7、色の数を数えてみる
その晩
男が目をつけたのは
千鳥模様の唐櫃だった
いっぺんでいいから
高貴な姫君が着るような
かわいい妻が
言っていたから
自分一人で盗みに入る腕もない男は
盗人仲間に誘われて
強盗に入った屋敷で
螺鈿細工の美しい唐櫃に目を止めた
盗賊団に加わっての盗みは
奪った品物を集合場所に集めてから
その夜の手柄に応じて分配する決まりだ
持ち逃げは許されない
ならば
この大きな唐櫃を
まるっと奪って行けば
働きは大きいのではないか
望みの品を渡してもらえるのではないか
むしろひ弱な部類の
つまらない悪人でしかない男は
かなり無理をして
唐櫃を肩に担ぎ上げた
死にそうな思いで走り出て
早々に逃げ出す仲間に交じって
小路をひた走る
重い荷物を担いでいるので
徐々に逃げ足は遅くなる
仲間に取り残され
背後からは
それでも男は
荷物を捨てなかった
捕縛の手が伸びてくる
そこで男を助けたのは
身軽に太刀を振り回す少年だった
少年に背中を押され
どうにかこうにか
検非違使を巻いて
集合場所の松の下にたどり着いた
死にそうな思いで
男が運んできた唐櫃の中からは
とりどりの衣装や装飾品があふれ出た
息も絶え絶え
かすむ男の目では
色の数を数えてみることもできない
その場で何も言い出せなかったものの
男には
中でもいっとうきらびやかな
蝶と鳥の文様の袿と
家に持ち帰れば
妻は涙を流して喜び
ある日
貴人と間違われたのか
人さらいに連れ去られ
行方がわからないままになった
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