夢を見させておくれ

 老婆は盤石に満ちていた。

 枝のような掌にはまだ体温があった。

 公園。

 秋も散り散りに枯葉は赤黄赤と重ね重ねに土を覆ったり覆わなかったり。

 僕は手紙を取り出したように少し白い息を潜めて問うてみた。

 「お婆さんお婆さん。ここにいては冷えてしまいますよ」

 老婆は盤石に満ちていた。

 けれども幸せそうに目を閉じて、僕をちっともみてはくれなかった。

 そうして僕は心配になったので誰か家族が見つけに来るまでベンチで隣に座ることにした。

 しばらく会話はなかった。

 老婆は盤石に満ちていた。

 そうして録音を再生するように、瞳を閉じたままに白い息ももはや出ないほどに、しかし確かに命が篭った声で


『夢を見させておくれ


 そう言った。


 僕は何故か、そっとベンチから立って公園を出た。

 公園の木々は葉っぱを全て落として冬を待つ。

 やはり老婆は盤石に満ちていた。

 僕は考える。

 胎児が生命の木々を夢見るのならば、晩秋の老婆は一体どんな夢を見るのかと。

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