第25話




 ここ最近の騒動を意図的じゃと思っておったが、どうやらあながちハズレでは無かったようじゃ。

 と言うのも、今、ワシの目の前では大量の兵士と、オークを含む魔獣からなる混成部隊が並んでおる。

 なーんで、こうなったんじゃろうなぁ……


 事の起こりは数日前、エドガー殿にミスリルの調達を頼んで見送った後、領主の使いと名乗る兵士に連れられ、村長と共に領主の住む街『ルーデンス』へと向かったのじゃ。

 そこで領主と対面し、この度の奇病に対する救援の感謝と、別件での協力を頼まれた。

 それが、領主の妻である女性の病気を見て欲しいとの事で、まぁそのくらいならと診断で見る事になったのじゃ。

 すると、あの奇病ではなかったのじゃが、肺と心臓に重篤な症状が出ておった。

 聞けば、昔から運動するとすぐに息切れを起こし、酷い時には呼吸困難になって動けなくなるほどらしいのじゃ。

 その為、移動には領主が抱えて運ぶ必要があり、その為、領主は年齢に見合わずムッキムキ。

 対照的に、その奥さんは全身が小枝の様に細いのじゃ。

 ちなみに、領主は御年70歳で、奥さんが30代らしいのじゃ。


 取り敢えず、直ぐに手を打たねば、奥さんはいつ亡くなってもおかしくなかったので、ささっと治療用ポーションを作り、毎食後に少しずつ飲むように指示を出す。

 急に治すと、今までこの状態に慣れていた身体が驚いてしまうから、多少、時間を掛けるのじゃ。

 飲み始めたその夜から調子が良くなり、顔色も健康的になってきたので一安心。

 領主からは感謝され、その謝礼は何が良いと聞かれたが、別段今欲しい物は無いと伝え、数日は奥さんの様子見の為に残る事を伝えたのじゃ。


 その翌日、この領地に迫る兵士軍の事が伝えられ、領主は直ぐに防衛の為に軍を動かす事を決定したが、どうにも相手の動きが早い事が気になったのじゃ。

 侵略の為の軍なら斥候なりを送り、情報を集め終えてから進軍するのが普通じゃ。

 じゃが、相手の軍はまるで敵がいない・・・・・と知っているかのように、素早く領内へと入って来ておる。

 進軍ルート上にある村は既に、あの奇病によって被害を受け、村は焼き払って領内の別の場所に移しておるので、人的被害と言う点ではないのじゃが、流石にこれは早過ぎるのじゃ。

 それ以外にも、領主の話では奇病騒ぎが起きる前、ゴブリンとオークが群れで見付かって徹夜で対処に追われたり、はぐれオーガを発見して領主が叩きのめしたりと、かなり慌ただしかったらしいのじゃ。

 そのせいか、兵士達はかなり疲弊しておるし、奇病によって被害にあった村を焼き払ったりする作業で、油やら物資やらを大量に消耗したというのじゃ。

 兵士の数を聞けば、こちらがどうにか頑張って1000、相手は5000程。

 5倍の戦力差と言うのはちと、キツイのう。

 そう思っておったら報告には続きがあり、5000以外にも何故か同数以上の魔獣を連れており、数的には1万近くに上る。

 何処の国の者達なのかは不明じゃが、領主が言うには隣国の大国『クリファレス』の兵士で、領主が若い頃は何度も越境してきて戦闘になっておったのじゃと言う。

 しかし、当時から領主率いる鉄壁の防衛部隊『黒鋼隊』の防衛を突破出来ず、毎回叩き返していたら、クリファレスと帝国の戦争が勃発。

 それ以来、この領地には来なくなっておったらしい。

 単純計算で10倍の戦力差となる訳じゃが、領主にそれを聞いた所、それでもやるしかないとの返事。

 そして、死地へと赴く兵を募集し、それ以外の兵士は領民を護衛し、隣の領地へと避難させるとの領主命令を出し、自身は長く着ておらぬ重装甲の鎧を身に着けておった。

 ワシらにもすぐに領内から避難するよう言われたが、冗談ではない。

 やっと奥さんが元気になるのに、即、未亡人にするのは余りにも不憫なのじゃ。


 しかし、ここでワシが先に手を下した場合、向こうに手を出させる口実を与える事になるのじゃ。

 ならばどうするという話になるのじゃが、まぁ単純に言って、ワシが関わったと思われなければ良いのじゃ。

 ぶっちゃければ、人が使えるようなレベルの魔法を超える、天災と見間違える状況になれば良いのじゃ。

 その為、いくつかの許可を領主から得て、ワシは一人でその軍が見下ろせる丘へと移動したのじゃ。




 そして、情報収集する為、ひっさびさに新しいスキルポーションを創り出し、ぐいっと飲むのじゃ。


________________________


*『千里眼』スキルを習得しました。

*『聴覚強化』スキルを習得しました。

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 文字通り、視覚の強化と聴覚の強化スキルで、コレで相手兵士の会話を盗み聞くのじゃ。

 お、あの後方にいる兵士は他と違って家紋付きの鎧じゃな。

 あの兵士の付近で会話を収集するかの。

 取り敢えず、致命的な会話が出た時の為、ちょっと小細工をしておくのじゃ。




 今後の作戦を話す為、主だった兵士達を最奥の天幕に集合させる。


「明朝、総攻撃を仕掛ける」


 私の言葉で目の前にいた兵士達が色めき立つ。

 長い間この領地、『ルーデンス』領には苦汁を舐めさせられ続けた。

 十数年前、我が父の代から陛下の命令でこの地を獲得する為、様々な作戦を立ててきた。

 だが、その全てをここの領主である男が率いる『黒鋼隊』によって阻まれ、少なくない被害を出し続けた。

 そして、帝国による侵攻を受け、全面戦争が起った事により、侵攻作戦は中断されてしまった。

 だがっ我々は侵攻を諦めた訳ではない!

 帝国との戦争を続けながら、我が父が保有する私設軍により、様々な研究を行わせ続けた。

 その結果、いくつかの成果を得る事が出来たのだ。


 その一つが、小さな虫を宿主とする改造した病気だ。

 元々は我が国の僻地にて見付かった病気で、感染すると数ヶ月かけてゆっくりと死んでいく病気だったが、ゆっくり過ぎて治療が出来てしまう為、致死率は驚くほど低い。

 それを改良し、とにかく感染した後、直ぐに発病して死亡させられるようにした。

 実験は帝国の捕虜で行い、その結果、恐るべき感染力と致死率に至った。

 唯一の問題点として、コントロールが効かない点だが、国には既に治療薬を備蓄してある。

 当然、我が軍にも治療薬を運ばせてある。


 更に、国全体を弱らせる為、肥料に魔石を砕いた魔粉を混ぜ、土地を強制的に痩せさせて飢えさせる。

 短期間で結果は出ない方法だが、長期的に見ればかなり凶悪な方法だ。

 それに魔粉は見ただけでは分からず、魔法の素養がある上で、錬金術にも精通していなければ、気が付きもしないだろう。

 魔粉にしても、それが消滅するのに十年近く必要とする為、国民を飢えさせない為に他国から食糧を買い続ければ、国庫などカラになるだろう。


 そして、最大の研究成果が我が軍の外に広がる魔獣部隊。

 特殊な魔道具を使い、魔獣達を催眠状態にして強制的に従わせる。

 すると、その次の代からは人に従う様になるのだ。

 問題として自分達で繁殖させねばならぬが、そんな事は帝国の捕虜でも使えば問題無い。

 帝国との長い戦争で、捕虜は大量に手に入っているしな。

 その副産物として、オークとオーガで交配した新種が産まれ、我々はこの新種を『オーガン』と名付けてテスト運用している。

 その力はオーガ並で、知能はオークと変わらず、こちらの指示に従う為、物資運搬のに運び役に使っている。


「協力者の報告では、例の病気で国も領内もガタガタ、マトモな防衛すら出来ない状況だと言う」


「閣下、その協力者とやらは本当に信じられるのでしょうか?」


 兵士の一人が手を上げてそんな事を言った。

 当然の心配事だろうが、それについては問題無い。


「大丈夫だ、と言うのも、その協力者は向こうから話を持ってきたのだ」


 そう、ルーデンス領を目の敵にしているのは、何も我々だけではない。

 その協力者は今回の侵攻を見逃し、物資の援助もしてくれてもいる。

 ここにある食糧などの物資の一部は、その協力者からの提供なのだ。


「流石のルーデンスも、隣の領地が敵に通じている等、思いもせんだろう」


「スメルバ殿は、表では友好的に接しているらしいですからな、気が付いてもおらんでしょう」


 今回の侵攻作戦が成功した暁には、協力者として大手を振って我が国に寝返る事を約束している事も兵士達に説明する。

 それ程、今回の作戦に自信を持っているのだ。

 事前に集めた情報では、ルーデンス領の兵士はどんなに集めても1500は集められない。

 対して我が軍は魔獣兵を合わせて1万。

 十分過ぎるだろう。


「今夜は英気を養い、明日に備えてるのだ。 諸君、勝利は目前だぞ!」


「「「「オォォォーッ!」」」」


「「「「我等に勝利をっ!」」」」


 天幕の中で、兵士達が声を上げる。

 正直、五月蠅いがこれも勝利の為だ。


 各々が天幕から自身の部隊へと戻り、小さいながらも宴を開いて英気を養わせる。

 明日は、侵攻と言う名の蹂躙作業があるのだ。

 多少の馬鹿騒ぎには目を瞑るとしよう。


 そうして、私も自身の配下のいる野営地に向かい、僅かだが部下達に酒を振舞った。




「成程のう……これは中々良い事を聞いたのじゃ」


 ワシは集中を解き、握っておった水晶を見ると、中央部に赤い光が灯っておった。

 うむ、成功しておるの。


「さて、これで最早容赦する必要はないのう」



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