「お迎えに上がりました、お嬢様」 

まほりろ

第1話「幽閉」

1話「幽閉」



「お迎え上がりました、アリッサお嬢様」






そう言って彼は優雅にほほ笑み、塔に閉じ込められていた私に手を差し伸べた。




☆☆☆☆☆





思えば今日は災難続きだった。


卒業パーティで婚約者の第一王子のフンベアト殿下に婚約破棄を突きつけられ、

腹違いの妹ミアを長年に渡り虐めていた濡れ衣を着せられ、

フンベアト殿下に侯爵令嬢の身分を剥奪され、

裁判にかけられることもなく、罪人を入れる北の塔の最上階に幽閉された。


幽閉された部屋にあったのは、簡易な椅子とベッドのみ。


入り口には鉄格子で出来た扉、高い位置にある小窓には鉄柵がはめられていた。


小窓から入ってきた冷気が私の体温を奪っていく。


床は石造りだし……夜になったらかなり冷え込みそう。


私は室内にある簡易のベッドに腰を下ろした。


ずっと清掃されていなかったのか、ベッドはホコリだらけで、纏っていた赤いドレスにホコリが付く。


卒業パーティのために王宮から贈られてきたドレスは、第一王子の瞳の色と同じ赤い色をしていた。


赤は好きな色ではないし、私の銀色の髪には赤いドレスは似合わない。


だが私のドレスは全てミアに奪われてしまったので、卒業パーティに着ていけるドレスが他になかったのだ。


王妃様から私宛に届いたドレスなので、有り難く着させて貰った。


王宮から届いたドレスを、今回に限りミアが奪わないことに違和感を抱いた。


あの時もっと警戒するべきだったわ。


卒業パーティで私を断罪するためには、私を卒業パーティに出席させなくてはいけない。


だから今回ミアは、私宛に届いたドレスを奪わなかったのね。


妹を虐めていたという理由で断罪されると分かっていたら、卒業パーティになんか出席しなかったのに。

 

私が腹違いの妹のミアを虐めていたという事実はない。


むしろエーベルト侯爵家で、継母と妹から虐めを受けていたのは私だ。


卒業パーティが国王陛下と王妃殿下が不在な時に行われると知ったとき、嫌な予感はしていたのよね。


四年前、母が亡くなった。


半年後、父は愛人と再婚した。


父と愛人との間には腹違いの妹がいた。


妹の年は私の一つ下。


そのことを知ったとき、私は最悪の気分だった。


私がフンベアト殿下と婚約したのは、それから半年後のこと。 


フンベアト殿下は私の髪の色を「銀髪なんて白髪みたいで気持ち悪い」と言ってけなし、ミアのふわふわのピンクの髪を「綿飴みたいで可愛い」と言って褒めた。


フンベアト殿下はミアと二人でお茶をしたり、買い物に行ったり、お芝居を見に行ったりしていた。


フンベアト殿下の婚約者が、ミアだと思っていた貴族も多いだろう。


私が断罪され兵士に取り押さえられたとき、ミアはフンベアト殿下と抱き合っていた。


兵士に引きづられパーティ会場を後にする私を見て、ミアは邪悪な笑みを浮かべていた。


完全にミアにはめられたわ。


フンベアト殿下とミアは、国王陛下と王妃殿下の留守中に私を処刑するつもりなのだろう。


「私、殺されるのね……」


言葉にすると急に現実味を帯びた気がして、恐怖で体が震えた。


自分の体をきつく抱きしめたが、震えは収まらない。


国王夫妻の帰国予定は明後日。


私が処刑されるとすれば、きっと明日……。


私は明日までの命なのね……。




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