探偵・四十住椿の事件~音に宿るもの~
文月ゆら
プロローグ
一年前、俺の元に依頼が舞い込んだ。
依頼主は、七海由衣。
彼女は、大学の同級生と海に行ったが、サークル仲間の一人が意識不明の昏睡に陥った。
彼女はそれを“呪い”だと判断し、俺の元へやってきた。
話を聞き、彼女を視て俺は、それが“霊障”であると突き止め、祓った。俺のことを覚えられていると、後々面倒になる。だからもちろん、関わった全員の記憶も消した。
だが、翌日、彼女は俺の元へ再びやってきた。
「昨日はありがとうございました」
この一言が、彼女は昨日の出来事を全て覚えていると物語っていた。
「覚えているのか?」
俺はそう尋ねた。彼女は「もちろんです」と返事する。
まさか、覚えているはずがない。俺が使ったのは“忘却の術”だからだ。これを使われた人間は、俺と会っていた間のことすべてを忘れる。今までもそうだった。だが、彼女は紛れもなく覚えていた。
そして俺は、そんな彼女に不思議な
俺が“第六感”と呼ぶもの。
彼女はそれを持ち、自分が巻き込まれたものが呪いだと分かったそうだ。
そんな彼女は俺と似た境遇で、思わず「俺の助手になれ」なんて口走った……。
「私、椿さんの助手になります!」
と、彼女は乗り気に。そして同居生活が始まった。
が……、それは楽しいものではなく、むしろ母親と過ごしているかのような感覚に陥る……。
そんな矢先、俺に再び事件が舞い込んだ。
神隠し。それが今回の依頼だった。
小学生が次々に行方不明になっている。事件性はあるものの証拠がなく、まるで神隠しのように消えたと。
その事件を担当していたのが、俺の幼馴染で、ある意味兄弟で、刑事の鷹斗だった。
彼は小学生の時に自分も神隠し事件に遭っている。
捜査を続ける上で記憶を取り戻すんじゃないかと思ったが……そうでもなかった。やっぱり神隠しに遭った人間は、その間の記憶がないらしい。
あれやこれやあって、神隠しは俺と鷹斗の同業者であることが分かったが、まさかの由衣が巻き込まれた。
彼女がいなくなったことに猛烈な不安と後悔と恐怖を感じた俺は、父を呼んでいたらしい。
父は教会の神父で、陰陽道を使える、俺の育ての親。そして鷹斗の育ての親でもある。
父は、彼女がすでにこの世にはおらず、あの世にいると言った。
俺はそんな由衣を取り戻すべく、あの世へと飛ぶ。
だが、疲労は凄まじいもので、あの世から帰ってくるときに同業者で犯人の術にやられていたらしい。それを見抜いた父は、俺を生き返らせるべく、自らの命を俺に残し、この世を去った。
俺を殺し、父を殺した犯人が俺は許せなかった。
術を仕掛け、自らが俺のところに来るよう仕向け、俺は彼を殺した。
そして、事件から一年が経過。
俺はようやく普通の生活に戻った。術と心労とで、まともな生活が送れるような体じゃなかった。
俺は由衣も鷹斗も遠ざけた。だが、二人は離れることなく、いつもそばにいた。
鷹斗に限っては、この事件を刑事としての立場で解決し、まさかの異動になった。
警視庁に栄転らしく、そこの新設部署に今回の捜査班とともに移動だとよ……。
結構なこったと思っていたら、なんと鷹斗は俺の家に同居……いや、居候するらしい。
なにが悲しくて、三人で暮らさなきゃなんねえんだ……と、嬉し悲しい感情が……。
とりあえず、数日は平穏な日々が続いたが……ほら、また由衣が怒ってる……。
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