食卓の魔法
@MIKU-2nd
第1話 始まりは突然に
「えええっ??ここは……?」
私は呆けた様子で目を覚ました。
本来ならば、いつも通りの生活、日常が始まるはずだった。
でも、今日は違う。
なぜなら、前世の記憶を持って目覚めたから。いや、前世と言うのだろうか?
日本の30歳だった私は寝て起きたらここにいた。
何を言ってるいるのか意味不明だろう。
だって、本当に昨日の夜、ベットに入って寝たはずなのだ。
そしたら、ここで目が覚めたのだ。
今流行の異世界転生とは少し違うと思う。
だって私は、日本で暮らした記憶もあれば、こっちの世界での記憶もきちんとあるんだから。
なんて言えばイイんだろう。
『両方とも私』みたいな??
だからの人格の上に上書きされる感じじゃなく、両方自分自身なのだ。
だからこそ、私は驚くより先に、あっけに取られてしまった。
どっ、どうしてこうなった!?
もう一人の私である、佐々木 穂香はどうなったの?
死んでしまった?
いやいや、普通に寝ただけだし。
仕事も定時に帰れる職場だったので、過労死は考えられない。
日本での両親は今頃どうしてるんだろう。それだけが気がかりである。
生まれて30年、未だに実家暮らしの私は家事もほとんどしてこなかった。
ホントに親不孝だったよなぁ……
まあ、それを言うなら、こっちの世界でも同じか……。
この世界での私の名前は、ルナ.マクルセ、割と裕福な商人の娘である。17歳。
兄弟は2歳上に兄がいる。将来的には兄が家を継ぐのだろう。
裕福な商人家庭なだけあり、3人だけだが身の回りのお手伝いをしてくれる者も雇っている。といっても、エスタ家の3人だけなのだが。彼らは家族揃って、マクルセ家で働いているのだ。
なので、こちらでも家事はほとんどやった事がなかったりする。
私は頭を押さえながらノロノロと起き出した。ベットの上でじっとしてても仕方がないからだ。窓からは、優しげな朝の陽光が降り注いでいた。
食堂に降りていくと、家政婦のマコムが笑顔で挨拶してくれる。
「お嬢様、朝食の用意ができてますよ。」
「わかったわ。急いで顔を洗ってくる。」
洗面所に向かいながら、ちらりとテーブルの上を確認する。
今日の朝食は、目玉焼き2個に、ベーコン、サラダ、そして焼き立てのパンね。
うん、美味しそう。
私は現金なもので、朝食を見ると、途端にお腹が空いていることに気付く。
まあ、穂香のことは、今考えても何も解決しないわね。
『楽観主義』これが私の長所であり、短所でもあるのだ。なるようにしかならないか、と私は無理やり自分自身を納得させた。
「おはようルナ。もう皆食べ終えたわよ。」
「おはよう。今日は何をするんだい?」
この世界の両親に声をかけられる。
両親はもう食後の紅茶を飲んでいた。
お父さんは、紅茶を飲みながら、商談の資料を読んでいる。
いつも通りの日常だった。
「ルナはねぼすけだからなぁ。これじゃあ、春休みが空けたら、起きれなくなるぞ。」
これは兄である。
そう、このサラドレン国では、貴族学院以外に、裕福な市民が通える国立学院がある。
市民の中でも、高等国立学院まで進学できる財力があるのは、ほんの一握りしかいない。
約半数の民は、小等国立学院までだ。
では、もう半数の民は、どうしてるのかというと……。学校自体に通えていない。すなわち、読み書きが出来ないのだ。
主に、農村地域の住民がそれに該当する。
幼い子供であろうが、今日を生きるために働かねばならない現実がある。
もうお分かりだろうか。
サラドレン国では、貧富の差が激しいのだ。
貴族は、裕福な暮らしを求め、税という形で富を集める。
豪華な暮らしをする為なら、農村地域の民か飢えようが関係ない。
農村地域の民の命より、自分たちの豪華な暮らしを守る方がより重要なのだ。
逆に農村地域では、民は飢えに苦しんでいる。必死に働いても、税として貴族に取られ、手元にはほとんど残らない。
逃げ出す国民もいるが、結局行く宛もなく、野垂れ死んでしまう。
貴族によって殺されるか、野垂れ死ぬかどちらかである。
遅かれ早かれ、最終的には結末は変わらないだろう。
今までの私なら、それが普通だった。だから、何も考えてもいなかった。
そう、中級階級である私でさえ、こんなものなんだと思っていた。
いわゆる、感覚が麻痺していたとでも言うべきか。考えてもみてほしい。生まれた時からそうやって、当然のように社会の仕組みが成り立っていたら、そんなものだと思ってしまう。
ただ、今の私には、昨日までとは決定的に違うものが存在する。
私は知ってしまった。日本の社会を……。
そりゃあ、地球だって、根強い貧困問題は存在する。日本は豊かな国だけど、外国には貧しい国だってあったのだ。
でも、地球には、ほんの微力ながら、それを救おうとする団体もあったのだ。人道支援という形で……
私は、暫く考えたあと、さっきの父親の質問に質問で返す。
「……お父さんは、今日は何をなさるのですか?」
一瞬驚いた表情を見せたが、カップを置いて、私に応えてくれる。
えぇ、そりゃあそうでしょうよ。いつもの私なら、友達と遊びに行くとか、新作の洋服を見に行くとか…そんな予定しかなかったわよ。
「今日はほら、見てご覧。国境地帯にある小さな山を買ったんだよ。そこを視察しようと思ってる。」
とチラチラと書類を降ってから、私に手渡してくれる。
そういえば、そんなことを言ってたような。
お父さんの商団は、サラドレン国と、国境を面している2国、ルヴァンダ国、ミラトリア国と交易をしている。
貴族による関税が高く、その取引国との間にある土地を購入するのが、悲願の願いだったんだ。
貴族にとっては、長い目で見ると、半永久的に関税を回収できる方が良いはずなのだが、今の領主は今さえ贅沢できたらそれで良い人物だった。
それを逆手に取り、お父さんの商団は一世一代の買い物をしたというわけね。
お陰様で、我が商団の経理は、火の車だったりする。
それでも、十分に満足できうる結果になったのだという。
昨日までの私なら、理解できなかったけど、今日からの私なら理解できるわ!
長い目で見よ!って事よね。
「じゃあ私も連れてってちょうだい。ちょうど、春休みで暇だし。」
私はお父さんにお願いしてみた。
私の家は、ちょうど国境近くの大きな街にある。その山も、この街からそんなに遠くない。馬車で、2時間くらいだろうか。
「付いてきても良いけど、山だから何もないよ。イノシシだっているかもしれないし。」
お父さんは、心配そうに言う。
私も負けてはいない。
「ユラシーズも、兄も、同行するのでしょう?なら、何とかなるでしょ?」
ユラシーズとは、マコムの父親である。
マコムと母親のレリールは主に家事を。
父親のユラシーズは、護衛と警備を。
だから、私も当然のように、ユラシーズの名前も出す。
結局のところ、娘に甘い父親は仕方ないなぁという風にため息を吐き、条件付きで同意する。
「絶対に私達のそばを離れないと約束するね。それと、馬車に戻るよう指示したら、必ず従うこと。いいね?」
今日の予定は決まった。
私は、置いていかれないように、慌てて、朝食を食べ、出掛ける用意をするのだった。
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