなく、巨大地竜とベヤヤが衝突。

 衝突の瞬間、ズドンと凄まじい音が響き、ベヤヤが相手の角を両手で掴んで踏ん張った状態でガリガリと地面を砕いて後退したが、門の手前で遂に止まった。

 そして、ベヤヤの背中から蒼白い腕が現れ、地竜の角をガッチリと固定し、ベヤヤが全身を捻じって拳を握り締めている。

 おいおい、ここでをやんのかよ!


「全員離れろぉぉぉっ! 地竜が吹っ飛ぶぞぉっ!」


「ガァァァッ!」


 地竜も、流石にベヤヤが何をするのか理解したのか、何とか逃げようと首を振ろうとするが、完全に蒼白い腕によって頭は固定され、更に、蒼白い腕が増えて、地竜の前足をガッチリと掴んで固定し、完全に逃げられない様になっている。

 ベヤヤの『闘気纏い』状態からの一撃、それは無敵に近い相手の防御すら吹き飛ばしただけでは飽き足らず、王都の壁をも粉砕している。

 それが地竜の横っ面に炸裂し、地竜の巨体が吹っ飛んでいく。

 当然、そんな巨体がぶっ飛んだ先にも別の地竜はいるが、そのサイズは比べ物にならない程小さい。 


 結果、ベヤヤの吹っ飛ばした地竜は、何体もの地竜を巻き込んで地面を転がり、かなり離れた所で停止。

 多くの地竜を戦闘不能にする事に成功した。

 よし、ベヤヤも参戦してくれるなら……


 そう思った瞬間、凄まじい爆音と、遠くの空で横一線に巨大な爆炎が伸びていった。

 あっちは魔女様がいる辺りじゃないか!?


「グォン!?」


 その直ぐ後、何かを感じ取ったのか、慌てる様にしてベヤヤが魔女様のいると思われる方に向けて駆け出していた。

 更に光り輝く何かが飛来し、結界に直撃した瞬間、バリィン!と破砕音が響き、町の結界が砕け散った。

 そのまま町中に被害が出るかと思われたが、その砕かれた結界の下に、青い結界が張られていて、それによって何とか防ぐ事が出来た。

 教会の奴らめ、妙に自信があると思ったら、二段構えになってたのかよ……

 この時の俺はそんな事を考えていた。

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