我が魔法の師匠……セラ様

 後の事はあの少女に任せてわしはリングの傍で活躍を見守っていた。


 ――結果


 わしは、この後の人生を全て捧げても良いとすら思える師と呼ぶべき存在を見つけてしまった。

 魔法を研究し魔法の高みへと登っていたはずのわしが、そのわしが畏怖する存在がそこには在った。


 まず結論から言っておくと、モーブリスとの戦いはまるで戦いにすらなっておらんかった。


 開幕と同時に魔法で吹き飛ばすと同時にアイスアローで動きを拘束する様は鮮やか過ぎて「うひひひ」と変な笑いが出る程じゃった。

 いや、それだけでなかったの。こんな異様な状況に何故か審判からストップがかからず試合が続行しているのを訝しんでわしが審判の方を見ると、審判の様子がおかしかった。

 あの少女は審判に消音魔法を使ったのか、それとも沈黙魔法でもかけて沈黙状態にしていた様じゃった。

 

 それにしても……こんなに鮮やかに、こんなに手際良く、こんなに的確に、こんな魔法の使い手はいただろうか? 今の時代には当然おらんじゃろうし、過去の英雄達が活躍した当時ですら早々いないレベルだとわしは勝手に思う。

 

 そう勝手に思ってるわしの勝手な推測だが、恐らくあの少女は高位の魔法も使えるじゃろう。

 魔法精度からしても桁違いの精密さを持っておった。

 となれば、一つ気になる事がある。それは何故に低級の魔法を使っていたかという事になる。

 モーブリスに使ってた初手の魔法はエアとアイスアローで以降甚振り続けている時も低級の魔法ばかりだった。


 ここから導き出される答えは、制御のし易さと発動の早さに重点を置いているからじゃろう。

 いや、もしかしたら……エアとアイスアローを使った際のあれは遥か昔に失われてしまった多重詠唱と呼ばれる物をセットに使っておるのやもしれない。

 何故なら一瞬であんな芸当は不可能じゃからな……

 

 むぅ……それにしても考えれば考える程にあの少女の魔法の才には驚かされる事ばかりじゃ……

 無詠唱魔法に多重詠唱これだけでも教えを乞うだけの価値はある。


 それにしても、魔法の道とは実に険しい物よ。

 わしが50年かけてきた真逆にその答えがあるとは思いもよらなんだ。

 わしがここまで積み上げてきた物は、高位の魔法やより上の存在の魔法ばかりじゃったが、冷静になって考えてみればこんなものを使う機会などあるまい。

 無論今までのわしの研究が無駄になるとは思わんがな……


 

 さて長々と考え込んでしまったが、この武闘大会の後にわしはあの少女セラ様に教えを乞うとしよう。

 わしの財貨の全てを投げうち、生涯を捧げてでも教えを乞いたいものじゃ……

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