第32話  女王

「そういえば時間制限はどうするの?」

「あっ、チェスクロック忘れてしまった」

チェスクロックは対局時計とも言う。

「はぁあ何やってるのよもう」

人差し指をおでこに押しつけながら呆れたようにため息をついた喜奈は言う。


対局時計は両対局者の制限時間を管理する時計だ。だからちゃんとした対局では大事だが、なぜか存在感が薄い道具である。


どうしたものかと悩んでいると—

「あぁ時計か、俺の棚にあった気がするからちょっと探してみるよ」


綾人さん神すぎる……これから師匠と呼ばせてもらいます。


「っふふ、ふふーんふーんっ」

綾人さんを待っている間に何故か喜奈が肘を机について顎を支えた状態でこちらをニコニコ眺めている。

しかも鼻歌を歌っているし足をバタバタさせている音が聞こえるからさぞかし機嫌がいいのだろう。


何かいいことでもあったのか?

と聞こうとした時、綾人さんが戻ってきた。


「おっ、ほらあったぞ。最近対局で使ってないから随分埃まみれになってるがな。ははっ!」

愉快そうな笑い声と共に持ってきたのは、案外新しい機種だが、使ってないせいか埃まみれになったチェスクロックだった。


フーッっと上を吹くとかなり埃が飛びそうなので、ティッシュを軽く濡らして拭いた。

こういうのは吹いた方が雰囲気が出て好きだが鼻に入った時くしゃみが止まらなくなるので避けたい。



もう駒は並べ終わっているから時計の時間を設定するだけでいい。

「2時間切れ1分でいいか?」

「いいよ」

時間は適当に設定した。正式な勝負で設定するべき時間なんて知らないし、俺は時間はあまり気にする人ではない。


そして今回時間を適当に設定したのにはもう一つ理由がある。


——おそらくからだ。


目の前の可憐な少女に殺される未来が見える。

自分は駆け出しの、相手は三段。

たった一段の差とえいえど侮れない。


段差はただの実力の証明じゃない。

自分より段級が上の人に勝つのは珍しくない。

けどこういうのはプレッシャーの問題だ。


自分なりに伸び伸びと指していれば勝ってたはずなのに、段級が上だからと勝手に脳内の相手を強く想像しすぎてしまって自分が転ぶ。


そういう心の問題はよくある。

いや……それこそ問題だ。

喜奈の本当の実力が分からないから勝手に警戒しすぎて頓死するかもしれない。


先手後手は歩の振り駒で決め、降った人の歩が多ければ先手となり、裏返しのと金が多ければ後手となる。


特に決まってはないがちゃんとした場では振り駒は上手の仕事だから喜奈がする。


喜奈は歩を五枚取った後チャラ…チャラ…と音を立てながらゆっくり、慎重に振る。


ぶっちゃけこれは運ゲーなのだがまるで自分の意志で決めれると思わせるほどに真剣にした。


そして手を離した瞬間、歩が一枚また一枚と歌と一緒に舞うように落ちた。

歩が三枚……喜奈の先手番。


「一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「あんたは何段?」

「……二段だけど?」

少し戸惑ったが素直に申し上げた。


それを聞いた喜奈は「ふーん」と言った様子で興味なさそうだったが、何かを決めたのか、姿勢を整えた。


——途端、喜奈の表情、仕草につられて、周囲の空気までも変わった。


「来なさい、踊ってあげる」

妖艶な笑みを浮かべたはそう言って、さらに口元の笑みを深める。

それはまるで、美しくも危険な薔薇薔薇のように。



ふぁああ作者のタヤヒシです。

今現在夜の3:26分

書き終わりました。

高評価やコメント、いいねをすると単純な作者は喜びます。

本当にこの作品だんだん将棋になってきてないか?

ラブコメ前提で来てるから多分みんなルール知らないから指してるところは飛ばそうかなと思ってる。

いやでも個人のわがままで書きたいー!!

思ったより少し進展ペース落ちるかも

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