最低な誕生日プレゼントと追放の日

 両親と兄、姉から拒絶された日から十年の月日が経過した。

 セラは美しい女性へと変貌を遂げていた。

 顔からは幼さが抜け、透き通るような長い銀色の髪、健康的な褐色の肌、スレンダーな肉体の持ち主になっていた。


 そのセラだが、厨房の前に立つ二人の衛兵にこっそりと自分の作った燻製肉を渡して自分の部屋へと戻ってる最中だった。


「今日はのんびり部屋で休もうかな?」


 そう一人呟いて部屋に戻ると、そこには普段セラの顔を見るだけで顔を背ける両親の姿があった。

 その両親は普段なら絶対に浮かべないであろう笑顔だった。

 この様子には流石にセラも不審がる、何故なら十年間一度として部屋に来る事がなかったのに急にだからだ。


「お父様、お母様、今日は私に何かご用ですか?」

「なに、今日はお前に誕生日プレゼントを渡そうと思ってな」

「そうです。今日は誕生日ですからね」

「本当ですか! お父様! お母様!」

「ああ、本当だとも」

「本当ですよ」


 セラは、さっきまで不審に思ってたのも忘れ二人からの誕生日を祝う言葉を聞いて喜んだ。

 十年間無視が続いたとはいえ、きちんと誕生日を覚えててくれて、両親は笑顔だったのだ。

 もしかしたら、これからはまた家族一緒に暮らせるのかもしれないと思ってしまった。

 ……だが、その淡い期待も次の言葉で粉々に砕かれる。


「お前にプレゼントをやろう、金貨二枚とこの屋敷からの追放だ」

「――えっ!?」

「聞いていなかったのですか? あなたに金貨二枚と追放をプレゼントします」


 淡い期待と分かってはいたが、改めて言われると流石のセラも悲しみのあまりに涙を流す。


「成人まで我慢してやったんだ有難く思えよ。金貨二枚はせめてもの情けだ」

「ああっ清々します。これで無能がいなくなるんですもの」

「……」

「ほら、さっさと出ていけ。ああ、それからカンテミール家の名前は使うな」

「……わかり……ました」


 促され部屋の外へ出るとそこには、アンティとアンナの姿があった。


「お兄様、お姉さま……」

無能セラをやっと追放か、長かったぜ」

「そうですわね、塵芥セラがやっといなくなりますわ」


(こんなに嫌われてるなら私はここに未練は残らないし、皆の事も忘れよう)


 ……誕生日にセラは追放された。


 このセラの追放が原因で、後々にカンテミール家が没落する事になるとは、この時セラを追い出した四人には知る由もないのであった。


 セラはこの十年間で自分を磨きに磨き上げていた。

 それこそ常人ならとっくに音を上げるような過酷な環境で、幼い時から、それこそ文字通り血反吐を吐きながら生き抜いたのだ。

 そういった人間は強いのだが、カンテミール家の人間は、其れが理解できていない。

 表面上のセラの召喚獣が雀といった部分だけに拘り、セラという人間の本質を見ていなかった為にみすみすセラという有能な者を手放してしまったのだ。

 これがまだ多少也とも誰か一人でも家族として扱って気にかけていたのならば、セラの流出はなかったのかもしれないが、そういった扱いをしていなかった時点でお察しだろう。

 結果カンテミール侯爵家の人間は、最終的にセラの才能と自分達の無能さを比較され没落させる事になる。

 だがそれはまだ先の話でセラも、カンテミール侯爵家の人間も分からない事である。


 ともあれ、セラは追放されてしまったのである。

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