咲く花散る花 ②

 入学式の翌日は、A組からC組の生徒が体育館に集められ、実際の戦に用いる剣の扱い方についてのレクチャーを受けることになっていた。

 これからしばらくの間は稽古に励むことになる。いきなり実戦から始まるわけではないのだ。

 皆体操着に着替えて体育館に集い、何が始まるのかとざわついている。


『皆さん、おはようございます。そして、入学おめでとうございます』


 突如として体育館のステージ上に小柄な少女が現れた。身体は半透明で、生身の人間でないことが窺える。おそらくホログラムの技術を活用して作られたのだろう、と陶香は推測した。腰まで垂れた桃色の髪、星屑を閉じ込めたような丸い瞳。ぴっちりと身体のラインに沿った紺のスーツに身を包み、微笑を湛えている。幼い外見とは裏腹に、やけに服装は大人びていた。

『わたくしは私立桃谷学園専用特殊AI一号と申します。みなさんは気軽にモモコと呼んでください。ここではわたくしが皆さんの先生みたいなものなのですから、わからないことがあったらすぐにわたくしを呼ぶように。校舎内でしたら、どこへでも駆けつけることができます』


「そう、指導教官はAIで事足りる時代ってこと」

 陶香の真横に立っていた生徒がぽつりと呟く。親指と人差し指で顎を支えながら、「それにしても、長かったな」とよく分からないことを言っている。


(何? 独り言?)


 陶香は不審に思いながらも、聞こえないふりを貫く。さりげなく距離を置き、再びモモコの方を見る。

『さて、先日お配りした練習用の剣は今皆さんのお手元にありますか? 本日はそちらの剣の簡単な使い方を覚えてもらいます』

 言われて、陶香は懐から剣を取り出す。思っていたよりもだいぶ軽い。見た目は日本刀を模したものだと思われるが、触れてみるとさほどの強度はなかった。刀身は特殊な材料で作られているらしく、人体を傷つける心配はないとのことである。

「この学園においてモモコは絶対なんだ」

 いつのまにか、先程の生徒が陶香の前に立っていた。腰まで垂れた長い髪と、埃の被った宝石のようなゴールドの瞳が印象的だった。


 真正面からじっと見られている。


 今度は明らかに陶香に話しかけているようだ。

(どういうこと?)

 妙に腹が立ってきた陶香は、思い切って顔を上げ、

「あの、私に何か?」

『それではまずペアを作ってください』


 モモコに遮られ、思わず意識が逸れる。

 再び正面に目を向けたときには、例の生徒の姿は煙のように消えていた。

「あれ……」

 きょろきょろと視線を彷徨わせるも、それらしき姿はどこにもない。

(本当に何だったの?)

 首を傾げながら、ゆっくりと歩き出す。周りではすでにペアができつつあった。

(これは、乗り遅れてしまったかも)

 まずいことになった、と思いながら下唇を噛んでいたとき。


 一人の生徒が陶香に向かって手を振っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る