63日目-最終日(6/15-16)

 6月15日。曇り。

 今日は朝から妹と母が本土に向かう。残された私は母のぶんの家事を請け負う。奇跡的に朝早く起きれて、朝ごはんを食べ、洗濯物を干す。祖父母とお茶をして、お昼の焼きそばを作る。

 焼きそばは正直好きではない。味がどうというよりは、トラウマの一部である。実家にいる時、土曜日のお昼ご飯によく作らされたメニューが焼きそばだった。

 私のぶんの焼きそばをひっそり少な目に盛り(作った人特権である)、おじさんにおよそ2人前超の焼きそばを盛る。

 その後、「ひとりでいても暇だろうし」とおじさんが映画のDVDを貸してくれた。クリストファー・ノーラン監督の「テネット」である。同監督の「インセプション」は見たことがあったが、こちらも「インセプション」同様、やや抽象的で難しいが、伏線回収が見事な作品だった。映画一本を頑張って観終わったのは久しぶりだった。

 しばらくして弟が帰って来る。祖父母は老人会の清掃に行っていたので、珍しく弟と二人きりである。たまにはお姉ちゃんらしいことでもしてやろうかねと、煙草を買いに行くついでにお菓子を買ってやった(あとで弟が祖母に報告して祖母に喫煙ばれしそうになった。たぶんばれてるけど)

 映画を見終わってすぐ、昨日のぶんも含めた洗濯物の山を弟と片付け、すぐ夕ご飯の準備。途中で母と妹が帰って来る。洗い物大臣は、がんばったぶん今日はお休み。

 あとは日記を書いて寝るだけだなー、と待ったりしていた時。


「ハネアリが来た!」


 B29が来た!ばりの緊張感で、弟が連呼する。すぐに臨戦態勢に入り、窓を閉め電気を消し、防空壕(奥の部屋)へ。その日は戦闘解除が終わって、友達と電話をした後、お風呂も入らないうちに寝てしまった。



 6月16日。離島でゆっくり過ごす最後の日。

 今日も朝から叩き起こされ続け、10時ごろようやく起きる。今日は荷造りをする予定。だったが、車をつかえるのは午前中だけと言われ、急いで買い物へドライブ。

 帰ってきてお昼を食べる。車がどうしても諦めきれなかった私は、おじさんが仕事で使っている車を奪おうと試みる。ハイジャックである。おじさんはしぶしぶ頷いてくれ、午後もドライブが叶った。

 車で一時間ほどの隣町。海沿いの国道をまっすぐ走ったところの先、自動車学校の近くに、ずっと行きたかったケーキ屋さんがあった。目的地は30kmほど先。海沿いの道も走りたいと思っていた。初めての長時間ドライブである。

 自動車学校に寄り、「お世話になりました、おかげさまで免許とれました」と報告。ばらばらと拍手をもらう。ケーキ屋さんはイートインがやっていなかったから、お持ち帰りでケーキを買う。帰りに海沿いの小さな休憩所により、ケーキを食べ、お土産を買って帰宅。帰ったら夕方である。

 夕方からは夕飯の準備。大きなアジを三枚おろしにした。「初めてのわりに上出来」とほめられた。

 それから、釣りに行くおじさんに便乗して再び運転。狭くてぐねぐねの道ももう怖くない。舗装されているから。海岸沿いでおじさんを下ろし、近くの駐車場で駐車を試みる。ひとりでやるのは初めて。何度も切り返したが、アドバイスなしですごくきれいに停められた。浮かれて写真までとってしまった。

 おじさんは鱚を狙っていたが、波が荒くゴミしかかからない。最後の最後で小さくカニだけかかったのを見て、「今日はだめだな」と15分くらいで切り上げる。

 帰ったら夕飯がそろそろできる頃。準備のお手伝いをして、今日はみんなで夕ご飯。私はほろよいを飲んだ。これでもう運転はできない……。

 さあ、今度こそ荷造りをしなくては……。部屋の片づけのためのゴミ袋も用意して、準備が整ったとき。


「ハネアリが来た!」


 デジャヴである。


 最後の最後の思い出はハネアリ色に染まった。


 離島生活は今日でおしまい。明日には出立である。

 だが、最終話にはならない。もう一回だけ、振り返りをかねて更新しようと思う。



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