第21話




 王城の一室にて、3人の男が書類に目を通していた。

 そこに書かれていたのは、恐るべき病気が僻地にて発生し、それが爆発的スピードで広がりつつある事と、それの対処方法、特効薬を作り出す魔道具を提供すると言う内容だった。

 それを読んだ初老の男の一人が、椅子の背もたれに大きく寄り掛かった。


「この報告に間違いは無いのか?」


「ハッ、シュトゥーリア家のバート殿が今朝、急に王城に現れまして、その手紙と魔道具を提出しておりました。 魔道具に関しては既に研究部署に送り、調査しておりますが、バート殿の言う通り、錠剤を作る事が出来るようです」


 入り口脇に立っていた兵士が聞かれた事に対し、詳細に答える。

 それを聞き、もう一度手紙に視線を戻す。

 なるほど、良く纏められており、もしこれが本当なら国の根底を揺るがす程の大問題である。


「シュトゥーリア家の問題児か……調査団から急に消えたと報告は受けたが、何をしておるのだ、まったく……」


 呟きつつ、この手紙の信憑性を考える。

 差出人の名はとだけ書かれ、緊急報告と書かれてはいるが、特効薬を作り出す魔道具を送り付けてきた。

 これは一度、人を送って確認した方が良いのではないだろうか……

 しかし、内容を読む限り、呑気に事実確認をしておると取り返しのつかない事態となるのも事実。


「止むを得ん、陛下に判断して貰うしかなかろう」


 そう言ったのは、向かい側に座っていた老人。

 今、彼が読んでいるのは、対処法が書かれた報告書の筈。

 もう一人は、魔道具の仕様書の様な物を食い入るように見ている。


「確かに、これは我等だけで判断して良い内容では無いな」


「じゃが、コレが本当だという証拠は無いぞ」


「そこはシュトゥーリア家の問題児が解決するじゃろう。 では、二人共、陛下に報告をしに行くぞ」


 二人が頷き、それぞれが手紙を持ち、足早に3人揃って部屋を後にした。

 



 そのすぐ後、報告を受けた王は、すぐさま臣下を集めて対処しようとしたが、臣下の意見が真っ二つに割れていた。

 王と一部の貴族は『直ぐに対処すべき案件』としたが、教会と懇意にしている貴族は『魔女の嘘であり、それに乗るなど危険である』と真っ向から否定。

 むしろ、そんな危険な奇病が発生したのであれば、自分達の領分であると、教会は勝手に動き始めてしまい、懇意にしている貴族達は自身の領地に来てもらおうと御布施を払いまくっていた。

 王は頭を抱えていたが、対処に賛成していた臣下の貴族達の領地を調べ、直ぐに対処させるように指示を出した。

 その際、シュトゥーリア家のバートを筆頭に立たせ、王命として今回の件の全権を持たせた。

 そして、バートは数ヶ月掛けて、王国中の賛成していた貴族の領地に赴いて、魔道具から特効薬を作っては領民に無償で提供し、材料となる薬草を領主から貰い受けた。

 バートは反対していた貴族の領地には行かず、もし、反対している貴族の領民から特効薬を求められた場合、反対している貴族の領地から、賛成している貴族の領地へ移動する事を命じた。

 これにより、教会と懇意にしている貴族の領地からは領民がごっそりと消え、王の案に賛成していた貴族の領民が一気に増える事になった。

 結果、教会と懇意にしていた貴族の力は一気に衰退し、逆に賛成していた貴族は力を上げた。

 当然、反対していた貴族達からバートへ苦情が来たが、バートはそれを全て一蹴。

 王命により全権を握っているからこそ出来る荒業である。

 なお、反対した貴族の領地で教会が浄化を行ったが、さほどの効果は無く、それにより残っていた領民が多く死亡し、いくつもの村が消滅した。

 この段階になって、初めて反対していた貴族達が王へと救援を求め、王の命令によりバートが特効薬を反対していた貴族の領民へと流す事になった。

 僻地では、一部の行商人が王城に送られた魔道具と同じものを疫病が発見された初期から使い、特効薬を作ってばら撒いた事で、国外へは広がる事は無かった。

 そして、特効薬を配り終えた後、領地の大整理が行われ、反対していた貴族達は一纏めに僻地の領地へと転封され、賛成していた貴族達は比較的王都に近い領地へと転封された。


 バートも今回の功績を認められて、領地持ちになるはずだったが自ら辞退し、直ぐに村へと戻る事を王へと報告して、本当に村へと戻って行った。

 その際、シュトゥーリア家からも相当突っつかれた様だが、これも一蹴していた。

 僻地を巡っていた行商人に関しては、王城からの感謝と謝礼金が支払われ、今回の損失に関しても国が支払う事を提案したが、魔女なる人物から十分過ぎる程の補填をしてもらったので必要ないと断られた。


 こうして、王国に訪れていた死病の危機は、一応の終息を見せたのである。




 教会の一室では、今回の件についての話し合いが行われていた。

 一際豪華な調度品が揃えられた一室で、踏ん反り返っている男が、叩き割らんばかりの力で机を叩いた。


「コレはどういう事だ! 話が全く違うではないか!」


「いやはや、まさかあんな面倒な病気、初めて見ましたな」


 病的なまでに蒼白い男が額に浮いた汗を拭きながら、ふんぞり返っている男の前に立っている。

 教会が送った治癒師は、全く役に立たない所か逆に感染して死亡し、現場を混乱させていたり、浄化は成功したと言いつつ、去った後で爆発的に感染が広がって村が壊滅したりと、散々な結果となっていた。


「クソッ! このままでは国からの支援が減ってしまうではないか!」


 男が巨大な腹を揺らしながら立ち上がり、ウロウロと歩き出す。

 教会がここまでこの国で自由に動けたのは、その浄化の力を使って凶作をどうにかしていたのとは別に、貴族を裏から支配して支持をさせていたからだ。

 しかし、今回の奇病の件以前から、魔女なる謎の人物によって、教会が行う浄化よりも効果の高い魔道具が僻地にばら撒かれ、教会が気が付いて回収する事が出来なかった。

 何とかこれ以上拡散する前に『魔女は悪であり、その道具も悪しき力を利用している物で危険である』として、封じ込めようとしているが、上手くはいっていない。


 だが、今回の件で教会の権威は完全に失墜した。

 教会に従う様、様々な方法で貴族連中を懐柔してきたが、今回の件でその全ての貴族が失脚。

 中央から僻地へと飛ばされてしまった事により、教会に都合の良い方へと国を動かせなくなった。


「如何致しましょう、流石にあのような病気は聞いた事もありませんが……」


「ううむ………そうだ! それだ!」


 男が何かを思い付いたかのように手を叩く。

 そして、ニヤリと笑みを浮かべ、椅子へとドカリと座った。


「今回の奇病は魔女が広めた自作自演、という事で噂を広めるのだ」


 男の考え付いた案と言うのは、魔女が病気の元になる呪いをうっかり広げてしまい、解決する為に自分で動いただけ、と言う若干苦しい物だった。

 だが、コレを教徒に少しずつ噂と言う形で広めさせる事で、魔女への期待を落とし、教会の権威を盛り返そうとしたのだ。


「それに娘の件がある限り、王は敵対は出来んだろうしな」


 現在、王の一人娘が重い病気を患っており、その治療の為に教会を頼っているのだ。

 かなり重い病気で、現在は安定させるので精一杯なのである。 

 最も、治せたとしても治すつもりは教会には無いのだが。



 そして、教会による魔女バッシングが密かに行われ始めたのである。



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