10日目(4/23)魔王のいない教習所

 4月23日。今日は7時置き。8時5分に教習所から迎えのバスが来る。早起きで頭がぼんやりしっぱなし。たまには起こされずに好きなだけ寝たい。一人暮らしで一番居心地がよかったのは、いつ寝ても起きてもよかった点だなあと思う。祖母に「遅いねえ」と言われたり、母にたたき起こされたり、チビたちの「遊ぼう」攻撃を受けることもない。朝の静かさが恋しい。

 早く寝ればいいのかもしれないけれど、やっとやることができるのがたいてい夕飯の洗い物が終わってからだから、必然的に夜更かしが多くなる。

 教習所までは車で1時間弱。せっかくの海沿いの道を寝ながら通り過ぎる。

 

 入校式で諸々の説明を受け、適性検査を受ける。間違い探しや、枠にひたすら三角形を書いていくのや、簡単な計算問題。なんだか公務員試験でも同じようなのをやったなと思いだす。

 実は私は、教習所を途中まで通ってやめてしまったことがある。実家の車がマニュアルだったのでMTで免許を取る予定だったのが、実家を出たためモチベが下がってしまった。それからインフルエンザになったり期末試験とライブが重なったりで、ずるずると行かなくなってしまった。大学を卒業できなかったら私の最終学歴は教習所中退になるところだった。

 その時通っていた教習所には、「俺、生徒になんて呼ばれてるか知ってる?『魔王』」とドヤ顔で言ってのける若い男性講師がいた。魔王は自称ドSなだけあって言い方も教え方も厳しく、何かミスをした時は、何も言われず補助ブレーキを踏まれ、「なんで止まったと思う?」などと意地悪く笑われたりした。私はこの魔王が苦手だった。助手席に乗せている時はいつも緊張と警戒心で集中力が削がれ、余計に魔王をいきいきさせるはめになった。

 島の教習所には魔王はいない。教え方が丁寧で優しい人ばかりで、なかなか居心地がいい。学科もオンラインで手が空いている時にできるし、乗車の時間割も事務が勝手に組んでくれるという親切ぶり。最初に行った教習所より格段にやりやすい。

 とはいえ、車に乗るのは3年半ぶりくらいだろうか。運転の仕方もきれいさっぱり忘れており、エンジンがかかるのもブレーキを離すのもアクセルを踏むのも全部が怖かった。恐る恐るアクセルを踏んでは「もっとスピード出して」と横からせっつかれる。カーブのたびにクリープ現象だけで進もうとするので、亀の歩みのようなのろのろ運転である。だってアクセル踏むの怖いんだもん。自分でも驚きのおっかなびっくり、チキン運転ぶりである。

 停車場に車を停める練習の時も、一回目に左に寄せすぎて段差にぶつかってから、二回目以降は距離を詰めるのが怖く、目安より大幅に離れるばかり。

 今回とろうとしているのはATとはいえ、少しは身体が運転を覚えているかなと思ったが、全然そんなことはなかった。車、怖い。ただ、MTのクラッチ操作よりは何倍も楽だった。あれはすぐエンストさせていた記憶しかない。


 二時間連続で乗車をし、帰りは夕方。家につくと自分でもわかるくらいぐったりしていた。しかし私の留守を我慢していたチビたちは、帰った途端に「お姉ちゃん!」と目の色を変えて飛びついてくる。ぴえん。

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