第五膳 問い『おでかけとちらし寿司』
朝起きて『おはよう』のあいさつをするのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。
タマの返事は相変わらず『ニャー』だけど。
朝ごはんを人のために作ったのも久しぶり。
今日の晩御飯は何しようかと心がワクワクしたのも久しぶり。
なにが食べたい? そう聞くのも久しぶりだった。
そして返ってきた答えに固まったのも久しぶりだった。
タマが満面の笑みで、世界崩壊前に書籍化されたわたしの修行時代の苦労話を面白おかしく書いたエッセイのとあるページを開く。
『ちらし寿司』
それがリクエストだった。お、おう。ちらし寿司ね。
なかなか難しいリクエストで。
まぁ寿司よりはハードルが低いか。いや、むしろ高いか?
ムー大陸のせいで世界が変わり、新鮮な生魚を手に入れることが格段に難しくなったからだ。
しかし、どの程度本格的に作るかにもよる。
そもそもちらし寿司っていろいろ種類があり過ぎるし。
とにかく見た目はきれいに仕上げたいところ。
と、そんなわたしの胸中を知るはずもなく、期待に目を輝かせて見上げてくる。
その様子からして、ちらし寿司には何やら思い入れがありそうな様子だった。
そういえば、ちらし寿司を作るなんて何年ぶりだろう?
娘タマヨの誕生日でありひな祭り、どれだけ忙しくとも毎年作ってあげたな。
そもそも具材は何を入れてたんだっけ?
毎年違ったからな。
どれも喜んでいてくれた気がする。
刺身系の具材は大丈夫なのかな?
これだけ頭を使う料理も珍しい。
そうだ。それをいっぺんに解決する方法があった。
「よし、今日は一緒に買い物に行こうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます