第5話「最愛」最終話・微ざまぁ

5話「最愛」最終話・微ざまぁ



「わたくしがお嬢様を塔からさらった証拠が残らないように、この国を焦土に変えてから旅に出ましょうか?」


「だめぇぇえええ!! 

 善良な市民もいるから、市民を巻き込まないで!」


「そうですか、では王宮だけ廃墟に……」


「善良な使用人もいるから止めてっ!」


「それもだめなんですか?

 ではターゲットを第一王子とエーベルト侯爵夫妻とミア、それからお嬢様を虐めた同級生と使用人、お嬢様が第一王子に断罪されるのを傍観していた教師に絞り、塔の上から逆さ吊りにしてやりましょう」


それはちょっと見てみたいかも?


「それとも全員まとめて極寒の地に連れていき、薄く氷のはった湖に放り込んでやりましょうか?」


心臓麻痺起こして死んじゃうやつ!


「それとも活火山の火口に放り込んで……」


「ストップ!

 私は別に復讐したいわけじゃないの!」


本当は父と継母とミアとフンベアト殿下の頬を、思いっきり殴ってやりたい。


卒業パーティで私が断罪されるのを笑って見ていた元同級生と学園の教師に、バケツ一杯分の激辛ハバネロジュースを飲ませてやりたい。


でも、そんなことをしても一時的な気が晴れるだけ。


いつか、一時の感情に任せ報復したことを後悔する。


「ライが私を迎えに来てくれた。

 ライが私の無実を信じてくれた。

 それだけで充分幸せだよ」


「お嬢様、なんと心の広い!

 わたくしは感銘を受けました!

 分かりました、復讐はまたの機会にいたしましょう。

 その時まで楽しみはとって置きましょう」


あれ? これはもしかして、私の言いたいことがいまいちライに伝わってないのかな?


「皆様には、お嬢様がお世話になったお礼のお手紙を書いて送付しておきます」


手紙? まあ手紙を送るぐらいならいっか。


「では、参りましょうかお嬢様」


「ねぇライ、お嬢様って呼び方止めよう。

 私たちその……こ、婚約してるんだし」


「そうですね、では今からアリッサお嬢様のことを『アリー』と呼ばせていただきます」


「いっ、いきなり愛称で呼ぶのはずるい!」


私のことを「アリー」と愛称で呼んだのは、亡くなった母ぐらいだ。


父には「お前」、元婚約者には「おい」と呼ばれていた。


「頬を染めるも愛らしいです。

 このままわたくしが敬語を使うのをやめたら、はどのようなお顔をなさるのでしょう?

 ねえ、?」


「ちょ、愛称を連呼しないで!

 心臓に悪いわ!」


愛称で連呼されただけでもドキドキしてるのに、タメ口まで使われたら、私の心臓がどうにかなってしまうわ!


「そうですね。

 このままアリーの心臓が止まってしまっては困りますから、それはまた別の機会にいたしましょう」


ライが青い瞳を細めクスリと笑った。


「ライ、昔より意地悪になった?」


「わたくしは子供の頃から変わっていませんよ。

 アリーの前では猫をかぶっていただけです。

 嫌いになりましたか?」


「ううん大好き」


「そんな可愛いことを言われると、我慢できなくなってしまいます」


ライは私の顎をクイッと上げ、私の唇に自身の唇を重ねた。


口づけは徐々に深くなっていく。


ライが私の後頭部を抑え角度を変えて、何度もキスをした。


らいの唇が私から離れていったとき、私の心臓が口から飛び出すんじゃないかってぐらいドキドキしていた。


「さっきから下の方が騒がしいね。

 塔を兵士が取り囲んでいるのかな?」


二度も爆発音がしたのだ。


夜中とはいえ城の中は騒然としているだろう。


「逆ですよアリー。

 ドラゴンを見た兵士が逃げ出しているのですよ」


「えっ? 戦いもしないで?」


「この城の兵士は腰抜け揃いなのでしょいう」


「ああ、なるほど」


第一王子がへなちょこだと、城を警護する兵士もそれなりなのね。


「参りましょう、アリー。

 アリーを傷つけた者が大勢いる場所に、アリーをいつまでもおいていけません」


「うん」


ライは私をお姫様抱っこすると、ブラックドラゴンを一体呼び寄せ背に飛び乗った。


塔の高さは三十メートルはあるから、飛び乗るときちょっとだけ怖かった。


これから冒険が始まるんだって思ったら、それ以上にわくわくした。


「ねぇライ、これからどこに向かうの?」


「アリーはどこに行きたいですか?」


「私は海が見たいわ」


「なら、奇麗な海のある国に行きましょう」


「うん!」


「ブラックドラゴン、南方の海に向かって飛べ!」


ライの命令を向けたブラックドラゴンが、咆哮を上げ、翼を羽ばたかせる。


私たちを乗せたブラックドラゴンの後を、他のドラゴンさんたちが付いてくる。


城があっという間に遠ざかっていく。


嫌なこともあったけど、お母様や、ライや、ライの両親との楽しい思い出も沢山ある。


でも今日でさよならだね。


バイバイ、ヨナス王国。












これはずっと後で知ったことなんだけど、ライはヨナス王国の王族と貴族に、

「いつか必ず報復するから首を洗って待っていろ」

という文面の手紙を送ったらしい。


ヨナス王国の王族と貴族は、私が塔から脱獄した日、空を覆い尽くすドラゴンの大群をバッチリ目撃している。


脅迫状の内容にびくついても仕方ない。


ライから脅迫状が届いてからというものヨナス王国の王族と貴族は、夜中に物音がしただけで、

「兵士を呼べ! 敵襲だ!」

と騒ぐようになり、昼夜を問わず一人でトイレに行けなくなったらしい。


王族と貴族は目の下に大きなくまを作り、生きた屍みたいな顔をしているらしい。


それからヨナス王国では、大人用のオムツが売れるんだとか……。


もう、ライったら私に内緒で何やってるのよ。





――終わり――






読んで下さりありがとうございます。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「お迎えに上がりました、お嬢様」  まほりろ @tukumosawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ