まりやとゆりの漫才調福音

すどう零

第1話 あなたは姦淫してはならない

 クリスチャンまりやと元新興宗教の被害者ゆりとのかけあい漫才調福音

 

まりや:初めまして。私は教会に長年通っているクリスチャンです。

ゆり:私は、元新興宗教で痛い目にあった宗教嫌いのゆりです。

 まりやはクリスチャン家庭に生まれ育ったの?

まりや:ううん、きっかけは小学校五年のとき、クラスメートに誘われて現在の教会に行き始めたの。いつも、近所の五人グループで行ったわ。

 初めて手を組んでお祈りをしたとき、暗闇の向こう側から細い一筋の光が見えるのを感じたわ。

 中学になってから、ご無沙汰するようになったけど、でもそのとき植えついた神の存在は私の心から離れなかったわ。

ゆり:教会の説教で印象に残った話を聞かせてよ。

まりや:小学校五年のとき、牧師の説教でね

「ある売れない無名の画家がいた。その無名の画家は、天使の絵を描きたいと思ってモデルを探していた。すると天使そのものの子供がいて、その子をモデルに絵を描くと、大ヒットし、一躍有名画家に上り詰めた。

 それから数十年後、その画家は悪魔を描きたいと思って、モデルを探していた。

 ちょうど悪魔にピッタリのカルト(強制)的やばい系の人がいて、その人をモデルに描いた。ところが、なんと昔描いた天使のモデルと、現在の悪魔のモデルは、なんと同一人物だった」という話が、今でも印象に残ってるわ。

ゆり:要するに、子供の頃天使のように無邪気だった子ほど、世間にだまされ、利用され、大人になるに従って悪魔的になっていったというわけね。

まりや:悪党や人を悪の世界に落とす人ほど、最初は親切で生活の面倒を見てくれたりすることもあるね。また聖書に「悪魔はいつも光の御使いのようなやり口をする」とあるが、絶望状態のお先真っ暗闇の人に、ふと小さな希望のようなものを与えたりするわね。

ゆり:私と親が、新興宗教のそれにひっかかったパターンだけどね。人間の悩みは、健康、金、人間関係だというが、そんな悩みのドツボにはまった人に悪魔のささやきがあるのよね。だから、私、どんなときでもカラ元気、カラ笑顔でいようと思うの。

まりや:うん、それがいいよ。私もゆりを見習わなきゃね。

ゆり:ここだけの話、私はちょっと前まで、入信していた新興宗教は不倫がやたら多かったわ。夫人は会合とかでしょっちゅう家を空けるでしょう。家庭不和になったところで、男性が歯の浮くような甘い言葉をささやくのよね。

「あなたのような美人が、家庭に縛られあひるのような一生をおくるよりも、白鳥の如く、もっと美しくはばたこうよ。一度しかない人生、あなただけの輝きを世間に知らしめなきゃもったない、生きているうちが華だよなーんてさ」

まりや:私も言われたことがあるわ。あなたの顔は死んでいるとか、病気が治るとかね。まあ、溺れる者をもワラをも掴む人もいるでしょうね。

 でも、女性だったらお世辞とわかっていても、きれいとか可愛いとか言われると、舞い上がっちゃうわね。

ゆり:女性を落とそうと思ったら、まずきれいとおだて上げ、クッキーの一枚でもプレゼントすればOKかな? ねえ、ここだけの話、私、内緒で不倫してたの。

まりや:えっ、でも今は別れたでしょう。

ゆり:どうしようかな。今、別れようかどうか迷っている最中。だって、彼ったら優しいし、いつも私を綺麗とか可愛いとか、本当はクレバーな女性だとかってほめてくれるし。そりゃあ、デートはいつも単身赴任の彼の部屋だけど、でも一線はまだ超えてないわ。

まりや:それだったら、まだ不貞とはいわないわね。姦淫というのは、一線を超えた不貞を意味するからね。だから独身同士の同棲でも、不貞なのよ。

ゆり:まあ、そういえば、同棲というのは、女性の方が妊娠したとき、男性は「中絶しろ」という捨て台詞を吐き、カバン一つで出て行ったらそれで終わりだものね。

 まあ、世間でいう不倫とは、妻子持ちと付き合うだけでも不倫という噂をたてられるわね。実際、奥さんから慰謝料を請求されたという話は聞いたことはあるわ。

まりや:それだけ妻の座は強いということよ。ねえゆり、ゆりの相手の妻子持ちは、よく奥さんを不細工で家事もなにもできない女だなんて言わない?

ゆり:えっ、どうして知ってるの? うちの十歳年上の古びた畳のような妻は、不細工でもう飽き飽きしちゃった。君の方がよほど美人だよって。

まりや:そういってゆりに優越感を持たせようとしているんだよね。人は自分をおだててくれる相手を、いい人だと思って信用し、安心しちゃうからね。

ゆり:そうね。いい人が好かれ、悪い人が嫌われるなんて、図式はどこにもないわね。それだったら、この世に詐欺師なんて存在しない。

まりや:残念ながら、人は自分にとって都合のいい人、愛想のいい人、ものわかりのいい人、調子のいい人を好きになる傾向があるわね。

ゆり:ひょっとして私の彼のこと? すべて当てはまってるわ。でも、彼と一緒にいると承認欲求され、自信がわいてこれからの人生、輝くかもしれないなんて希望がわくのよ。

まりや:私は教会に通い、イエス様に祈ると自信がわくわ。イエス様はね、私たちの罪の身代わりになって十字架にかかってくださったの。

 そして、どんなときでも、私たちを見守って下さるわ。洗礼を受けると、たとえ私たちの方から神から遠ざかり、神を忘れても、不思議と神は私たちを見守って下さるわ。

ゆり:本当? じゃあ私、神を信仰したら不倫から卒業できるかな?

まりや:早く卒業しなきゃダメよ。不倫体質になったり、不倫の匂いを漂わせるようにならない前にね。

ゆり:不倫体質ってどういう体質なの?

まりや:要するに、不倫恋愛しかできない、不倫恋愛専門女性になっちゃうわよ。

だって、不倫ってすでに家庭があるということが前提の遊びなのよ。

 妻がたんすや机のような必要不可欠な家具なら、愛人はその上にチョコンと乗っている生け花のような存在。家具はなくては生活していけない。家具のために働いているけど、生け花はあってもなくても困らない。まあ、あった方が、家具も引き立つというものだけど、花びらが枯れた時点で捨てられてしまう、はかない存在でしかないのよ。

ゆり:じゃあ、私は彼の引き立て役ってわけ?

まりや:まあそうね。独身男性、特に若い独身男性だったら、女性をほめても嫌われるんじゃないかという恐れがあるけど、妻子持ちだったら、バカにされようが嫌われようがいっこうに傷つかないから、甘い言葉で誘惑するの。

「君を永遠に愛してる」とか「今日はきれいだね」とかね。

ゆり:私、中学の時ぽっちゃり体形だったでしょう。子豚などとしつこくからかいにくる男子がいたわ。そのときの心の傷がまだ残っているせいかな。綺麗という言葉に弱いの。

まりや:本当にゆりが嫌いだったら、無視したり避けたりするはずじゃない。

からかいにくるということは、ゆりに振り向いてほしかったからじゃないかな?

ゆり:えっ、そうだったの?


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