第31話  勝負

おかしな夢を見た。

それはに出会ってない自分。

彼女に告白していない自分。

そして、彼女と付き合っていない自分。


夢の中の自分はそんなことを知らずに他の女性と恋に堕ち、結婚し、幸せそうに暮らしていた。

相手は……顔がぼやけているから見えない。


夢は時々顔が見えないのに違和感を感じないという悪戯をしてくる。


しかし夢を見ている自分はもう椎名胡桃という存在を忘れている、だからちっともおかしく思わない。

なのに誰かを忘れたけど思い出せないという違和感が襲ってくる。


「ううっ……」

そんな強い違和感に脅されて胸が疼く。


思い出せそう、思い出せそう。

けれど——

違和感にもがき苦しんでるところ、あっさり目が覚めてしまった。


胡桃……そっか、胡桃だ。

現実に戻されてからは簡単だ。

忘れた人もすぐ思い出した。

しかし夢の中といえど他の女性と幸せそうに暮らす自分に少しだけ罪悪感を覚えた。


支度した後、財布とスマホ、それに将棋盤に駒をバックに入れて出かける。

出かける理由は簡単だ。


今日は土曜日、そして喜奈と約束した対局日でもある。

喜奈の企みを知ることもなく一週間は過ぎ去った。

特に変わったことはなく……あるとすれば毎日休み時間に図書室で喜奈の愚痴を聞いてた程度。


愚痴というのはその好きな人兼セクハラ犯人についてだ。

セクハラされてんのに気になるのも意味わからないしそれを喜奈はずっと楽しげに話してたのもいっちょん理解できなかった。

最近の女子高生はそんなに進んでるのか?


約束の場所に到着する。

ここは街の一角にある和風カフェ。

あまり知られていないが和風ながらどこか現代味があってお洒落な店だ。


この店の主人は俺と同じく将棋の趣味があってその縁でここで将棋を指せるよう頼んだ。


主人の国原綾人さんはとても優しそうな顔立ちをしている白髪のおじいさんだ。俺はいつも綾人さんと呼んでいる。

奥さんの千穂さんも同じように白髪が多いがいつもニコニコ笑っているから誇張なしで軽く20歳は若く見える。二人とも60代だが活気溢れる夫婦だ。


こんな落ち着いた雰囲気と環境は将棋にうってつけだ。


奥の席に座ってしばらくすると最近になって見慣れてきた人影が現れた。

いつもと違った雰囲気の服。

水色と白がクッキー型に混ざったふわふわそうなロングTシャツに膝上まで伸びた薄茶色のスカート。その下にはタイツを履いている。


今まで見たことない大人っぽい雰囲気に少しだけ目を奪われた。

「っよ、まだ20分前なのに早いな」

「そっちこそなんでこんな早くきたのよ。私に会うのにワクワクしてるの?」

「将棋をしたいだけだしー!」

たわいのない会話が交わされ二人とも笑ってしまうが。

「さ、将棋をしましょ」

喜奈はすぐに将棋の顔になって向かいの席にゆっくり座った。


「あぁ、望むところだ!」


この前は喜奈の反則負けであっさり勝ってしまったがそれは事故だろう。


「ところで喜奈って段級どのくらいなんだ?」

パチパチと音を立てて駒を並べながら聞く。


「三段よ」


「そっかあ、さんだっ……三段!?」

これは勝てないなと絶望に浸っていると千穂さんがお茶と羊羹ようかんを乗せた皿を持ってきた。


「喜奈ちゃん三段もあるのー!すごいねぇ。よかったら夫ともやってみてねー」

将棋初心者の千穂さんはニコニコしていて俺もなんとか笑顔を保とうとしている。

が、自分でも顔が引き攣ってるのがわかる……

「大丈夫?あっ、もしかして私に恐れてるとかー?」

「んなわけっ、ないでしょ。はは」

「嘘だってバレバレだよー」

にっひひーと悪戯っぽく笑うからちょっと抵抗してみたがすぐ嘘がバレてしまったようだ。

この時の俺はもう勝つことじゃなくて既に無様に負けないことを祈ってた。





作者のタヤヒシです。

考えるより先に指任せで書いてたら、すごいことなりましたね。これ読んでる側は盛り上がってなくてなんともないかもだけど次どうするかすっごい迷ってるんです。

そしてなぜかフォロワー増えたし無理やり完結させようかとしてたけど少し迷ってきた。でも完結させる路線で今までちょっと無理やりでも書いてきたのにいきなり方向変えるのもなー。

作者はメンタルボロ弱いので、優しく今後の方向性についてのアドバイスをくれると嬉しいです。作者はメンタル豆腐以下だからね!(大事なことは二回)

そして完結させるか続行させるかで次かその次の内容が180度変わるかもしれない。

あ、誤字脱字あったら教えてくれると助かります。

この前他の作品に間違えて胡桃登場させてしまってめっちゃ恥ずかしかった。しかもそれを公開してから四ヶ月後に気づいたし。(後書き長すぎ

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