第34話




 王都へと出発する当日、ワシは小屋に誰も手出しが出来ぬ様、魔法で完全密閉と認識阻害を施した。

 これで、不埒な考えを持った者が訪れて入ろうとしても、小屋は見つからぬし、見付けたとしても入る事は出来ぬ。

 もし、偶然に到達して怒りに任せて小屋を破壊しようとしても、この小屋はワシが使う最大魔法で攻撃してもビクともしない防御力を持たせてある。

 まぁコレで大丈夫じゃろう。


 今回同行するのはワシ以外に、ゴッズ殿とマリオン殿、そしてバートの4人なのじゃ。

 エドガー殿自身は行商人として活動しておるので、王都に直営店は持っていなかったが、今回の事でポーション工場に併設する形で販売店舗を持つ為、その責任者としてマリオン殿が就任。

 工場の責任者にゴッズ殿、店舗の責任者にマリオン殿という形になる事になり、エドガー殿の親族が店員としてマリオン殿の部下になる予定じゃ。

 バートは単純に勉学の為、同行するのじゃ。



 村長に王都に行くので二ヶ月程留守にする事を伝え、その間に怪我や病気の為の治療薬が入った樽を預けておく。

 かなりの量が入っておるが、重症患者にだけ使用するように注意しておくのじゃ。

 と言っても、ワシが来るまでは村での治療など、薬草を使用する程度の事しか無かったのじゃから、多分大丈夫じゃろう。

 それに、冬の間の仕事というのは基本的に無いのじゃ。

 この村では、家の中で農具を手入れしたり、ロープや保存食を作ったりと、来年に向けての作業ばかりじゃ。



 イクス殿達には事前に武器を渡してあるのじゃが、性能を聞いて引いておったのう。

 まぁ先行投資の意味合いも込めておるのじゃから別に問題無いのじゃ。

 移動は基本的にエドガー殿は行商馬車で、イクス殿達は休憩の場合にのみ馬車に乗って、それ以外は徒歩随伴になっておる。

 バートも徒歩じゃが、ワシはベヤヤに乗っておるのじゃが、基本的に暇なのじゃ。

 なので、アイテムバックの中で作業をしている風を装い、アイテムボックスで手持ちの素材をアップグレードするという隠れ作業を続けておる。

 石を鉄にするのはもちろん、その材料の石にしても、そこら辺の土塊を採取して錬金術で変換させておる。

 お陰でワシのアイテムボックスに、強化ミスリルや強化オリハルコンがどっさりと増えた。

 他にも意外と使用する材木を、適度に伐採して増やしておくのじゃ。


 夜、普通は見張り番を置くのじゃが、此方にはベヤヤがおる。

 魔獣というのは基本的に、強い相手には襲い掛からぬ性質があるのじゃが、稀に襲い掛かってくる事もある。

 その稀な状況というのが………


「だらっしゃぁ!」


 イクス殿が大剣を横薙ぎに振り抜き、襲い掛かって来たゴブリンを纏めて斬り飛ばした。

 ハンナ殿の放つ矢が、離れた所にいたゴブリンシャーマンを射抜き、詠唱していた火の玉が空中に霧散していく。


「数多の水よ、眼前の敵を押し流せ『ウォータースプレッド』!」


 ジェシー殿の水魔法が、固まっておったゴブリン集団を纏めて押し流してゆく。

 押し流されたゴブリン達は、死にはしないじゃろうが、ぬかるむ足場で動きが遅くなり鈍くなった所を、シャーマン退治が終わったハンナ殿によって蜂の巣にされてゆく。

 しかし、水魔法のう。

 ならば、相性の良い魔法が良いじゃろうな。


「『アイシクルニードル』!」


 ワシの放った氷魔法の針がゴブリンに刺さり、ゴブリンを氷の彫像へと変えてゆく。

 そして、外れた針はぬかるんだ地面に刺さり、そこから水分を伝ってどんどん周囲を凍らせてゆき、それに触れたゴブリンが凍り付いてゆくのじゃ。

 なお、ベヤヤとバートは待機じゃ。

 ベヤヤが手を出せばあっという間に終わってしまうし、バートはバートで直接戦闘をさせるには実力不足じゃ。


 襲撃して来たゴブリンの群れを殲滅し終わり、イクス殿達が集めて魔石を回収し、ベヤヤとバートが回収を終えたゴブリンの遺骸を一ヵ所に集め、ワシがソレを灰になるまで燃やし尽す。

 こういった処理作業じゃが、やる場合とやらない場合がある。

 基本的にはやる事が推奨されておるが、数が膨大じゃったり足を止めるのが危険じゃったりする場合、処理する暇など無い為、放置されるのじゃ。



「……魔女様、あの魔法は一体?」


 ジェシーが朝食のパンを齧りながら聞いてきた。

 あの魔法というのは、ワシがゴブリンを仕留めた魔法かの?


「何か変な所でもあったかの?」


「変というか……詠唱も無かった……それに威力がオカシイ」


「あぁ、それは確かに」


 ジェシーの言葉に、バートが同意しておる。

 確か、他の者達が魔法を使用する場合、詠唱してから魔法が発動しておる。

 じゃが、ワシの場合は即発動しておるのを不思議に思っておるんじゃな。


「それは単純じゃ、ワシは詠唱破棄しておるから即発動する上、マナを多量に使っておるから威力があがっておるだけじゃ」


「詠唱破棄って、威力落ちるんじゃなかったか?」


「普通は落ちるのじゃが、ワシはその分をマナで補填しておるからのう」


「どれだけ保有量があるの……」


 ジェシーに驚かれておるが、自身の事など分からんからのう。

 それに、マナの数値とかは見れる物じゃないしのう。


「まぁ良いではないか、それはともかくバートよ、今日から魔道具だけでなく、魔法も勉強する事にするのじゃ」


「何故だ?」


「いや、お主、殆ど実戦経験ないじゃろ、丁度良いのじゃ、ここらで経験するのじゃ」


 前に調査団とやらにいたと聞いたが、そこでは護衛の騎士がいたらしいしの。

 今ならワシもおるし、イクス殿もおるから、余程の事が無ければ問題にもならんじゃろう。

 ジェシーについては詠唱破棄とマナの管理方法を教え、新しい魔法に付いてもいくつか教えておく。


 道中、現れるのはゴブリンや野犬の様な魔獣ばかりで、ワシとベヤヤが手を出すまでもない。

 バートの戦い方は、魔法による攻撃なのじゃが、威力が凄く弱いのじゃ。

 例えば『ファイアーボール』なら、ゴブリン程度軽く吹っ飛ばす威力があるのじゃが、バートが使った場合、表面がコゲる程度なのじゃ。

 ……これはまさか……


「バートよ、お主、魔法クラスじゃなく近接クラスじゃな?」


 その言葉で、バートの肩がビクリと跳ねたのを見逃さなかったのじゃ。

 なるほどのう……

 ワシは関係なくなっておったから忘れておったが、本来、クラスが違えばデメリットが生じるのじゃ。


「成程、じゃからお主、魔道具に興味があったのじゃな?」


 魔法を疑似的に使用出来る魔道具なら、確かにクラスは関係ないのじゃ。

 故に、近接クラスであるバートは、魔道具を使う事を考えたのじゃろう。


「まったく、そう言う事ならもっと早く言わんか」


 そう言いながらアイテムボックスから取り出したのは、銀色に輝くガントレットじゃ。

 そのガントレットをバートに放り投げると、慌ててバートがそれをキャッチした。


「まだ試作品じゃが、拳に付いておる宝玉に、魔法とマナをチャージ出来るようになっておる」


 ワシが付けた銘は『魔導拳マジックガントレット』。

 拳の甲の部分に3つずつ宝玉が嵌め込んでおり、その宝玉一つに1種だけ魔法をチャージする事が可能になっておる。

 最大の特徴は、チャージしておる魔法に対し、マナを追加する事で威力を底上げする事が出来るのじゃ。

 当然、ガントレットとしての性能も十分、素材は芯に強化アダマンタイトを仕込み、表面を強化ミスリルで仕上げた一品じゃ。

 難点として、付けておる間は常にマナを吸収していく為、通常の魔法の威力が落ちるというモノじゃが、近接クラスであるバートには関係ないのう。

 他にも、一度使ってしまうと、再チャージとマナ追加の強化が終わるまで威力が弱いのじゃ。

 嵌め込んである宝玉は、赤青緑の3種で赤は炎、青は水、緑は風の魔法が今はチャージされておる。

 使った後は無色透明になるのじゃが、チャージは魔法を使えれば誰にでも出来るのじゃ。

 他にも、裏技的方法じゃが、相手が放った魔法もチャージ出来るのじゃ。


「と言う訳で、今度から体術を鍛えるとしようかのう?」


「え゛」



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